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モデル企業

1・3・5の壁

事業を拡大させていくと、売上高100億円・300億円・500億円という 売上規模で伸び悩む“成長の壁”が立ちふさがることが多い。 この「1・3・5の壁」を突破する上で必要なことは何か。 トップマネジメント、マーケティング、開発、HR、ファイナンスという経営機能に着目し、 中小企業は中堅企業へ、中堅企業は日本経済の先頭でリーダーシップを発揮する経営モデルへと、 自社をステージアップさせる成長戦略を描くメソッドを提言する。
モデル企業 2024.07.01

深化と探索、両利きの経営で「壁をつくらない」未来戦略

萩原工業


フラットヤーン(糸)を巻き取る機械。原料であるポリエチレンを溶かして作ったフィルムを細く切り、熱板とロールを使って伸ばすことで、細くて強いフラットヤーンができる

 

プラスチックの糸であるフラットヤーンを開発し、国産品ブルーシートのほぼ100%を生産する萩原工業は、合成樹脂繊維製品のトップメーカーだ。独自の製造技術・ノウハウを生かして産業用機械事業の新領域も構築。グローバル市場の開拓で、300億円企業への仲間入りを果たした。「壁をつくらない」持続的成長へのアプローチとは。

 

付加価値を高めグローバル市場を開く

2023年10月期に過去最高の売上高312億円を達成した萩原工業。岡山に本社を置き、フラットヤーン素材のシート製品や粘着テープの基材、コンクリート補強繊維「バルチップ」などの合成樹脂事業と、スリッター(幅の広い紙やフィルムなどを裁断する機械)や検品機械などの機械事業を両輪として成長軌道を描き、自己資本比率65%超を維持する東証プライム上場企業だ。

海外市場比率は3割を超えて伸び続け、コロナ禍で足踏みを余儀なくされたものの、「300億円の壁」を超えた同社。代表取締役社長の浅野和志氏からは意外な声が返ってきた。

「売上高300億円を目指そうとは思っていませんでした。当社は昔から利益を重視しており、『売り上げを追うと経営を間違える』と先代社長に教わっていたからです。経常利益30億円、利益率は粗利益率30%・営業利益率10%以上を、常に意識してきました。

コロナ禍でも付加価値を高めるものづくりと、グローバルに新しい市場を創ることに投資し続けてきた結果、振り向いたら超えていたというのが実感です」(浅野氏)

2016年の社長就任後、浅野氏は国内では合成樹脂加工メーカーをグループインし、多様なニーズに応えるシート加工力の強化へ向け、岡山県笠岡市に工場を新設した。また、海外販売代理店をM&Aし、14カ国に拠点を確保。全世界へ向け合成樹脂事業を新たに展開した。

2023年にはパラグアイに「バルチップ」の新工場を竣工し、社会インフラ整備の需要が高まる南米市場開拓の橋頭堡きょうとうほとなっている。

「グローバル市場の拡大や収益増は、従来通りの商社頼みでは思い通りに進みません。シート製品は日本、バルチップはインドネシア工場から世界へ輸送していましたが、コロナ禍では輸送船の確保に苦心し、コストも2倍以上に高騰しました。

もともと、『消費地でものづくりをしたい。それが無理なら直接売りに行こう』と考えていました。現地事情や市場動向の正しい情報を入手して初めて、次にどうすれば良いかが見えてきます。当社製品が選ばれる可能性がある未開拓の市場へ、もっと攻めていかなければ持続的な成長はない、とも思っていました」(浅野氏)

浅野氏が最も大事にするのは「両利きの経営」だ。製品・技術開発を深耕する「深化」と、市場を開拓し広げる「探索」の両立は簡単ではなく、具現化する力が問われる。深化による成果創出は時間がかかるが、探索はすぐに着手できる。

「『おもしれぇ 直ぐやってみゅう』という設立以来の企業スピリットがあります。これは、面白い、役立つ、と思うことはまず一緒にやってみようという意味です。失敗しても、未来の糧になる何かを得られます」(浅野氏)

※ポリ素材(ポリエチレン・ポリプロピレン)の合成樹脂繊維。フィルムを短冊状にスリット(カッティング)し延伸することで強度を高めた平らなプラスチック糸

 


コンクリート補強繊維「バルチップ」。トンネル・道路・橋・などのインフラ整備や鉱山採掘で活用されている