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【研究リポート】

SX / 社会体験価値

SX(ソーシャルエクスペリエンス:社会体験価値)とは、CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験価値)と同様に、感情的な価値を含めた社会からの評価を高め、自社の社会的価値を向上させる考え方である。FCCフォーラム「SX」のセッションでは、本業で社会課題の解決を目指すことによって社会と企業のサステナビリティを同時に実現する経営と、SX向上の3つのステップについてタナベコンサルティングが基本講義を行い、先進企業の事例を紹介。ゲスト2社の対談からは、地域を巻き込んで新しい体験価値を創出し、ファンづくりやコーポレートブランディングにつなげる方法を学んだ。
研究リポート2022.10.03

社会全体への体験価値をデザインする:加和太建設

 

企業価値を高める施策に7年を費やす

 

石丸 世の中にある多くの企業が単一事業で、そこから「ステップアップしたい」「社会全体に与える体験価値を高めていきたい」と考えています。ただ、多角的なサービス展開に至るステップは、なかなか一足飛びにうまくいかないのも現実です。

 

河田 タナベコンサルティングが作成した「体験価値レベルマップ」がとても分かりやすいので、これに基づいて取り組みを振り返ってみます(【図表】)。最初に行ったのがEX(社員体験価値)で、社員のエンゲージメント向上です。

 

 

【図表1】体験価値レベルマップ

出所:タナベコンサルティング作成

 

 

私の入社時はトップダウンの経営で、社長がメッセージを発信する機会もなく、社是は掲げていても誰も目にしたことがなく、人事評価制度もない状況でした。ですから、まずは「社員がそれぞれの思いを持って、みんなで同じ方向を向いて切磋琢磨しながら働いていくのが良い会社である」こと、「そうすれば自分の業務でできることも増える」とマインドセットを変えるように伝えるところから始めました。当時の社員は仕事への熱量が高く、自分がやる仕事に対してプライドもあったけど、全社視点がなく、会社組織に何も期待していませんでした。そこから変わるように、働きかけたわけです。

 

次に取り組んだのは、SX(社会体験価値)の中にあるCI(コーポレートアイデンティティー)です。企業の社会価値を向上するCIを自分たちでつくり、SXとしてソーシャルネットワークを形成しました。そして、CX(顧客体験価値)として、CIを実現するには社会とどんなつながりを持つべきかを明らかにし、BtoBの公共工事から一気にまちづくりに入っていくことが大事だと定義。そこに見合う商品・サービスを提供するために、不動産という新領域に進出しました。

 

さらにEX(社員体験価値)として、良い人材はすぐに集まらないとの前提で、継続的な人づくりのために採用・育成をしました。また、タレントマネジメントで社員と信頼関係を構築しながら、カスタマーサクセス(顧客が求める付加価値を実現すること)によるリピート客の増大にフォーカスしたことで、善循環が回り始めました。そのサイクルを他事業にも少しずつ水平展開していき、現在に至ります。この段階に至るまでには、約7年を費やしましたし、もちろん失敗もたくさん経験しました(笑)。

 

石丸 ある意味、我慢が大事なのかもしれません。

 

河田 一気にうまくいくなら誰でもやりますし、難しいからこそ、他社ができないことになります。時間をかけながら、工夫と改善をやり続けるということでしょう。自社に信念があって、実現したいことがあって、そのために必要だと思うのであれば。

 

 

手を取り合って人・まち・業界に革命を

 

石丸 加和太建設の今後の取り組みをお聞かせください。

 

河田 主に3つあります。1つ目は組織をより強くするための、マネジメント層の強化です。急激に企業規模が拡大している現在、会社の全てを私1人で見られるわけではないので、マネジメント層が自分の組織や業務をマネジメントするだけではなく、未来を想像しながら戦略を描けるような組織にしていきたいですね。社内での取り組みですが、とても大事なことだと思っています。

 

2つ目は、まちづくりの文脈で言えば、いまフォーカスして取り組んでいる三島市の「まちなか開発」です。相当の時間もお金も投入しているので、絶対に成功させたいです。また、成功した先には新たなまちづくりの在り方が出てくるはずなので、そこに向けて誘致した新しい人材・企業のプレーヤーと一緒に、新たな取り組みを推進したいと考えています。

 

3つ目は、建設業のアップデートとして、建設領域にスタートアップのプレーヤーをもっと引っ張り込んでいきたいと考えています。まちづくりの領域でスタートアップの人たちと関わってみて、彼・彼女らは「ゼロイチ」(まだ世の中にないサービスや商品を生み出すこと)でビジネスを起こし、まるで「生きるか死ぬか」といった意識で真剣にその瞬間を戦っていると知りました。しかも、社会や産業の課題をちゃんと解決していきたいと思って、新たなビジネスを起こしています。そんな人の熱量を、課題がたくさんある建設産業にもっと振り向けてほしいと思うのです。

 

建設業は内部留保が比較的多いので、スタートアップを支援していくことも可能です。支えながら、そして力を借りながら、どんどん新しい取り組みができることを仕掛けていきたいと思っています。

 

石丸 スタートアップにも負けない、河田氏の思いの熱量をとても感じました。自社を変革していく時に、まずCIやビジョン、自分たちの事業や在りたい姿とは何だろうと探り、描いていったことが、1つ目の重要なポイントだったと思います。

 

2つ目は、その思いを持ってまちづくりを展開していく中で、同志づくりやアライアンスで情報を集め、どう生かしていくのか、生かすためにどのような人たちと組んでいくのかをうまく考えています。

 

3つ目はやはり、人づくりですね。商品やサービスを良くするのは人だという意思を強く感じました。本日はありがとうございました。

 

 

河田 亮一(かわた りょういち)氏
加和太建設 代表取締役

 

 

PROFILE

  • 加和太建設(株)
    地域を巻き込み、新たな価値を提供する場・インフラをつくることによってSXを実現する総合建設業。地域を巻き込むことで「まちづくり」を通じた体験価値を提供してファンを獲得し、コーポレートブランディングの確立を図っている。

 

 

Interviewer

石丸 隆太(いしまる りゅうた)
タナベコンサルティング ストラテジー&ドメイン東京本部 本部長代理

 

 

 

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