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【研究リポート】

アグリサポート研究会

アグリ関連分野において、先進的な取組みをしている企業を視察。持続的成長のためのポイントを研究していきます。
研究リポート2023.05.19

農業への新規参入時の事業計画と展開手法:小林クリエイト株式会社

【第4回の趣旨】
アグリサポート研究会では、「アグリ業界の持続的成長と課題解決へ向けた生きた事例を学ぶ」をコンセプトとして掲げている。第4回は、静岡県でアグリ業界の先進事例を視察。1社目は、印刷会社から農業分野へ新規参入した小林クリエイト様より農業への新規参入時の事業計画と展開手法を、2社目は、稼げる農業のビジネスモデルを確立したHappy Quality様より、データドリブン農業で買ってくれる商品をつくる(マーケットイン発想)ポイントについてお話しいただいた。

開催日時:2023年3月23日、24日(静岡開催)

 

 

小林クリエイト株式会社
アグリ事業部 課長 松林 和幸 氏

 

 

はじめに

 

1946年設立の小林クリエイトは、オフセット印刷を中心に学用紙製品製造、卸売業など、工業製品の現場管理のノウハウを長年培ってきた。しかし印刷業は斜陽産業であり、企業成長、増収増益の実現に向けて新たな新規事業を模索していた。

 

そこで同社は、2010年より農業分野に新規参入。まずは、稼働率が低下した印刷工場を植物工場として活用。これまでの現場管理で培った情報伝達作業・情報収集作業・単純作業を「付加価値ある仕事」へ移行するべく、生育管理・労務管理システム「agis(エイジス)」を開発。現在では、本業の印刷業、完全密閉型植物工場で2品目10種類の栽培を運営しながら、アグリ事業に新規参入する事業体への参入支援も行なっている。

 

 


静岡県富士市の栽培工場では約5000株を栽培


 

まなびのポイント 1:新規参入のきっかけ

 

農業への新規参入の目的は増収増益であったが、なぜ農業なのか。背景として、次の4つが挙げられる。

 

(1)農業マーケットの拡大
就農者・後継者不足、耕作放棄地の拡大により農業マーケットの先行きが不安視され、国策として農業マーケットは拡大の見通し

 

(2)農業への新規参入時の規制緩和
企業が農地を借りることができるようになったことなど、2021年より規制が緩和された

 

(3)農業の規格化促進
GAP(農業生産工程管理)やMPS-GAP(生産工程管理認証)により、これまでの現場管理ノウハウが展開しやすくなった

 

(4)世界人口の増加
世界人口は増加傾向にあり食料生産が追い付かなくなるため、農業の需要は高まる傾向

 

 

まなびのポイント 2:新規参入後の自社事業の立ち上げ

 

現在は、静岡県富士市の富士工場の跡地を栽培工場として約5000株の製造~販売を手掛けているが、農業への参入当初の不安は営業収益の確保であった。

 

工場生産のため天候に左右されることはないが、収穫量の確保(品質の安定)、販売先の確保、初期投資、ランニングコストなどをいかに吸収するかが問題であった。

 

販売戦略として、スーパーが1割、業務用(飲食店、ホテルなど)が9割という業務用中心の戦略を採用。商品は流通量の多いもの、かつ歩留まりの良いものを中心に原価低減を行いながら利益確保を目指し、事業開始3年で一定数を超える注文が入るようになった。

 

 

完全閉鎖型工場で栽培された野菜。温度・湿度・養液・光条件などの最適な栽培環境を設備とICTで自動制御

 

 

まなびのポイント 3:自社事例を「植物工場への新規参入支援事業」として事業化

 

同社は、印刷業から農業に新規参入して得た運用実績を「植物工場への新規参入支援事業」として体系化。ポイントは、①12年の運営実績、②2品目10種類の栽培実績、③3回の移設増床工事実績、④4社栽培設備の導入実績の4つである。

 

基幹産業が斜陽産業である企業は、同社同様に営利目的で新規参入を検討している。そのような企業に対して、同社は新規参入支援事業として、①野菜生産販売の工夫、②原価低減施策、従業員育成、③運営経験、人脈の紹介④売り上げ、販路拡大などの、新規参入者が課題と感じる点を一気通貫のソリューションとして提供している。

 

営利目的だけではなく、地域の雇用創出(再雇用・障がい者雇用・寒冷地での雇用創出)や活性化(自治体・大企業)にも取り組む方針だ。

 

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