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【メソッド】

人材マネジメントの流儀

企業が「今」取り組むべき人材マネジメント施策のポイントについて、タナベコンサルティング HR コンサルティング事業部メンバーが徹底解説。実際の企業の取り組み事例を交え、採用から育成、活躍、定着と制度構築まで網羅し、人事の極意に迫ります。
メソッド2024.03.28

Vol.9 人材フローのマネジメント:岡原 安博

 

人材マネジメントにおいて、人材フロー(入社から退職まで)をいかに最適化していくかは重要な課題である。タナベコンサルティングのHRコンサルティング事業部による連載「人材マネジメントの流儀」。第9回では、企業の変化を促進し、持続的に成長させていく人材マネジメントという観点から、退職を除いた採用・評価・育成・活躍・定着について取り上げ、それぞれのポイントを解説していく。

 

人材フロー1 採用のマネジメント

 

採用は、計画を立てることから始まる(【図表1】)。この計画とは、「どのような人材がどれだけ必要か」を明確にし、「どうやって確保するか」を考えることである。つまり、採用計画と人材要件を定め、どのような採用手法を用いて人材を獲得していくかということだ。

 

【図表1】

 

 

①採用計画の作成

採用計画の策定は、まず中長期の要員計画と現在の社員構成のギャップを把握するところから始める。人材ポートフォリオに基づき策定した中長期の要員計画を現在の社員構成と照らし合わせるのだ。そして、そのギャップは社内での人材育成や異動で埋められるのか、中長期計画の終了年度までに退職はどれくらい見込まれるのかの予測を立てていく。その上で不足している人員数をどれだけ採用するか、具体的な計画に落とし込む。

 

実際には、現場から「こういう人を採用してほしい」という要望が上がってくることも少なくない。また、昨今は採用の人事権を現場責任者に委譲するケースも増えてきている。そのため、採用計画の策定では、全社視点で採用の要否を判断することが求められる。

 

②人材要件の設定

人材要件は人材戦略で策定した人材ビジョンと、ジョブディスクリプション(職務記述書)に基づき設定する。人材ビジョンについては第8回でも触れたが、自社の経営理念・パーパスに共感する人材を集めるためにも非常に有用であり、採用においても活用すべきものといえる。また、ジョブディスクリプションで具体的な職務内容やスキルなどを定義しているため、必要なジョブの具体的要件はこれを基に定めていくと良いだろう。

 

③採用手法の選択

採用手法には、大きく分けるとメディア、人材紹介、ダイレクトリクルーティングの3つがある。最近ではSNSを用いたソーシャルリクルーティングやリファラル採用などのダイレクトリクルーティングを活用し、採用活動に成功している企業もある。ここで注意したいのは、いずれか1つの手法に絞って採用活動を行うのは適切でないということである。例えば、潜在層にはSNSでアプローチし、興味を持った求人者を自社採用サイトに誘導する。事業部長クラス以上はスカウトを活用し、自社起点でアプローチをかける、などいくつかの手法を組み合わせて、または使い分けて採用活動を展開していくことが重要である。

 

 

人材フロー2 評価(人事処遇システム)のマネジメント

 

人事処遇システムは、主に等級・評価・報酬の3つの制度で構成される。これらは会社が目指す成長の方向性を社員に示すだけでなく、社員一人一人のキャリアの方向性を定義付け、モチベーションの向上を促す役割も果たす。うまく運用されれば人材の成長を促し、経営戦略の推進力を強化できるだろう。人材マネジメントの中でもメインとなるシステムであり、これに連動して採用、育成など他の人事施策が展開される重要な制度である。

 

①等級制度の潮流

等級制度とは、社員を能力や職務、役割などによってランク付けする制度である。この等級に沿って職務内容や責任範囲、給与などの報酬が定められるため、人事処遇システムの基礎部分を担う制度といえるだろう。この等級には、【図表2】の通り3つの種類がある。

 

【図表2】等級の種類

 

日本では長らく職能資格等級を採用している企業が多かったが、昨今では大手企業を中心に職務等級や役割等級を採用し、いわゆるジョブ型雇用を進める企業も徐々に増えている。

 

