グローバル戦略フォーラム2023リポート 大和総研、グローウィン・パートナーズ、カーツメディアワークス
※登壇者の所属・役職などは開催当時のものです。
大和総研:日本および世界経済の展望
日本経済のメインシナリオ
2022年度の日本経済は欧米に比べて経済活動の正常化が遅れていたが、現在は急速に進んでいる。大和総研の直近の見通し(9月8日時点)では、2023年度の日本経済は底堅い内需を背景に2%程度のプラス成長を見込んでいる。2023年度は好材料が多いことが理由の1つである。(【図表1】)
【図表1】日本経済の7つの好材料(2023年度)
出所:大和総研講演資料
直近3カ月で特に変化のあった項目として、①4~6月期に自動車の挽回生産が本格化、②中国政府が団体旅行を解禁したが処理水問題で不透明感が強まる、③円安が進行、の3つが挙げられる。
これらを踏まえた上で、2024年度の日本経済のポイントは次の4つである。
(1) 国内では経済正常化の一巡で景気の押し上げ要因が大きく減少
(2) 欧米ではインフレ鈍化で利下げ局面へ、シリコンサイクルは回復局面に入る可能性
(3) 2023年度に続き米銀行の貸出態度の厳格化による米国景気の大幅な悪化、ウクライナ情勢の緊迫化、中国の過剰債務問題の顕在化、米中対立の激化などへの警戒が必要
(4) 日本銀行は早ければ2024年度前半にもYCC(長短金利操作、イールドカーブ・コントロール)を撤廃。日米の金融政策の方向性が転換すれば円高ドル安へ
2024年度の日本経済は好材料に乏しく、金融政策の早期正常化や円高のリスクがくすぶる。景気回復の継続は期待できるものの、実質GDP成長率は+1%弱と、前年度から大幅に低下する見込みである。
持続性高まるインフレと金融政策の展望
CPI(消費者物価指数)は2023年8月で前年比+3%超と高水準にあるが、メインシナリオでは食料やエネルギーを中心に価格上昇が落ち着くことなどもあってインフレ率は低下していく見込みである。2024年度の終盤で1%台半ばとみているが、上振れリスクは小さくない。
企業の価格設定行動は積極化しており、財だけでなくサービスなど幅広い品目でも値上げが行われている。また企業の物価見通しと密接な関係にある、価格改定頻度の低い「粘着価格」品目の価格上昇率は約30年ぶりの高水準にある。
家計の行動も変化している。東京大学大学院経済学研究科の渡辺努教授の研究室が毎年実施している国際的なアンケート調査を見ると、行きつけのスーパーで値上げされたときに「他の店に行く」と回答した日本の割合は、2021年まで他国のそれを明確に上回っていた。それが2022年や2023年の調査では、他国と同程度まで低下している(【図表2】)。他の店に行っても安く買うことが難しくなり、値上げを受け入れざるを得ない状況になったためだ。企業から見れば、値上げを行いやすく、人手の確保のための賃上げも行いやすくなったと言える。
【図表2】渡辺努「5か国の家計を対象としたインフレ予想調査」の結果
出所:大和総研講演資料
企業や家計の行動が変化した背景には、次の5つが挙げられる。
(1) 約40年ぶりの高インフレ(「適合的期待形成」を背景に家計・企業の行動が変化)
(2) 資産バブル期に迫る労働需給のひっ迫
(3) コロナ禍からの経済正常化(労働需要の回復)
(4) 家計の過剰貯蓄(物価高に対する耐久力の高まり)
(5) 政府による価格転嫁促進策(大企業名を公表など)
コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻などに起因する供給ショック、国内の労働需給のひっ迫などにより、需要と供給の両面で物価上昇圧力が高まっている。だが同調査によると、日本の家計は向こう1年で「賃金は増加する」との回答が2023年3月時点でも少なかった。2024年の春闘で前年並みの高い賃上げ率を実現できるかどうかが注目される。
グローバルリスクの点検
グローバル経済の主なリスク要因として、次の5つが挙げられる。
(1) 米国の深刻な景気後退入り(米銀行の貸出態度の厳格化による景気の大幅悪化)
(2) ウクライナ情勢の緊迫化(欧州を中心とした景気の悪化、資源価格の高騰)
(3) 中国の不動産市場が大幅調整、同国の過剰債務問題の顕在化
(4) 米中対立の激化(経済安保リスクの発現など)
(5) 一部の新興国で債務不履行が発生
