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【研究リポート】

アグリサポート研究会

アグリ関連分野において、先進的な取組みをしている企業を視察。持続的成長のためのポイントを研究していきます。
研究リポート2023.07.25

持続可能な農業づくりへの貢献:ウォーターセル株式会社

【第5回の趣旨】
アグリサポート研究会(第7期)は、「アグリ業界の持続的成長と課題解決へ向けた生きた事例を学ぶ」をコンセプトに、先端技術の活用や新しいビジネスモデルの構築について研究し、成功のポイントを学んでいる。
第5回では、営農支援ツール「アグリノート」を開発・運営しているウォーターセルの代表取締役社長・渡辺氏の講話を聞き、同社の支援先でトマト栽培を手掛ける「ベジ・アビオ」の視察を行った。また、地域活性モデルとして、生産者・民間企業・行政の連携で燕三条ブランドを発信する「燕三条畑の朝カフェ」で、体験価値の高め方を実際に体験した。

開催日時:2023年5月26日、27日(新潟開催)

 

 

ウォーターセル株式会社
代表取締役社長 渡辺 拓也 氏

 

 

はじめに

2011年に創業したウォーターセルは、食を支える第一次産業におけるIT化の遅れを実感。農業に「IT・情報」の観点が加われば、農業生産や食の産業は確実に良くなるとの思いから、作業計画や実績を記録できる営農支援ツール「アグリノート」の開発をスタートした。農業現場における課題である就農者の高齢化や担い手不足、アナログ管理、高い生産コストなどに対応するために、ノウハウの継承や生産性・業務効率の向上が急がれ、経営状況の可視化と共有化が重視されている中で、自然の影響を大きく受ける農業における環境負荷軽減も、取り組むべき重要課題と捉えている。

 

同社は、こうした社会課題の解決に向け、農業情報のプラットフォーム構築を通じ、農業と食の進化に貢献することをミッションとし、生産者に役立つ「情報プラットフォーム」を提供。営農情報のデータ化、共有、連携で農業界の課題解決に取り組んでいる。

 

 


ウォーターセルの営農支援ツール「アグリノート」。作業計画や実績などの営農情報をデータ化し、共有できる

 


 

まなびのポイント 1:情報プラットフォームとなり他社と協創する

同社の主力製品「アグリノート」は、農場を航空写真マップで可視化し、農作業や圃場管理、スタッフ間の情報共有をサポートする営農支援システム。スマートフォンやタブレットからも農作業記録や作物の生育記録の入力・閲覧ができる便利さで、全国1万9000以上の組織が利用している。

 

現在は他社とのアライアンスにより、農機管理システムやドローン・衛星センシング、IoTセンサーなどとの連携も可能になり、アグリノートによってワンストップの情報共有ができるため、活用の範囲が広がり続けている。

 

さらに、アグリノートのデータを活用した自治体・企業・農業協同組合向け営農情報集約ツール「アグリノートマネージャー」では、営農指導員と生産者が一体となった効率的・効果的な指導を支援している。

 

 


出所:ウォーターセル講演資料

 

 

まなびのポイント 2:出口(販売先)から組み立てる

従来のコメ市場は需給と供給にギャップがあり、プロダクトアウトの発想が強く、作ったコメと買い手の意向にミスマッチが起こっていた。この課題を解決するために、同社は「売れるコメを作る」というマーケットインの発想で、買い手と売り手の条件をネット上でマッチングする売買システム「アグリノート米市場(こめいちば)」を開発。コメの生産者と卸売事業者・実需をつなぐ新しい市場を創造した。

 

アグリノート米市場は、事前契約と現物契約の両方に対応しており、買い手探しの手間や相場の変動リスクを低減できる。生産者の販路拡大や計画生産の実現の支援が、農業経営の安定化につながっている。

 

 

まなびのポイント 3:提供価値を高める(儲かる話にする)

コメの生産過程ではGHG(温室効果ガス)が多く排出され、環境保全の観点からみると課題がある。しかし、GHGの可視化が困難、経済的なインセンティブがないといった要因から、脱炭素の取り組みは進んでいない。

 

この現状を打開するため、同社は金融機関およびカーボンクレジット事業者と連携し、GHG排出量の算定とJ-クレジット※の効率化に取り組んでいる。アグリノートの強みを生かし、生産者と事業者それぞれが連携可能なアグリカーボンプラットホームを創設し、課題解決を図ることを目指している。

 

同社は新しい価値を世の中に提供し、協業を通じて社会課題の解決に挑戦していくことをミッションに掲げ、持続可能な農業への貢献価値を高めているのである。

 

※温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度。排出権。

 


出所:ウォーターセル講演資料

 

 

アグリノート活用事例:ベジ・アビオ

ベジ・アビオは、医療やスポーツ系教育総合事業などを手掛けるNSGグループ(本社:新潟市)の食・農業事業ベンチャーとして2016年に創業した、フルーツトマトと優良苗を行う農業法人だ。ICT技術を活用した高糖度フルーツトマトの生産や、完全環境制御型の植物工場での野菜苗の生産を手掛けており、農作業の省力化や若者の就農を支援している。

 

同社は実際にアグリノートを活用し、情報の集約や環境データの分析のほか、従業員が多種多様な作業をどの程度の割合で作業しているかなどのデータを集積・分析。代表取締役の山﨑瑶樹氏は、アグリノートでは、農薬散布はいつごろに、どれくらいの量か、どのような手順かなどを記録して振り返ることができる、次世代へのノウハウ継承システムであると説明した。

 


株式会社ベジ・アビオ 代表取締役 山﨑 瑶樹氏(提供:NSGグループ)

 

 

まなびのポイント:スマート農業の実践

(1)ビニールハウス栽培で、ハウス内には遮光カーテンや暖房機器があり、土を使わずに栽培している。新潟のトマト栽培は春作・秋作の2作が一般的であるが、1作にすることにより育成期間の2カ月を省き、労働力を効率化している。

 

(2)ビニールハウス1棟当たり約1500万円の経費がかかるが、助成金の活用により約半分の経費で賄える。

 

(3)糖度10度のフルーツトマトを栽培するため、トマトにストレスを与える。結果として、40gから15gに濃縮し、味の濃いフルーツトマトになる。

 

(4)同社のブランド「とマとマとマと」は、味の濃い糖度10度のフルーツトマトに付加価値をつけて販売している。また、季節による糖度の変化や規格外品を生かしてドライトマトやジュースに加工し、販売している。

 


ICT技術と最新鋭の農法を組み合わせ、高糖度に育て上げた「とマとマとマと」

 

 

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