また、タナベコンサルティングでご支援している中堅企業においては、いずれか一つを採用するのではなく、複数を組み合わせたハイブリッド型の制度設計をすることが多い。例えば、総合職・一般職は職能資格等級、組織ミッションの実現に向けて組織役割を遂行する管理職は役割等級、高い専門性による成果発揮を期待する専門職は職務等級を採用する、といったように各職群の特性に応じて採用する等級を変えているのだ。

 

②評価制度の潮流

人事処遇システムにおいて評価の対象となるのは、顕在化した社員一人一人の成果や行動である。どちらか一方だけを見るのでなく、成果と行動の両面をバランスよく評価することが望ましい(【図表3】)。会社や部門の方針・目標に対しては成果・業績評価、バリューの実践に対してはバリュー評価、等級で定めた役割発揮にはコンピテンシー評価など、複数の視点から多面的に評価するのが良いだろう。

 

【図表3】評価の対象

 

 

③報酬制度の潮流

報酬制度を見る上でまず重要なのは、自社の賃金分配思想を明確にすることである。

 

昨今、同一労働同一賃金や成果主義、ジョブ型などの潮流を汲み、年齢給や勤続給、家族手当、住宅手当などを廃止する企業も増えている。ここで注意したいのは、世の中の流行をそのまま安易に自社に取り入れることで、自社のカルチャーや企業風土を壊してしまう可能性があるということである。

 

例えば、家族主義を大切にしながらこれまで成長してきた企業が、家族手当や住宅手当を突然廃止したらどうだろうか? 大きな反発を招く恐れがあるだけでなく、会社を支えてきた価値観が揺らいでしまうかもしれない。時流の変化を取り入れるのであれば、まずは自社の核となる賃金分配思想を明確にし、それに沿った賃金体系と分配ルールを設計していくのが重要である。

 

 

人材フロー3 育成のマネジメント

 

教育制度をつくる際は、まず教育体系を設計するところから始める。その際、「誰に(対象者)」「何を(テーマ)」「どのように(学習方法)」という観点で教育の目的を整理すると良い。対象者とテーマについては、人事処遇システムのうち等級制度から落とし込んでいく。全体としては企業競争力の源泉となる高度な専門性や稀少な技術を強化しつつ、等級制度に沿って階層ごとに強化テーマを設定するのがセオリーだ。

 

学習方法は、OJTや社内外での集合型研修のほか、昨今はオンライン動画を通じたeラーニングなどを活用する企業も増えている。このような新しい学習方法を取り入れることは、働き方や価値観の多様化に対応し、社員が自らのキャリア志向に合わせて主体的に学べる仕組みとして、もはや企業に必須の仕組みといえる。しかしここでも大切なことは、安易に流行を取り入れるのではなく、自社の成長に必要な人材像やスキルを定めた上で、目的に沿って方法を選ぶことである。

 

人材フロー4 活躍・定着のマネジメント

 

社員の活躍・定着を強化する上で鍵を握るのは「エンゲージメント」である。エンゲージメントとはもともと「婚約」「約束」「契約」「誓約」などの意味を持つ言葉であるが、人事の領域では組織(企業)と個人(社員)の関係性を指す。エンゲージメントを高めることが社員の活躍や定着につながり、生産性の向上にも資することから昨今注目されている指標である。

 

タナベコンサルティングでは、エンゲージメントを3つの区分と8つの要素で定義している(【図表4】)。このうちどの要素がエンゲージメントに強い影響を与えているのかは、人によって異なる。そのため、エンゲージメントサーベイなどのツールを活用しながら、自社のエンゲージメントを高める要因を把握するところから始めると良いだろう。

 

【図表4】評価の対象

 

Profile
岡原 安博Yasuhiro Okahara
タナベコンサルティング HR ゼネラルパートナー
外資系ラグジュアリーブランドで店舗マネジメントに従事後、人事コンサルティング会社にて組織・人事領域のコンサルティング、教育、組織開発等の経験を経て、タナベコンサルティングへ入社。人事領域全般のコンサルティングを中心に、上場・中堅企業の人事制度・教育体系の構築において数多くの実績を持つタナベトップコンサルタントの一人。
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