これらの状況を踏まえながら、5年、10年という中長期的な視点で経済環境を見通し、持続的なグローバル経営に取り組んでいただきたい。
グローウィン・パートナーズ:グローバル戦略におけるM&Aの活用
海外事業を取り巻く環境の変化
現在、世界経済は「VUCA※の時代」と言われている。先行きが不透明で将来予測の困難な時代において、企業は経済活動を続けなければならない。
※Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字。不確実性が高く、将来予測が困難な状況を示す造語
特に、コロナ禍で停滞した海外事業の拡大を今後どう進めていくかは、日本企業の共通課題と言える。JETRO(日本貿易振興機構)の「2022年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(2023年2月)によると、日本企業の海外進出に対するマインド(2022年度)について、海外での事業拡大意欲は過去最低水準である(【図表1】)。同調査によると、今後の事業拡大先について米国が29.6%と最も高かったが、以降はアジア圏の国が候補先として連なっており、総じてアジア圏への事業拡大意欲が高い。
【図表1】日本企業の海外進出に対するマインド(2022年度)
出所:グローウィン・パートナーズ講演資料
日本企業のグローバル戦略
日本企業がグローバル戦略を進める場合、行き当たりばったりの海外展開になってはならない。まずは市場調査を行い、競合分析を進めた上で自社の強みを見つけ、事業を展開する対象地域の優先順位付けを行う。そして、その内容をグローバル戦略に落とし込む。(【図表2】)
【図表2】グローバル戦略の策定プロセス
出所:グローウィン・パートナーズ講演資料
グローバル戦略の策定プロセスを踏まえ、次のステップである海外進出に取り組むに当たり、主な手法とその課題は次の4つである。それぞれの進出方法には課題があり、それらを解決しながら取り組みを進めなければならない。
(1) 独資
① 顧客の方針が変わり、売り上げが思うように上がらない
② 現地任せにした結果、本社で実態が把握できなくなった
(2) 合弁
① 合弁先との交渉がうまくいかない
② 現地のパートナーを新たに見つけたい
(3) クロスボーダーM&A
① 売り上げ拡大のためクロスボーダーM&Aを検討するが相手企業が見つからない
② 国内でM&A後、買収先の海外子会社が管理できない
(4) 提携
① 現地事業をよりローカル化させ顧客基盤を拡大したい
また、文化・経済環境の異なる海外での事業展開は国内とは異なる課題を抱え、海外進出に失敗する企業も多い。海外独自の制約条件や事業環境を踏まえた上で前述の手法を検討する必要がある。【図表3】
【図表3】海外事業展開で注意すべきポイント
出所:グローウィン・パートナーズ講演資料
クロスボーダーM&Aによる海外展開のメリット
海外事業の展開、拡大の手段としてクロスボーダーM&Aを検討する企業は年々増えている。主な理由は次の4つだ。
(1) 成長市場へのアクセス
新興国市場の複雑な現地商流などのアクセスルート確保
(2) 売上創出への時間短縮
短期間の事業立ち上げ
(3) 投資額が明確
計画通り進まない独資より投資額が明瞭
(4) 撤退時のオプション
早期に撤退が可能
クロスボーダーM&Aは、①プレM&A、②M&A実行、③ポストM&Aの順で進めていく。最も重要なのは、海外事業戦略の一環として親会社が関与することである(【図表4】)。M&Aが目的ではなく、海外事業戦略の手段の1つであることにも留意いただきたい。
【図表4】クロスボーダーM&Aのプロセス
出所:グローウィン・パートナーズ講演資料
クロスボーダーM&Aの実現に向けたポイントをまとめると、①案件ありきではなく明確な方針を持つ、②買収後のモニタリング、③本社のコミットメント、④文化・言語の壁を超えたコミュニケーション、この4つだ。
また海外進出の手段としてM&Aではなく、100%買収を行わず、あえて先方の資本を残す「アライアンス戦略」により海外事業拡大を目指すという選択肢もある。海外特有の経営課題に向き合いながら、自社のプレゼンスを高める真のグローバル戦略に取り組んでいただきたい。
カーツメディアワークス:海外進出の第一歩!国内から実施できる海外PR入門!海外プレスリリースのノウハウとは?
