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100年経営対談

100年経営対談 2024.07.01

「アトツギ」ベンチャースピリッツを胸に新社名「miratap」へ

サンワカンパニー 代表取締役社長 山根 太郎氏

 

建築資材や住宅設備を開発・販売するビジネスモデルで成長を続ける東証グロース上場企業のサンワカンパニーは、2024年10月に社名をミラタップ(miratap inc.)に変更する。2代目社長としての自らの経営を「アトツギ」ベンチャーと呼び企業変革のリーダーシップを発揮してきた代表取締役社長の山根太郎氏に事業承継後の10年間の軌跡と、未来の事業経営を伺った。

 

 


創業45年の節目に社名を一新

 

若松 サンワカンパニーは今年に創業45周年を迎えられます。節目のタイミングで社名を変更されるそうですね。

 

山根 2024年10月1日にミラタップ(miratap inc.)に変わります。ミラタップは、「未来(mirai)」と「タップ(tap)」を合わせた造語で、「指先1つ、タップ1つで、空間にかかわる全てのモノやサービスをお届けする」という意味を込めました。また、「世界中の人々のくらしを楽しく、美しく彩る未来」の実現に向けた強い思いも込めています。

 

若松 「未来をタップする」。BtoB事業でありながら、ECに注力されているサンワカンパニーらしい社名です。建材の輸入販売を中心に、近年は注文住宅や空間プロデュースなど事業領域が広がっていますが、まずは創業の経緯についてお聞かせください。

 

山根 大手百貨店の貿易部に勤務していた父は、直属の上司と揉めて即日解雇されてしまい、27歳で起業しました。東京で事業を始めましたが、退社の経緯もあってうまくいかず、大阪で再スタートしました。大阪は日本で最も中小企業が多い場所。決裁者も多く、当時の父のように若い社長も受け入れてくれる土壌がありました。大阪に根を下ろして木材や石材の輸入販売を開始した後、キッチンや洗面台など住宅設備へと商材を増やしていきました。ECサイトを立ち上げたのも父の代です。

 

若松 山根社長は2014年4月に入社し、同年6月に代表取締役社長に就任されました。サンワカンパニー入社前は伊藤忠商事に勤務されていましたが、事業承継を意識して商社を選ばれたのでしょうか。

 

山根 いいえ。幼いころから「一国一城の主になれ」と言われて育てられたので、起業したいと考えていました。大学卒業後に伊藤忠商事に入社したのも、生活資材に強い商社であれば独立しやすいだろうと考えたから。そのため、会社を継ぐつもりはありませんでしたが、父が亡くなる前に「お前しかいない」と会社を託されました。

 

若松 先代は、山根社長の経営者思考やマインド(商売感覚)を育てていたのだと思いますね。私は数百社の事業承継コンサルティングに携わってきましたが、現実問題として経営者思考を承継できていないケースが多いです。後継者候補であるご子息・ご息女に「お前の好きなようにやったらいい」としか言わないから、本当に好きなようにして事業承継をしないことも少なくありません。悪い訳ではないのですが、結果として、現在の日本は後継者不足による廃業が止まりません。また、自社へ入社しても、経営者思考が希薄だと承継はうまくいきません。

 

山根 父はそれに関しては徹底しており、私はアルバイトさえさせてもらえませんでした。学生アルバイトの時給の相場が700円程度の時代でしたが、父から「お前の1時間の価値は本当に700円なのか?」と問われました。さらに、「お前の1時間は使い方次第で1億円にも10億円にもなる。700円で切り売りするな」と言われたことを覚えています。

 

若松 それが経営者思考であり、帝王学です。自分の価値を決めるのは自分ということですね。

 

山根 「時間給で働くことは認めないが、商売をするならお金は貸す」と。ですから、スノーボードを格安で購入し、インターネットオークションで販売するなど、工夫してお金を稼いでいました。確かに、時給は何十倍にもなる。最初の考え方としては良いエッセンスをもらったと感謝しています。

 

若松 「事業経営」という言葉があるように、経営者には「事業センス」と「経営センス」の2つが必要です。どちらも大事ですが、承継期に求められるのは事業センスであることが多いです。事業センスは自らの体験でしか習得できません。それを私は経営者思考と呼んでいますが、近年、持続的成長を求める中で経営者思考をいかに組織内に醸成するかが課題となっています。家庭の中で自然と身に付けてこられたことは素晴らしいと思います。

 

 


戦略を転換し粗利益率を向上

 

若松 社長就任以降、商品性能、ショールームコンセプト、ECサイトなど多くの変革をされてきました。サンワカンパニーの商品は、その世界観が伝わるデザインが印象的です。

 

山根 2014年ごろから商品を前面に打ち出しています。中長期的には自社ブランドを強くしていくことが重要だと考えて戦略を転換しました。先代もそういった方向性は持っていたと思いますし、託されたのはそこではないかと自覚していました。

 

若松 直近は売上高約154億円、経常利益約10億円(連結、2023年9月期)と収益力も改善されていますね。

 

山根 利益率に関しては、入社後に値付けを見直したことが関係しています。先代はどんな商品も一律の粗利益率で販売していましたが、私は商品によって粗利益率を変えています。

 

例えば、ECサイトのデータを確認すると、多く見られているのに購入に至らない商品もあれば、見てすぐに購入される商品もあります。前者は競合商品が多いことが予想されるので、利益率を下げて価格を抑える。後者は競合が少ないだろうから価格を上げるなど。商品カテゴリーや、商品ごとに販売戦略を立てたことで、2018年ごろから粗利益率が改善しました。また、収益が改善されたことで、社員に対して業界平均よりも高い給与を支給できるようになりました。

