TCG REVIEW logo

100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【研究リポート】

SX / 社会体験価値

SX(ソーシャルエクスペリエンス:社会体験価値)とは、CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験価値)と同様に、感情的な価値を含めた社会からの評価を高め、自社の社会的価値を向上させる考え方である。FCCフォーラム「SX」のセッションでは、本業で社会課題の解決を目指すことによって社会と企業のサステナビリティを同時に実現する経営と、SX向上の3つのステップについてタナベコンサルティングが基本講義を行い、先進企業の事例を紹介。ゲスト2社の対談からは、地域を巻き込んで新しい体験価値を創出し、ファンづくりやコーポレートブランディングにつなげる方法を学んだ。
研究リポート2022.10.03

「体験価値」と「自社らしさ」を創るデザインの力とは:草野作工

 

防災・環境・教育をCSRテーマに

 

タナベコンサルティング・藤島(以降、藤島) 草野作工は1936年に北海道の江別市で、橋脚の工事を中心に土木工事を施工する、草野組として創業されました。創業者の草野眞治氏は橋造りの名人としてその名を轟かせ、北海道の三大名橋のうち、旭橋(旭川市)と、(旧)豊平橋(札幌市)を手掛けました。唯一、そのまま現存する旭橋に、その功績を垣間見ることができます。

 

戦後、草野作工に改称されてからも、新技術を積極的に活用され数多くの「道内初」を成し遂げてきました。今日は同社の副社長である小町谷信彦氏にお話を伺います。創業当時から、チャレンジ精神に富んだ社風だったのでしょうか。

 

小町谷 パイオニア精神にあふれていました。創業者がとても進取の気性に富んでいて、新しいものをどんどん導入しました。

 

北海道は雪や寒さのため、冬に工事ができなかったのですが、創業者は電熱養生法という、冬でもコンクリートを作ることができる新しい方法を開発しました。もちろん、日本で初めてです。創業者の精神を受け継いで、近年も道内初の工法やi-Construction、建設DXなどの最先端技術を導入しています。

 

藤島 タナベコンサルティングは、さまざまなステークホルダーの体験価値を良い方向に変容させていく方程式を考え出しました。体験価値の変容を「XX(エクスペリエンス・トランスフォーメーション)」と定義した「XX=DX(CX※1+EX※2+SX※3)×デザイン思考×OMO」です(【図表】)。草野作工では、働く意義を創造するために、北海道の人々の産業や経済を支える基盤づくりを進めるという、大きなビジョンを掲げていますね。

 

 

【図表】草野作工流「体験価値変容」方程式

※本稿ではOMOの前段階としてのデジタル活用も含む
出所:タナベコンサルティング作成

 

 

 

小町谷 建設業は社会基盤づくりで社会に貢献しています。また、特に「防災・環境・教育」の3つの分野で、CSR活動に取り組んでいます。

 

やはり、命・財産・生活を守らなければ暮らしが成り立ちませんから、防災は非常に重要です。近年は地球温暖化の影響で異常気象による災害が増え、建設業の出番も多くなっています。毎年、防災用品を地元の江別市に寄贈しているほか、自社の敷地を非常時避難所として災害時に開放し、地下水や自家発電装置による電気を供給しています。

 

藤島 公共機関とも連携して、平常時の地域防災の啓発活動や道外の災害支援にも社員を派遣されているそうですね。

 

小町谷 国土交通省の災害支援(TEC-FORCE)に参加して、2019年10月に起こった福島県郡山市での水害時は排水ポンプ車で排水作業を行いました(2022年8月、江別市でTEC-FORCEに参加)。また、「地域防災建設フェア」というネーミングで、国土交通省や自衛隊、消防、警察、地元の江別市などの災害対応機関と協力し、訓練や講演会、災害対策マシンの乗車体験などを通して防災意識を高め、自分でできる災害対応活動を啓発しています。

 

藤島 3つの分野のうち、環境についてはいかがでしょうか。

 

小町谷 1995年に草野河畔林トラスト財団を設立。都市開発で消えつつある河畔林を保護・保全し、自然環境観察会などを実施して道民の環境教育にも力を入れています。

 

もう1つ、当社は江別市の都市公園指定管理者を務めた際に、「江別の自然環境が素晴らしい」と出店した蔦屋書店とコラボレーションをしました。地元の産直野菜の販売、アートペインティング、青空図書館、野外コンサート、夜はイルミネーションアートなど、緑道や広場の自然を生かした市民イベントを企画しました。

 

藤島 緑豊かな自然やアートに触れる、市民に喜ばれるイベントですね。教育分野では、小・中・高等学校などのキャリア教育を支援されています。

 

小町谷 建設業がどのような役割を果たし、土木はどのように社会を支えているのかを出前授業で子どもたちに教えるほか、大学や高専ではより専門的に、実業としての建設業の姿を伝えています。また、ホームページでは北海道の土木のパイオニアをテーマに、当社の創業者など先人の生涯をマンガにして、建設業の魅力を発信し続けています。

 

北海道は積雪寒冷の厳しい気候で、しかも泥炭地です。そんな環境でも治水から始めて道を通し、港を造って……と、人々の暮らしや産業が成り立つ基盤をつくってきた歴史やパイオニアとしてのやりがい、そしてこれからの社会の発展にどう貢献していくかを考える土木事業の醍醐味を、分かりやすく伝えるためです。

 

藤島 社員の方々は、CSR活動をどう感じていらっしゃいますか。

 

小町谷 市民の皆さまの生活に役に立つことなので、子どもに対して「お父さんは、こんなことをやっているんだよ」と言えるなど、仕事への誇りと自信にもつながっているようです。

 

 

※1…顧客体験価値
※2…社員体験価値
※3…社会体験価値

 

 

 

1 2
SX / 社会体験価値一覧へ研究リポート一覧へ

関連記事Related article

TCG REVIEW logo