TCG REVIEW logo

100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【研究リポート】

SDGs・ESG経営研究会

2030年までの成長戦略は、環境・社会・経済のサステナビリティへの挑戦です。SDGs・ESGを通してサステナブルなビジネスモデルの再構築について学びます。
研究リポート2024.04.24

ゼロ・ウェイスト社会実現に向けた四国一小さな上勝町の挑戦:BIG EYE COMPANY

【第4回の趣旨】
2030年に向けた戦略構築においてサステナブルというキーワードが非常に重要になる。SDGs・ESG経営研究会では、「未来の社会課題を解決するための新たな事業を創造する」というテーマのもと、ビジネスとしてSDGsに取り組んでいる先進的な企業を紹介する。
第4回・1日目は、焼却・埋め立てごみをゼロにするという目標を掲げ「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った、徳島県勝浦郡上勝町の「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」を訪問。同施設を運営する株式会社BIG EYE COMPANYの大塚桃奈氏に講演いただいた。

開催日時:2024年3月26日(徳島開催)

 

ゼロ・ウェイスト社会実現に向けた四国一小さな上勝町の挑戦:BIG EYE COMPANY

 

株式会社BIG EYE COMPANY
Chief Environmental Officer 大塚 桃奈 氏

 

 

はじめに

 

徳島市から車で1時間弱の山間部に位置する勝浦郡上勝町。人口1,400人弱の“四国一小さな”自治体である。

 

同町は、葉っぱを販売する“葉っぱビジネス(いろどり事業)”で注目されてきたが、実は、2003年に日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行い、それを実践する自治体としても世界中から注目を集めている。

 

住民はごみをゼロ・ウェイストセンターへ持ち込み、13種類45分別にも及ぶ分別を自ら行う。また、まだ使えるものはセンター内「くるくるショップ」に持ち込み、逆に欲しいものを持ち帰ることができる。

 

その結果、80%を超えるごみリサイクル率を達成している。

 

「くるくるショップ」での取り組みを説明する大塚氏
「くるくるショップ」での取り組みを説明する大塚氏

 


 

まなびのポイント 1:町民主導の取り組み

 

先述の通り、上勝町におけるごみ処理の主役は町民である。

 

これは、町の歴史の中で積み上げられてきた、「小さな町を守るために、住民が主体的に行政に参加する必要がある」という文化が根付いていることが背景にある。

 

上勝町はかつて、主産業であった林業の衰退、寒波による柑橘類の全滅などを経て、「いろどり事業」の創設に至った。ここには「町を何とかしたい」という町民の意思と実行がある。

 

ごみ問題においても同様である。元々同町にはごみ処理施設がなく野焼きが行われていたが、法規制や公害問題の表面化により、対策が求められるようになった。限られた税収の中でこれらに対応するために、町民が主体的にごみを処理する方法が取られることとなった。この取り組みを支えるために、行政サイドとしても、住民向けの勉強会やイベントなどを開催し、理念・活動の後押しを行っている。

 

まなびのポイント 2:数字による効果の可視化

 

いかなる活動も効果が見えることで現状の立ち位置を確認することができ、目指すべき方向が見えてくることは言うまでもない。

 

上勝町ではごみを分別することによる効果を町民に数値で示している。例えば金属類はリサイクルが可能であるため、回収されることで税収入を生み出す。逆に、電球や蛍光灯は水銀を含むため処分するのにコストがかかり、税支出に直結する。このような指標が、ほぼ全ての分別においてセンターで明示されており、どのようなごみを“出さないべきか”など、ごみやリサイクルに対する意識醸成にもつながっている。

 

また、「くるくるショップ」においては、リユースされたモノの「重さ」が指標となる。持ち帰るものの重さを測り表示することで、どれだけのごみが削減され、リユースされたのかを実感できる仕組みになっている。

 

このように、効果の可視化が、町民の取り組みを促進する源泉となっているのである。

 

ごみ分別スペース。ごみ処分による税支出と、各ごみがどこで処理されるのかが明示されている
ごみ分別スペース。ごみ処分による税支出と、各ごみがどこで処理されるのかが明示されている

 

まなびのポイント 3:PDCAを元に活動の輪を世界へ広げる取り組み

 

これまでに説明した取り組み以外にも、上勝町ではポイント還元制度の導入など、さまざまな形でゼロ・ウェイストへ向けた町民の取り組みを促進している。

 

一方で、20年余に渡る活動の中で、課題も顕在化している。

 

ひとつは、高齢の方のごみ持ち込みの負担をいかに軽減するか。もうひとつは、リサイクルが難しい「20%」のごみをどう処理するか。

 

この解決策のひとつとして、そもそもごみを出さないこと、そして、リサイクル可能な製品を開発し流通させることが必要となる。

 

上勝町では2020年にゼロ・ウェイスト宣言を見直し再発信すると同時に、ゼロ・ウェイストセンターを開設。センターはごみ処理施設・くるくるショップ以外に、セミナールームや宿泊施設など、ゼロ・ウェイストを学び体験する機能を兼ね備え、ゼロ・ウェイストの理念を世界へ広げる活動を展開している。

 

大塚氏は次のように語る。

「ゼロ・ウェイストは1つの手段。資源の循環が生まれ、人々の交流が生まれる」

 

ごみ処理の先を見据える「理念」に基づく活動であるからこそ、世界に共感が生まれている。

 

ゼロ・ウェイストセンターのごみ分別スペース
ゼロ・ウェイストセンターのごみ分別スペース

SDGs・ESG経営研究会一覧へ研究リポート一覧へ

関連記事Related article

TCG REVIEW logo