 

若松 粗利益率は業績の第一ボタン。それがずれると下のボタン(当期純利益)から付け直さないといけません。私は「ブランド商品の粗利益率は40%が基準」だと言っています。中期経営計画ではどのような目標を掲げているのでしょうか。

 

山根 実は就任当時、2027年度に売上高1000億円、営業利益100億円という目標を立てました。ただ、2021年から新たな会計ルールとして収益認識基準が導入され、売上高計上が変更されたため、売上高1000億円は取り下げ、今は営業利益100億円のみを目標としています。

 

 


“らしさ”を追求し、ECで強みを創造

 

若松 社長就任から10年、EC事業の比率はどこまで上がっていますか。

 

山根 私が入社した2014年当時、ECサイトでの購入比率は全体の9%に過ぎず、80%がFAX、残りの11%が電話注文でした。現在は、ECサイトが売上高の20%を占め、残り80%が工務店や設計事務所などとの取引です。ただ、商品の特性上、BtoCではなかなかリピートされないため、BtoBtoCである工務店や設計事務所をいかにロイヤルカスタマー化するかが鍵になると考えています。

 

若松 オリジナル商品も多数あり、どれもデザインや機能性が洗練されています。商品開発におけるこだわりやコンセプトはどのようなものですか。

 

山根 2つあります。1つ目は、ミニマムでなければならないこと。2つ目は、空間に配置されたときに存在感が消えなければならないこと。商品が使用されたときに存在感が消えるデザインが調和した良いデザインだと考えており、使われるシーンを想定して逆算でデザインしています。

 

若松 機能性やデザインを追求しながらも、顧客の住宅空間やくらしになじみ、長く付き合える商品が良い商品ということですね。

 

山根 おっしゃる通りです。また、当社では月1回の新商品開発会議で新商品を販売するか否かを判断していますが、どこかで見たことがあるような商品は却下します。当社がこだわっているのは“サンワらしさ”のある商品開発。商品を仕入れる際も、“サンワらしい”商品という言葉が使われており、新入社員のデザイナーまで考えが統一されています。

 

若松 商社の売りやすい商品が顧客の求めている商品とは限らない。利益率やメーカーデザインといった複合的な理由から売りやすい商品が増えがちだからです。ECサイトは、顧客の声を直接聞ける場として大きな武器です。ある意味で商社の先回りができています。“サンワらしさ”を追求するバリューチェーンができているのです。

 

 


「もう1回、家を建てたい」価値を創造する

 

若松 2022年に注文住宅を手掛けるベストブライトの全株式を取得して子会社化されました。日本市場の住宅着工件数は年々減少しているのが現実ですが、今回の資本業務提携はどのような狙いがあるのですか。

 

山根 ベストブライトの売り上げは住宅事業に入っていますが、M&Aの目的はEC事業の補完です。販売した商品の工事まで手掛ける体制をつくりたいと考えています。

 

若松 住宅事業をEC事業の1つと位置付けて垂直統合するのですね。

 

山根 住設・建材分野でBtoCのチャネルを持っているのは国内で当社のみ。大手メーカーは、住宅メーカーや工務店に販売するBtoBですが、工務店が消費者に販売する際の価格はブラックボックス化されており、統一されていません。

 

一方、ECサイトは一物一価が前提だから明朗会計。工事費用についても、値付けの根拠まで明確に説明するなど、お客さまが納得感を得られる仕組みになっています。

 

若松 家を建てる場合、施主が住宅メーカーや工務店を選び、そこが提供するメーカーの住設を選ぶのが主流です。工事費も住設代金に含まれていたり、逆に細かく分けられたりしているため、本来の価格が非常に分かりにくく、中には顧客によって価格が違うといったケースも見受けられます。それが消費者の不信感を招いてしまう部分でもあります。価格をオープンにして多くの選択肢を提示することで、従来のビジネスモデルや業界の常識が変わる可能性がありますね。

 

山根 まさに、そこを目指しています。お客さまの納得感が上がれば「家を建てて良かった」「リフォームして良かった」と思ってもらえます。そういった市場になると、「もう1回家を建ててみたい」「リフォームしたい」と思う方が増えて市場が活性化します。その起爆剤になりたいですね。

 

若松 業界の常識は非常識であることが多いです。非常識な市場を創造すれば、それはホワイトスペースであり、ブルーオーシャンになります。オセロの石をひっくり返していくように、業界のビジネスモデルを変えていくことで市場は逆に拡大します。

 

山根 戦後の住宅投資の金額と今の評価額を比較すると、日本はマイナス500兆円と言われているのに対し、米国では現在の評価額の方が高い。要因の1つは、米国は人口が増えていること。もう1つは、一生のうちに引っ越す回数や家を購入する回数が多いことです。日本は1、2回、米国は4回と大きな差があります。

 

直接的に日本の人口を増やすことはできませんが、市場を変えることで家を建てる回数を増やすことは、当社にもできるのではないかと考えています。

 

若松 まさに、「くらしが楽しく、美しく、そして豊か」になりますね。

 



サンワカンパニーが販売するシステムキッチン「グラッド45」(左)、洗面化粧台「モルタナ洗面」(右)。インテリアに溶け込むデザインになるよう設計されている