低コストで実行可能な海外PR
海外のユーザーを獲得(認知、購買)するために、企業は何から取り組むべきか。ここでは、低コストで実行可能な海外広報・PR戦略のポイントについて解説する。
広報・PR活動に類似した取り組みとして、広告運用による認知拡大が挙げられるが、違いは【図表1】の通りである。
【図表】広告と広報・PRの違い
出所:カーツメディアワークス講演資料
主な違いとして、広報・PRは広告に比べコストが少ない。プレスリリースを発信するだけで、世界中に情報を届けることができる。次に、アテンション(注目・関心)効果である。うまくいけば、多くの人に1回で注意喚起・気付きを与えることができる。ウェブメディア・テレビ番組・インフルエンサーなどによる自社のリリース記事の二次活用などが挙げられる。次にブランディング効果である。第3者によって掲載・評価されたこと自体が自社のブランド価値向上につながる。
広告を使わず、広報・PR活動によって企業価値を高めている企業として、米国の大手喫茶店チェーンのスターバックスが挙げられる。同社はまず、実店舗で顧客体験価値を最大限に高め、ポジティブな口コミを増やしている。メディア活用においては、各国での新店舗出店の際にメディア企業の近くに出店し、季節ごとの新商品や店舗での体験価値を通じてメディア企業関係者にアピールすることで、「自発的にメディアが取り上げる」という好循環を生み出している。
海外PR・プレスリリースの攻略法
カーツメディアワークスのクライアント企業からよくある相談として、「どのようなプレスリリースを書けば良いか分からない」「どのようなネタであれば海外で掲載されるか分からない」「どのようなメディアに配信すれば良いか分からない」といった内容が多い。プレスリリースを設計するに当たり重要なのは、メディアが取り上げたくなるような記事であるか、つまり、「報道価値をいかに高めるか」である。
報道価値を高めるプレスリリース設計のポイントは次の3つである。
① 認知拡大したい配信対象国の情報を取り入れる
② 初出しとなる新情報・意外性がある
③ 数字・データ・ビジュアルを入れる
プレスリリースの品質を高めることで、メディアの関係者だけでなくエンドユーザーの共感を得ることもできるため、ぜひ押さえていただきたいポイントだ。逆に留意すべきポイントとして、次の3つが挙げられる。
① 配信対象国と関係がない内容
② 単純なキャンペーン情報(広告)
③ 長すぎる・難しすぎる
プレスリリースを作成し、次に配信するメディア選定を進める。ポイントは、①内容にマッチしたメディアであるか、②ウェブメディアをメインに配信、③担当者一人一人に届ける、この3つである。日本国内で良く起こる現象に「報道連鎖」がある。1つのメディア掲載を基にさまざまなメディアで連鎖的に取り上げられる現象だが、これを故意的に行うための戦略が「戦略PR」「広報戦略」である。ウェブメディアは報道連鎖を起こしやすい媒体であるため、注力いただきたい。
海外情報発信の「マインドセット」
広報・PRに取り組む企業で、質の高い記事を作ろうと動きが鈍化する企業が多い。重要なのは、積極的な情報発信である。質よりも量を優先し、認知を得ることが重要だ。
また海外に発信する際、翻訳に間違いがないか注意するあまり時間を要する場合もあるが、ネイティブチェックなどが可能な外部サービスを活用するなど、日本と海外での発信の時間差を縮めることに注力いただきたい。報道価値の高い記事であれば、翻訳が完璧でなくても認知拡大のチャンスは増える。
さらに、自社の広報・PR担当者のレベルに合わせて取り組み内容を変えることも重要だ。レベル別に、①ビギナー:報道価値を理解した上で情報発信をトライアンドエラー、②ミドル:自社のプレスリリースを掲載した記者をフォロー・管理(お礼の連絡など)、③プロフェッショナル:メールやSNSを通じた記者とのコミュニケーションによるさらなる認知拡大、この3つに分ける。
カーツメディアワークスでは、2018年に海外プレスリリース配信プラットフォーム「Global PR Wire」を立ち上げている。広報戦略を現地に合わせて最適化し、日本企業の海外進出を支援している。
大手自動車メーカーと大手家電メーカー2社による、「電気自動車合弁企業」の新車発表プレスリリースの成功事例を紹介する。
クライアント企業の、米国で開催されている世界規模の家電・テクノロジーイベントに合わせ、自動車関連メディア以外の海外メディアへ情報を届けたいという課題に対してGlobal PR Wireを活用し、米国のビジネス系・テクノロジー系メディアなどにリリースを配信。結果として、自動車系メディアはもちろん、テクノロジー・経済系ウェブメディア、報道番組など累計5,000件の露出を獲得した。
