TCG REVIEW logo

100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【特集】

パーパスから描く未来戦略

企業活動の持続可能性が重視され、企業に「パーパス」を求める機運が高まる中、自社の存在意義やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を再定義する企業が増えている。パーパスの実現に向けた中長期ビジョンを構築し、事業計画に落とし込んで、自社の成長を加速させるメソッドを提言する。
2023.07.26

大事な自社「らしさ」と「価値」を戦略の根幹に:ベルシステム24ホールディングス|タナベコンサルティング

社員の行動がブランディングにつながる

 

世の中やCX(顧客体験)の現場で生まれる多様な「その声」に、既存事業だけではなくBPO※1ドメインを拡大し、それぞれのシーンで「どうこたえるか。」。コーポレートボイスは、DXにより先進的で最適な価値を幅広く提供する事業・組織変革と、社員の多様性を生かす行動変容を起こす旗印でもある。

 

実践の舞台は、コーポレートボイス制定と同時にキックオフした「中期経営計画2025」だ。グループ売上高1800億円、営業利益165億円を達成し、プロフェッショナルが集う働きがいのある人的資本経営の実現も目指す。戦略コンセプトは「NEW BPO」。NEWはNext(深める)、Engage(つなげる)、Widen(ひろげる)の頭文字を取った。

 

「NEWのN(深める)は、今ある『その声』を分析し突き詰める、既存事業の高度化を指します。人材力を最大化し多様で柔軟な働き方、当社の絶対的な強みである業務の型化、音声・CXデータの新たな活用などで、独創性に磨きをかけていきます。

 

E(つなげる)は、ジョイントベンチャーなど、アライアンスによるパートナー連携によって、他社が保有する先進性や専門性の外部知見を積極的に生かします。

 

そして、NとEの相乗効果による共創がW(ひろげる)で、BPOの新領域開拓による成長戦略です。例えば、バックオフィスの領域ではコンサルティング企業とジョイントベンチャーを設立しており、先方は経理業務のアセスメントやシステム活用、当社は業務の型化や人材の高度化と、互いのスキルや強みを掛け合わせる共創で、先行他社と差別化できる競争力ある価値を提供しています」(山中氏)

 

組織体制は各事業本部に営業企画部門を新設し「攻めの姿勢」に刷新。また、効率的で持続可能な働き方である完全在宅ワークを推進し、在宅席数も3000から1万を目指し増席中だ。

 

そんな「NEW BPO」の実現をリードするために、コーポレートボイスとマニフェストおよびキー・ビジュアルで、同社はインナーとアウターの両面のブランディングを進めている。2023年度は、インナーで「共感と活用」、アウターで「認知と想起」として目標に定め、マニフェストは「社員、顧客、人材採用」の3層に向けて個別バージョンを作成。インナーでは社内各拠点のポスター掲示やクレドカードの作成で「自分事」化を促し、アウターとしては東京メトロの主要50駅にポスター広告を実施した。

 

「当社のように人材の価値をデリバリーする会社では、コーポレートボイスのブランドストーリーは無限に生まれ、社員の行動がそのままブランディングになっていきます。それをいかに具体化して表現し、ブランドメッセージに乗せていけるかが重要ですから、しつこいぐらいに浸透を図っています」と山中氏は話す。

 

ブランド戦略室は「ブランディングのウラガワ」と題して、Slack(スラック)チャネルやイントラサイトでブランド戦略の策定プロセスを公開。社員の共感や納得度を高めている。また、2023年6月にはオンラインで「社内ブランド説明会」を開催。参加者アンケートの回答に、山中氏が最も伝えたいことが記されていた。

 

「『ブランディングは私を含む社員みんなでつくっていくもの、という意識を持つことができた』とアンケートに書いてありました。『パーパスやコーポレートボイス、バリュー、ブランドって、そういうことか』と知る“入り口”が必要だと再確認しましたし、まずは浸透させることが重要ですね。引き続き、トレーニングプログラムやワークショップを実施していく計画です。

 

多様なタッチポイントでブランドを分かりやすく伝え、提供する価値を的確に語れる社員をどんどん増やしていきたいですね」(山中氏)

 


社員に配布されているクレドカード。キービジュアルとともにコーポレートボイスの浸透を図る

 

ロードマップを描きブランド戦略を推進

 

中期経営計画2025で推進するブランド戦略では、初年度の「ブランド宣言期」から2024年度「活性期」、2025年度の「成熟期」へと進化するロードマップを策定。年2回のエンゲージメントサーベイで定点観測し、浸透度はレベル1(コーポレートボイスを知る・認知)からレベル6(制度や戦略の指針・公式化)まで、階層・キャリア別のステップアップ目標として明確にした。

 

その成果の兆しが見え始めたと山中氏は言う。ナレッジ共有も進み、攻めの事業展開が加速している。

 

将来的には人事評価制度との連動を検討しているものの、初めから「制度ありき」にしなかったのには理由がある。それは、トップダウンが色濃くなるほど、浸透が表層的になってしまうからだ。

 

「当社のブランディングは、ボトムアップでムーブメントをつくっていくものですから、パーパスやコーポレートボイスの実践とエンゲージメントには必ず相関性があります。『みんなでつくる』仕組みだからこそ会話が増え、一人一人の意識が高まる機会をつくっていると感じます。

 

コーポレートボイスやマニフェストのメッセージは全社共通ですが、解釈や何を伝えたいかは変わっていません。個人的なマニフェストを自分で描いて、ブランドストーリーのどこかに散りばめられるようになれば良いと考えています。すでに、自分のマニフェストを手紙にして企画書と一緒に提案している社員もいます。これはお客さまへのラブレターともいえます(笑)」

 

実在する無限のブランドストーリーをドキュメント動画としてコンテンツ化する計画も、ブランド戦略室で始動している。社員が手掛ける仕事で、コーポレートボイスを体現する姿をインナーで共有し、アウターにも発信。年間約1万人の採用活動のキーコンテンツとしても活用していく予定だ。

 

「お客さまにも登場いただいて、対話の力による協業で、まさに『みんなでブランドをつくる』姿をイメージしています。コンタクトセンター事業など既存領域のブランドエクイティー※2は高くても、新たなドメインでは低い。ブランドストーリーの蓄積を緻密にやっていくことが、ブランディング上でも事業の定量効果においても重要です。『ベルシステム24って、こんなこともやろうとしているのですね』と伝わるものにしていきます」(山中氏)

 

NEW BPOを体現し、「新しい、らしさ」を共創するストーリーの1つずつが、同社の未来への扉を開こうとしている。

 

※1 ビジネス・プロセス・アウトソーシング。人的資源を自社のメイン業務に集中させるため、一定の業務を他企業へと委託する手法
※2 ブランドが持つ無形の資産価値

 


経営企画・事業戦略管掌 ブランド戦略室 室長 山中 洋平氏

 

PROFILE

  • (株)ベルシステム24ホールディングス
  • 所在地 : 東京都港区虎ノ門4-1-1 神谷町トラストタワー6F
  • 設立 : 1982年
  • 代表者 : 代表取締役 社長執行役員 CEO 野田 俊介
  • 売上高 : 1560億5400万円(連結、2023年2月期)

 

 

1 2
パーパスから描く未来戦略一覧へ特集一覧へ

関連記事Related article

TCG REVIEW logo