TCG REVIEW logo

100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【研究リポート】

アグリサポート研究会

アグリ関連分野において、先進的な取組みをしている企業を視察。持続的成長のためのポイントを研究していきます。
研究リポート2023.09.05

バイオマスを有効活用した環境負荷の少ない循環型農業:鹿追町環境保全センター

【第6回の趣旨】
アグリサポート研究会(第7期)は、「アグリ業界の持続的成長と課題解決へ向けた生きた事例を学ぶ」をコンセプトに、先端技術の活用や新しいビジネスモデルの構築について研究し、成功のポイントを学んでいる。
第6回の1日目は、オーガニック栽培への転換により、環境への負荷を低減した持続可能な農業を目指す、折笠農場の代表取締役・折笠健(おりかさ ますらお)氏の講話を聞き、農場の視察を行った。2日目は、北海道・鹿追町環境保全センターを視察し、「一石五鳥」の効果を生み出す循環型農業の取り組みを視察した。

開催日時:2023年7月13日~14日(新潟開催)

 


バイオガスプラントを核に水素サプライチェーンの構築を目指す「鹿追町環境保全センター」

 

はじめに

 

鹿追町は北海道・十勝平野の北西に位置し、酪農と農業(畑作)と観光を基幹産業とする人口約5200人の純農村地帯である。観光客が増える中、市街地を中心に乳牛ふん尿の適正処理を望む声が高まり、生ゴミや下水汚泥処理を含めたバイオマス資源として有効活用を図るため、2007年10月にバイオガスプラントを核とした「鹿追町環境保全センター」を稼働した。

 

同センターの処理能力はバイオガスプラント94.8t/日、堆肥化プラント41.6t/日と、成牛換算で1870頭の乳牛ふん尿処理が可能である。2016年4月には2基目の「瓜幕バイオガスプラント」を稼働し、210t/日(成牛換算3000頭)と、既存施設の約2倍の処理能力になった。

 

また、同センターは、バイオガスから電気と熱を生産し、再生可能エネルギーとして有効活用している。2014年には、余剰熱を活用したチョウザメ養殖事業とマンゴー栽培事業を開始。2018年には瓜幕に水耕栽培ハウスを建設し、地域経済の活性化と雇用創出を推進している。

 

バイオガスから水素燃料を製造し、貯蔵・輸送・供給まで一貫した水素サプライチェーンの構築へ向け、次世代エネルギーの普及に注力しているのである。

 


 

まなびのポイント 1:バイオガスプラントによる「一石五鳥」の仕組み化

 

1.環境の改善

酪農家周辺の環境改善、市街地周辺の環境改善、地下水・河川の窒素負荷の低減。

 

2.農業生産力の向上

有機質肥料(バイオガスプラントの処理過程で生産される消化液)により、農作物・飼料作物の品質を向上。また、ふん尿処理にかかる労働時間やコストを大幅に低減。

 

3.地球温暖化の防止

バイオガス(カーボンニュートラルなエネルギー)から発電し、さらにその余剰熱も利用することで、化石燃料の使用量を削減。

 

4.循環型社会の形成

バイオマス資源を有効活用し、バイオガスは電気・熱などのエネルギー源として、消化液は有機質肥料として利用。

 

5.地域経済活性化の推進

新産業(チョウザメ養殖、マンゴー栽培)と雇用を創出。また、地域の悪臭問題を解決し、観光業をイメージアップ。

 


出所:鹿追町環境保全センター講演資料

 

 

まなびのポイント 2:ゼロカーボンの街づくりを推進

 

鹿追町環境保全センターに2017年に整備された「しかおい水素ファーム」は、日本で唯一、家畜ふん尿処理施設で生産されたバイオガスから水素を製造している。2015年より環境省の地域連携・低炭素水素技術実証事業として「家畜ふん尿由来水素を活用した水素サプライチェーン実証事業」を実施し、2022年に事業化。中長期的な地球温暖化対策を推進し、地域の再生可能エネルギーや未利用エネルギーを燃料電池自動車や燃料電池などへ活用する水素サプライチェーンの実証を行っている。

 

環境にやさしい水素サプライ事業を軸とした事業の深度化を図りながら、鹿追町はゼロカーボンの街づくりを推進している。

 

【家畜ふん尿から水素を作る仕組み】

バイオガス発生→メタンガス抽出→メタンガス+水蒸気→水素+一酸化炭素が発生→一酸化炭素+水蒸気→水素+二酸化炭素が発生

 

水素と一緒に生み出される二酸化炭素は、家畜のエサである牧草が大気から固定したものが由来のため、カーボンニュートラルである。


鹿追水素ファーム内の水素ステーション

まなびのポイント 3:余剰熱の利用で新産業を創出

 

同センターでは、バイオガスプラントで発生する余剰熱を熱交換器で回収して蓄熱槽に送り、蓄熱槽内の水を温めて新産業に活用している。

 

1.チョウザメ養殖事業

2014年からバイオガスプラントの余剰熱を活用したチョウザメ養殖事業に着手。最もよく成長する15~20℃に地下水を加温し、かけ流しで養殖することで、臭みがなく品質の良いキャビアや魚肉を作ることができる。キャビアや魚肉は周辺のホテルなどで地産地消されている。

 

2.マンゴー栽培事業

「一村一エネ」事業(北海道エネルギーフロンティア事業)を活用し、バイオガスプラントの余剰熱と雪氷熱を使ったビニールハウスを設置。2014年度からマンゴーの栽培を開始し、冬期に出荷することで付加価値を付け、地域産業の振興を図っている。


バイオガスプラントの余剰熱利用

アグリサポート研究会一覧へ研究リポート一覧へ

関連記事Related article

TCG REVIEW logo