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【研究リポート】

人的資本研究会

人材を投資により生産性を高められる「資本」として捉え、人的資本と活育サイクル(採用・育成・活躍・定着)の視点で事例研究を進めます。
研究リポート2024.04.30

企業価値を向上させる人的資本経営:株式会社パーソル総合研究所

【第1回の趣旨】
企業が経営環境の変化に対応しながら持続的に企業価値を高めるためには、事業ポートフォリオのみならず、人材ポートフォリオの構築や、付加価値を生み出す人材の確保・育成など経営戦略と適合する人材戦略が重要である。
当研究会では、「事業と連動した経営戦略×人材戦略の最大化」を探求している。第1回は、「企業価値を向上させる人的資本経営」について、パーソル総合研究所シンクタンク本部上席主任研究員の佐々木聡氏にご講話いただいた。

開催日時:2024年2月29日(東京開催)

 

 

株式会社パーソル総合研究所
シンクタンク本部 上席主任研究員 佐々木 聡 氏

 

 

はじめに:日本企業の人事部門を取り巻く環境の変化

デジタル中心のビジネスモデルへの転換により、これまでの日本型雇用では成り立たない環境となった。日本の強みであったOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)も、仕事環境の変化で効果が限定的となった。組織への帰属意識の代わりにキャリア自律が原動力になるなど、会社と個人の新しい関係性も構築されつつある。人材投資の根本的な発想を変える人的資本経営への期待が高まっている。


佐々木氏が考える会社と個人の新しい関係

 


 

まなびのポイント 1:人的資本経営とは

人的資本経営とは、人材を「資本」と捉えその価値を最大限に引き出すことで企業価値向上につなげる経営の在り方を指す。

 

人的資本は株主価値(時価総額)に直結する指標として、企業価値に影響を与える時代となり、世界各国では人的資本開示の義務化がはじまっている。ステークホルダーの関心が高い11項目・58指標で構成される人的資本開示のガイドラインとして、「ISO30414」が設けられたことから、世界初の人材マネジメントに特化した国際基準として注目を集めている。株主資本主義からステークホルダー資本主義へ移行する中で、企業と投資家が重視する中長期的な投資・財務戦略においてはズレが生じている。


世界各国の人的資本開示に関する政策動向

 

まなびのポイント 2:経営戦略と人材戦略の連動

パーソル総合研究所「人的資本開示に関する実態調査」によると、「経営戦略と連動する人材戦略が策定できている」という質問に対して、「あてはまらない」「どちらともいえない」と回答した上場企業の役員層・人事部長は40%を超える。また、同社は12名の有識者へ人的資本経営に関するインタビューを実施しており、経営戦略と人材戦略の連動について特設サイトで公開している。

 

経営戦略と人材戦略の連動性強化のためには、経営戦略と人事戦略のつながりのストーリー化や、経営企画・ファイナンスなど関係部門間のコミュニケーション強化、人事・経営企画・財務・事業企画の連携強化など、人事と現場のコミュニケーション強化がポイントとなる。

 


出所:パーソル総合研究所「人的資本情報開示に関する調査」

 

まなびのポイント 3:企業の実態と人事の在り方

同社主催の人事研究会においては、経営戦略と人事戦略が連動できていない要因について、企業の実態として部門内の連動を目指すのがやっとの状態であることや、人材戦略を描けておらず施策のムダ打ちになっている可能性が高いこと、などを挙げている。

 

また、人事担当者同士が普段から人材戦略について話し合う機会を設けていなかったことや、人事部に強い権限があり社員との距離感が遠いことなど、人事としての行動変容が必要とされている現状も提言している。

 

人事が経営と職場の結節点であることを自覚した上で、各事業部とのコミュニケーションをつくり、社内IRの企画を立てるなど、人事の在り方の見直しが求められている。

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