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【研究リポート】

SDGs・ESG経営研究会

2030年までの成長戦略は、環境・社会・経済のサステナビリティへの挑戦です。SDGs・ESGを通してサステナブルなビジネスモデルの再構築について学びます。
研究リポート2024.02.28

フードロス問題、再生エネルギー調達。社会課題の同時解決を実現する循環経済型モデル:日本フードエコロジーセンター

【第3回の趣旨】
第3回は、ビジネスモデルそのものが社会課題解決に直結する2社から、ESG経営の実践の現場を学ぶ。
研究会2日目に視察に伺った株式会社日本フードエコロジーセンターは、「食品ロスに、新たな価値を。たべものの「環」をつくります」というスローガンを掲げるフードロス問題解決の第一人者である。
同社は、本来廃棄されるはずだった食品を「食品循環資源」として捉え、独自の乳酸発酵処理を施した液状飼料として再生・製造する事業を基幹事業としている。
また併設するさがみはらバイオガスパワー株式会社は、メタンガスを再生化エネルギーに再生する施設である。株式会社日本フードエコロジーセンターの飼料製造と連携して、飼料化に向かない原料をメタン発酵用として仕向け、ガス発電機にて電力に変換、東京電力に売電する事業を展開している。
食・エネルギーという人間にとって必須の資源を、循環経済型モデルにて生み出している同社の取り組みから、多方面へ社会価値を提供するビジネスの在り方を研究する。

開催日時:2024年1月26日(東京開催)

 

 

株式会社日本フードエコロジーセンター
さがみはらバイオガスパワー株式会社
代表取締役 髙橋 巧一 氏

 

はじめに

 

日本フードエコロジーセンターは、食品リサイクル事業の先駆者として循環経済を実現する業界トップランナーである。食品工場やスーパー・百貨店など、190以上の食品関連事業所から「食品循環資源」(廃棄食品などの食品残渣)を収集し、発酵技術を利用して液体飼料「エコフィード」に加工する仕組みを確立、再生飼料製造事業を展開している。

 

工場における仕分け業務においては、生産性の高さを見込み安定的な障碍者雇用体制を確立。併設するさがみはらバイオガスパワーでは、直近の新しい取り組みとして、飼料化不向きの食品廃棄物をメタン発酵させ、バイオガスから電力に転換する再生化エネルギー事業を展開、現在3割ほどの稼働を実現している。

 

このような先進的な取り組みについて、日本はおろか世界の先端企業も注目しており、連日視察希望が絶えず、代表取締役の髙橋氏自ら視察案内を対応。また大学生の研究場所としても人気が高く、受け入れを積極的に行っている。社会全体をステークホルダーと捉えた貢献性の高い取り組みを多方面に展開している。


日本フードエコロジーセンターの再生飼料化ビジネスモデル概略図


 

まなびのポイント 1:フードロス解決・畜産経営支援・障碍者支援を同時に実現

 

畜産経営の最大の課題の1つが、昨今深刻化している穀物高騰による飼料費の増大問題である。一方、食品ビジネスのあらゆる場面でフードロスが問題視されており、廃棄物処理による外部不経済性の高さ(①焼却に対する税金投入、②化石燃料の高騰、③CO2排出問題、④最終処分場の不足等)が浮き彫りになっている。

 

日本フードエコロジーセンターでは、食品廃棄物を燃やさず飼料として再生するビジネスモデルを確立。パンくず、米飯、牛乳、野菜果物のくず、生地など飼料化に向くもので、かつ食べ残しではないものにこだわり「食品循環資源」として各食品事業従事者から収集、独自の乳酸発酵処理を施した液状飼料として再生・製造している。

 

製造過程で発生する包装パッケージのはがし作業等については、障碍者を積極起用し、高い生産性を発揮しつつ安定雇用する仕組みを導入。上記プロセスで製造した飼料「エコフィード」を食べて育った豚が、食品事業会社へ出荷され、ブランド豚として市場に供給される仕組みを提供し、同社は循環経済の要として機能している。

 


エコフィード:環境にやさしい(ecological)、節約(economical)などを意味する「エコ」と、「飼料」(feed)の意味を併せた言葉で、食品廃棄物を利用して製造された家畜用飼料のこと

 

 

まなびのポイント 2:飼料製造とバイオガス活用を両立させた超循環型再エネ生成モデル

 

同じく髙橋氏が代表取締役を務めるさがみはらバイオガスパワーでは、併設する日本フードエコロジーセンターと連携し、無駄を出さない超循環型事業モデルを展開。日本フードエコロジーセンターでは、食品工場・スーパーから排出される「食品循環資源」 を液体飼料化する過程で、「飼料化に不向きなもの」を取り除く。

 

その「飼料化に不向きなもの」に着目したのがさがみはらバイオガスパワーだ。同様の仕組みでスラリー化を進める一方、メタンガス発生装置やバイオガス発電施設を導入、電力生成に成功した。生成電力は、東電へ販売または自家発電(EV)用として活用している。

 

さらに特筆すべき点として、上記過程で畜産経営支援の取り組みが含まれる点を挙げたい。液状原料が固体と液体に分離された後、固体は乾燥させて肥料原料として再利用される仕組みまで同時に実現しているのだ。

 

この徹底した超循環型再エネ生成モデルは必見の価値がある。同社は、災害発生時に地域住民の電源ステーションとして機能できるよう自治体に申請している。今後ますます、総合エネルギーステーションとしての価値提供、社会貢献性が高まるだろう。


日本フードエコロジーセンターの飼料製造過程で発生した液状原料を、さがみはらバイオガスパワーの施設にて微生物によって発酵、メタンガスを生成し電力を発生

 

 

まなびのポイント 3:大学生への研究価値提供で質の高い採用応募者予備軍を形成

 

近年、10~20代中心に、SDGsなどをフックとした社会貢献意識の高まりが顕著である。

 

彼らは学生時代に義務教育の一環として、社会課題解決に向けた取り組みの意義や、企業の自社利潤のみを追求する経営方針が外部不経済性を高めることを学んでいる。大学時代に社会課題解決をテーマに研究を深める学生も多い。

 

日本フードエコロジーセンターでは、社会貢献意欲の高い学生の研究サポートを進めており、研究の場の提供や論文フィードバックなどを行っている。結果として意図的ではないにせよ、お世話になった学生がそのまま採用希望を出す場合も多く、優秀な人材の育成と囲い込みに成功している。

 

採用応募人財不足で事業承継問題にあえぐ中小企業が多い中、本格的にビジネスモデルとして社会課題解決をテーマに組み込むことが、採用効果につながる事例として紹介したい。

 


若い世代が積極的に就職を検討したくなるようなコミュニケーションを実施

 

 

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