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【研究リポート】

アグリサポート研究会

アグリ関連分野において、先進的な取組みをしている企業を視察。持続的成長のためのポイントを研究していきます。
研究リポート2023.07.25

農商工連携で、燕三条のテロワールを体感する「瞬間(トキ)」を提供する:燕三条「畑の朝カフェ」

【第5回の趣旨】
アグリサポート研究会(第7期)は、「アグリ業界の持続的成長と課題解決へ向けた生きた事例を学ぶ」をコンセプトに、先端技術の活用や新しいビジネスモデルの構築について研究し、成功のポイントを学んでいる。
第5回では、営農支援ツール「アグリノート」を開発・運営しているウォーターセルの代表取締役社長・渡辺氏の講話を聞き、同社の支援先でトマト栽培を手掛ける「ベジ・アビオ」の視察を行った。また、地域活性モデルとして、生産者・民間企業・行政の連携で燕三条ブランドを発信する「燕三条畑の朝カフェ」で、体験価値の高め方を実際に体験した。

開催日時:2023年5月26日(新潟開催)

 

 

燕三条「畑の朝カフェ」実行委員長
株式会社渡辺果樹園 代表取締役 渡辺 康弘 氏

 

 

燕三条「畑の朝カフェ」実行委員会 事務局 公益財団法人燕三条地場産業振興センター
燕三条ブランド推進部 企画推進課 課長 和田 貴子 氏

 

 

はじめに

新潟県・燕三条の「畑の朝カフェ」は、地域の農園主たちによって四季折々に開かれる「体験型カフェ」である。果樹園や農園で収穫体験をした後、地元の素材を使った朝食と、素材の魅力を知るシェフやスタッフとの交流が楽しめるという、“ここだけ”の体験を提供している。

 

このカフェは、燕三条の農業・農作物のブランド化を目的として2012年にスタートした異業種連携プロジェクトだ。燕三条では、コメはもちろん、さまざまな野菜や果物が生産されている。しかし、燕三条はものづくりの地域として全国的に名が知られていたこともあり、農産物の認知度が低かった。これを課題と捉えた燕三条地場産業振興センターが、地域の民間企業と連携し、燕三条の農業・農産物の価値づくりを目的として取り組み始めた。

 

ブランディングのためには、農産物の魅力だけでなく、土地の性質や生産者の気質を伝える仕組みが必要だと考え、多品目・多様性のある田畑のロケーションを活用し、燕三条でしか体験できない特別な空間を創造した。この施策により、「畑の朝カフェ」は顧客満足度の高さで多くのリピーターを獲得。県外からの申込も増え、開始10年以上たった今も毎回、定員の2、3倍の応募がある人気コンテンツとなっている。

 

 


畑の朝カフェ。開催ごとにロケーションが変わるのも魅力のひとつ。燕三条の多種品目生産という特徴を伝える役割も担う

 


 

まなびのポイント 1:燕三条の魅力を集結させた「幸せ」の提供

視察日の「畑の朝カフェ」は、シャインマスカットがなる渡辺果樹園で開催。代表の渡辺康弘氏による果樹園の説明と、一粒ずつが濃厚な味を持つようにするため果実を間引く「摘粒(てきりゅう)体験」のレクチャーから始まり、シャインマスカットの生産工程の一部を体験した。視察参加者は渡辺氏にアドバイスをもらいながら試行錯誤し、自分の作業を進めていた。こういった体験やコミュニケーションも、“ここだけ”の価値を高めている。

 

シャインマスカットは、申し込めば収穫後に自宅に届く仕組み。カフェでの体験だけではなく、作業したブドウが成長し、自分の手元に届くまで時間の流れも楽しむことができる。

 

「畑の朝カフェ」の魅力は、食事だけでなくトータルデザインされた空間にある。カトラリーや食器、テーブル、イスに至るまで「メード・イン・燕三条」でそろっている。燕三条で作られたものに囲まれ、新鮮で安全・安心なおいしい食事を楽しみ、その農産物ができるまでの過程を知り、自分が関わった農産物の完成を楽しむというストーリーがあることで、参加者に「幸せ」を提供できているのだ。

 

また、そうした幸せが、直接伝わることで、生産者・提供者の幸せにもつながっていく。このような取り組みで、「畑の朝カフェ」は2013年「グッドデザイン賞」を受賞したほか、多数の講演・メディア掲載につながった。

 

 


左上:視察当日の朝食とスムージー。品書きには、どの農園(生産地)のどんな食材を使用しているか記載。生産者の顔を思い浮かべながら食事を楽しむことができる
右上:生産者・シェフからその日の食材の魅力を直接聞くことで、顧客満足度が向上
左下:カトラリー・テーブル・イスなども「メード・イン・燕三条」でそろえられている

 

 

まなびのポイント 2:民間企業×行政で地域の魅力をつくる

「畑の朝カフェ」は、2009年開始の「燕三条プライドプロジェクト」の1企画だった。このプロジェクトは、燕三条ブランドを確立することを目的に、燕三条地場産業振興センターの声掛けで、地域の約80名の人たちが参加したものだ。

 

その中で、人気アウトドアメーカー「スノーピーク」(三条市)の代表・山井太氏と、創業200年を超える鎚起(ついき)銅器の老舗「玉川堂(ぎょくせんどう)」(燕市)の代表・玉川基行氏が、代表コーディネーターとして将来ビジョンを作成。そのビジョンは、燕三条に住むメンバー自身が、「ここに住むことに対して地域への誇りと愛情を自覚すること→その燕三条のライフスタイルに魅力を感じる人たちが、全国から地域に訪れること→その訪れた人たちの評価を通して、我々自身がさらに燕三条に対する、高い誇りと愛情を感じていくこと」という“誇り”を作っていくサイクルを表現したものだった。

 

このビジョンを基に、どのような活動をしていくかを委員会で議論し、活動内容を決めていった。そこで生まれた企画の1つが、「畑の朝カフェ」の前身となった。このプロジェクトは2022年に終了したが、そこで芽生えた企画はプロジェクトメンバーの思いによって続けられている。

 


シャインマスカットの摘粒体験。渡辺果樹園のスタッフがコツを教えてくれる

 

まなびのポイント 3:農家・地域のストーリー化(高付加価値化)

1.「モノ→コト(摘粒体験)→時(収穫に思いをはせる)」を共有する
畑の中での食事だけではなく、ブドウの摘粒体験という体験、さらにはそのブドウが育ち手元に届く流れを楽しむ“時”の体験を結び付けることで、燕三条ならではの価値を高めている。

 

2.「畑の朝カフェ」はどの地域でも展開可能
単発ではなく、「燕三条プライドプロジェクト」で練られた企画で、継続的な取り組み。行政と民間企業が協力し合い、その地域の中での連携体制をつくることができれば、どの地域でも展開できる。それが地域の誇り(幸せ)をつくる仕組みになる。

 

3.価値の「魅せ方」
(1)地域(燕三条)を包括的(点でなく面)にPRすることで、魅力を倍増させる
(2)シェフ・スタッフが直接、食材やカトラリーの魅力を説明することで、顧客満足度アップ
(3)従業員総出でサービスすることで、コミュニケーション機会の創出(全従業員が魅力を説明できるサポートが必要)

 


作業が終わったら自分の名前を記入。購入希望者には、収穫時期になると自分が作業したシャインマスカットが届く

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