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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2023.09.01

福利厚生の開発力で会社を変える:ベネフィット・ワン 代表取締役社長 白石 徳生×タナベコンサルティング 若松 孝彦

福利厚生の開発力で会社を変えると語るベネフィット・ワン白石社長とタナベコンサルティング若松

 

人的資本経営を支える「サービスの流通創造」

従業員満足度を向上し、健康経営やスキルアップを促進する総合型福利厚生サービス「ベネフィット・ステーション」の運営で、1000万人を超える法人会員を有するベネフィット・ワン。売上高約423億円、従業員数約1500名の東証プライム上場企業である。人的資本が企業経営の重要テーマとして語られる今、BtoEのリーディングカンパニーが描く未来とは。

 

「サービスの流通創造」を目指して

 

若松 ベネフィット・ワンは1996年の設立以来、長年にわたるBtoE(Business to Employee:企業が社員に提供するサービス)ビジネスを通して成長されました。今では福利厚生を軸にHR(人的資源)関連の多様なソリューションを提供しています。まさに「BtoEサービスの流通モデル企業」です。当社もサービスを利用させていただいております。

 

ベネフィット・ワンは、もともと社内ベンチャーとして設立されたと伺いました。その設立者が白石社長ですね。

 

白石 当時在籍していたパソナグループの社内ビジネスコンテストで優勝し、翌年の1996年に設立しました。ちょうどインターネットが一般に普及し始めた年です。事業コンセプトは「インターネットを活用してサービスのマッチングプラットフォームを構築する」というものでした。

 

私が実現したいと思ったのは「サービスの流通創造」です。インターネットが普及する前のサービス業は、宣伝広告費に投資できる企業がシェアを独占しがちでした。モノのように卸売りや小売りといった流通の機能が存在せず、「売ったもの勝ちの世界」だったのです。

 

しかし、それではサービスを公平に比較検討できませんし、広告費や代理店手数料が上乗せされる分、顧客の負担が増えてしまいます。そこで、良質なサービスを仕入れて、卸売価格による市場最安値で法人会員に提供する共同購買型のプラットフォームを構築できれば、サービス業界の健全化につながると考えました。

 

若松 インターネットビジネスの先駆けです。サービスの卸売りという発想は実にユニークです。

 

白石 いわば「ビジネスパーソンの生協」です。設立当時の社名はビジネス・コープでした。福利厚生のアウトソーシングサービスとしては先行企業が2社ほどありましたが、根っこの部分は異なると思います。

 

最初に売り始めたサービスは宿泊です。私たちと同じ年に創業したインターネットサービスの会社として、Expedia(エクスペディア)やBooking.com(ブッキングドットコム)などが挙げられますが、いずれもBtoCの宿泊予約サイトでした。

 

一方、私たちが着目したのは、バブル崩壊後に福利厚生施設を手放さなければならなくなった企業です。1997年以降、山一證券をはじめ金融機関が相次いで経営破綻したことを背景に、固定資産の減損会計が導入(2006年3月期から強制適用)され、大手企業は資産価値が下落してしまった一等地の保養所やテニスコートなどを売却せざるを得なくなりました。競うように充実させてきた福利厚生を、今後どうしていくのか。当社はそこに新たなマーケットを見いだしました。

 

若松 福利厚生施設を単独で保有するのではなく、複数の会員企業で共同利用するということですね。固定資産の価値や会計基準の変更、サービスに対する価値観の変化など、時代の大きな転換点を捉えたソリューションです。具体的にはどのようなビジネスモデルなのでしょうか。

 

白石 当社は顧客企業から社員数に応じた月会費をいただきます。顧客企業の社員がサービスを利用する際は、企業から福利厚生費として何割かの補助金を出していただく。そうすれば、社員の方々は市場最安値でサービスを利用できる。企業にとっても、固定資産として保有するより負担は大幅に少なくて済みますし、サプライヤーであるホテルや旅館側も代理店手数料や宣伝広告費をかけずに集客できます。

 

その後、スポーツ、グルメ、レジャー、育児、介護など次々とサービスを開拓していきました。設立2年目の1997年には、企業から付与されたポイントを使って社員が自由にサービスを選べる選択型福利厚生制度「カフェテリアプラン」をリリース。顧客企業の事務負担を減らすために、各店舗での自動決済サービスも開始しました。

 

若松 まさにサービスの流通革命です。転換期であるということはチャンスであると同時に、新しい企業にとってはピンチでもあります。新サービスの開発や会員数を増やすにはご苦労もあったかと思います。

 

白石 各社がすさまじい勢いで福利厚生を縮小している時代でしたので、売りにくいビジネス環境でしたね。社内ベンチャーとして「2年以内に単月黒字化しなければ清算する」という撤退ルールがあったのですが、24カ月目に単月黒字化しました。

 

ブレイクスルーのポイントは、ターゲットを社員1000名以上の大企業に絞ったことです。企業の負担が軽くなる福利厚生サービスということで、当初は中小企業のニーズが大きいのではないかと予想していたのですが、実際に営業してみると、「福利厚生なんて必要ない」「そんな余裕は一切ない」という反応でした。社員満足度を向上させようという意識は、人手が余っていた当時の中小企業にほとんどありませんでした。

 

若松 サービスの流通革命であったが故に、有料会員限定のプラットフォームという点はハードルが高かったのではないかと推測します。

 

白石 おっしゃる通りです。Amazonに代表されるように、広告収入を柱とするプラットフォームが主流のインターネット黎明期においては、完全に逆張りの戦略でした。ただ、私は起業するなら絶対にストックビジネス、それも先の見通せるサブスクリプションサービスでいこうと決めていました。私の実家がネクタイ製造業を手掛けており、手形取引のリスクを目の当たりにしてきたからです。開拓期は確かに大変でしたが、社員数が万単位の企業との契約が決まると一気に軌道に乗りました。

 

若松 2004年に総会員数100万人を突破して株式上場。以降は、スケールメリットを生かして指数関数的に会員数を増やしてこられました。2022年には総会員数1000万人を突破。総務省統計局の「労働力調査」によると2023年5月の就業人口は6745万人ですから、就業人口のおよそ6人に1人がベネフィット・ワンの会員ということになります。

 

白石 当社の推計によると、福利厚生アウトソーシングサービスは現在全体の26%まで普及しています。近年は正社員のみならず、非正規社員やパート・アルバイト、外部委託先などの待遇改善が問われるようになり、中小企業でも福利厚生サービスを導入するのが当たり前になりつつあります。数年以内には30%を超えるでしょう。

 

 

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