Global PR Wireではメディアとの関係性構築からデジタル領域まで一気通貫のサポートが可能であるため、ぜひご検討いただきたい。
タナベコンサルティング:世界経済の潮流とグローバルマーケティングの基本
世界情勢の変化
急速なインフレ、半世紀ぶりの円安進行、資源価格の高騰、インバウンド需要の回復など、日本経済の動向はこれまで以上に世界情勢に大きく左右される時代となっている。また、人口減少による内需縮小は全産業において成長機会を阻害することから、海外進出は日本企業にとって避けては通れない必須の成長戦略である。
【図表1】世界の情勢トピックス
出所:タナベコンサルティング作成
世界経済の動向について、主なポイントは次の3つである。
(1) 変動相場制移行時と同等の価値レベルに
景気・物価の変更を踏まえると、円という価値の低下が著しい
(2) 実質実効為替レートにおいて円の実力はピークの半分以下に
実質実効為替レート指数は、1995年をピークに半分以下まで減少(失われた30年)
(3) 流動的変化から構造的変化の序章
円安は流動的な変化ではなく、構造的変化、つまり、円安が定着していくスタートラインに立っている
これらを踏まえた上で、世界経済6つの潮流を紹介する。
(1) 物価・消費の潮流
世界的インフレはピークアウトするもサービス価格のインフレは継続
(2) 貿易・投資の潮流
地政学的な分断が貿易、直接投資、イノベーションの妨げに
(3) 地域・市場の潮流
世界経済の成長率の70%を占めるアジア経済
(4) 金融・財政の潮流
先進国の金融政策、新興国・途上国の対外債務が世界経済のリスク
(5) 雇用・労働の潮流
労働力の需給ひっ迫が引き起こす経済への影響
(6) 産業・技術の潮流
戦略分野、戦略技術、イノベーション
次に、日本企業がグローバル戦略に取り組む上で重要となる「グローバル経営 IRフレームワーク」について解説する。(【図表2】)
【図表2】グローバル経営IRフレームワーク
出所:タナベコンサルティング作成
グローバル経営 IRフレームワークは、インドの経営学者であるスマントラ・ゴシャール氏と米国のハーバード・ビジネス・スクール名誉教授のクリストファー・A・バートレット氏が提唱した「I-Rフレームワーク」をアレンジしたもので、縦軸にグローバル統合、横軸にローカル適合を位置付ける。
グローバル統合が高く、ローカル適合が低い「グローバル型」の企業で言えば、ドイツを拠点とするメルセデス・ベンツや米国のザ コカ・コーラ カンパニーなどの戦略が挙げられる。また、グローバル統合が低く、ローカル適合が高い「マルチナショナル型」の企業で言えば、英国を本拠点とするユニリーバや、米国のジョンソン・エンド・ジョンソンなどの戦略が挙げられる。
グローバル経営 IRフレームワークは、「企業の経営戦略」という枠組みで用いるだけでなく、バリューチェーンごとの活用もお勧めする。グローバル事業ポートフォリオとバリューチェーンの設計に当たっては、【図表3】のマップを参考いただきたい。自社の現在のポジションやステージを把握し、「なぜ海外で事業を展開するのか」を再確認し、グローバルバリューチェーンを設計する。
【図表3】グローバル事業ポートフォリオ・バリューチェーン展開マップ
出所:タナベコンサルティング作成
次に、米国の経営学者フィリップ・コトラー氏のマーケティング理論を基に、グローバル適合に向けたグローバルマーケティング戦略の流れを紹介する(【図表4】)。コトラー氏のマーケティング理論は普遍的であり、グローバルでマーケティングを展開する企業はぜひ活用いただきたい。
【図表3】グローバル適合に向けたグローバルマーケティング戦略の流れ
出所:タナベコンサルティング作成
「グローバル戦略フォーラム2023」をまとめると、次の3つである。
① 世界情勢・世界経済の状況に応じたグローバル戦略のアップデート
② グローバルポートフォリオ・グローバルバリューチェーンの再設計
③ クロスボーダーM&Aの活用と「グローカル(グローバル・ローカル)マーケティング」の実践
グローバル戦略のアップデートと戦略推進のグローカル実装が求められる今、タナベコンサルティンググループでは、グローバル戦略の実現に向けた経営課題の解決をトータルで支援している。国内市場が縮小する日本において、持続的成長を続けるためにはグローバル戦略は不可欠だ。グローバル・ビジョンをアップデートし、それに基づく長期視点のグローバル戦略をデザインすることが日本企業の成長戦略の鍵となる。タナベコンサルティンググループの持つ国内・外双方のネットワークで、企業に合った海外展開をトータルで支援できるため、ぜひご相談いただきたい。