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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2023.09.01

福利厚生の開発力で会社を変える:ベネフィット・ワン 代表取締役社長 白石 徳生×タナベコンサルティング 若松 孝彦

可処分所得を増やす家計支援策としての福利厚生

 

若松 総務省統計局が発表した2023年5月の消費者物価指数は前年同月比3.2%の上昇でした。国会でも、増税をめぐる議論が連日のように行われています。増税やインフレが加速する今、企業が福利厚生に取り組む意義についてお聞かせいただけますか。

 

白石 これからは、企業が福利厚生を通して賢く税金と向き合いながら社員の生活を守り、精神的にも充足させていくことが重要なテーマになると考えています。日本の税制では個人が節税する方法は限られていますが、法人であればさまざまな工夫の余地がある。社員の金融リテラシー教育も含めて、企業が果たせる役割は大きいはずです。

 

若松 2023年5月に発表されたベネフィット・ワンの中期成長戦略においても、社員の家計支援策として福利厚生に取り組む意義を前面に打ち出されています。

 

白石 2021年にローンチした給与天引き決済サービス「給トク払い」は、家賃、光熱費、ガソリン代といった社員の生活固定費を企業が集約して決済することにより、さまざま特典や割引を受けられるというものです。

 

また、2023年3月には給与のデジタル払いが解禁されることを受けて、ベネフィット・ステーションのサービスに「au PAYギフトカード」を追加しました。同年6月からはNetflixの給トク払いも始めています。そのほか、ガソリン代やインターネット料金など、生活に密着するサービスを中心に開拓を進めているところです。

 

若松 給与を単純に上げることだけではなく、福利厚生によって社員の可処分所得を増やすというアプローチですね。民間企業が福利厚生施策を通して社会インフラとしての側面を担う。ESG経営の文脈から見ても大変興味深い潮流です。

 

ベネフィット・ステーションでは2023年7月現在、何種類のサービスを利用できるのですか。

 

白石 140万件以上です。会員とその家族(二親等内)が、全国47都道府県の多岐にわたるサービスを、いつでもどこでも何度でも使えます。

 

コロナ禍以降は、「福利厚生社宅」の啓蒙活動にも力を入れています。給与として住宅手当を支給するのではなく、社員であれば誰でも借りられる福利厚生施設として提供するというものです。社員が家賃の50%以上を負担すれば、福利厚生として認められ非課税となります。給与総額を減らすことで社会保険料の負担が減り、企業・社員双方にとって節税にもつながります。

 

欧米ではタックスメリット(投資の際に得られる税制上の利益)に対する意識が高く、就職の際には福利厚生の充実度をチェックするのが常識です。日本では企業が所得税を源泉徴収してきたこともあり、ビジネスパーソンの税制に対する関心度は極めて低かったと思いますが、これからは違います。人手不足が深刻化する日本において、福利厚生社宅は新しいスタンダードになると予想しています。

 

若松 あらゆる生活サービスを、所属企業の福利厚生制度を通して購入する。冒頭でおっしゃっていたサービスの流通革命の実現に向かって、着実に進んでいます。サプライヤーである不動産会社にとってもBtoEの新たな販路となりますね。

 

決済事業を収益化しユーザーの裾野を拡大

 

若松 さらにスケールメリットを拡大していくために、今後どのような中期ビジョンや戦略をお考えですか。

 

白石 「同一労働・同一賃金」の実現に向けて、2023年4月からパート・アルバイトの方々に対する福利厚生サービスの導入促進を進めているところです。アップセル(顧客単価を上げる取り組み)の拡大余地として260万人を見込んでいます。

 

また、2029年をめどに会費を無料化する目標を掲げています。会費も広告費も取らず、決済で収益を上げていけるようビジネスモデルを進化させていく方針です。

 

会費を引き下げることで中小・零細企業や自営業者の会員化を推進し、2026年3月期までに会員数1800万人、10年後には全ての就労者が利用するサービスに成長させたいと考えています。

 

若松 収益構造を変革していくということですね。福利厚生制度を活用してユーザーの裾野を広げていくという発想は非常にユニークかつダイナミックです。これからベネフィット・ワンのビジネスを発展させていく上でも、コアとなる部分ですね。

 

白石 創業以来、一貫して目指しているのはサービスのDX、「見える化」です。宣伝広告予算ではなく、純粋にサービスの質の良さで勝負できるプラットフォームを構築する。当社の社員にとっても、その点が働く意義につながっていると思います。

 

「ベネワン・プラットフォーム」によるHRDXの推進

 

若松 福利厚生・健康プログラム・タレントマネジメントのデータを一元管理する「ベネワン・プラットフォーム」は、ベネフィット・ステーション会員企業であれば無料で利用できるそうですね。データヘルスや健康経営への積極的な活用が期待されます。

 

白石 健診代行や特定保健指導などのヘルスケア事業を通して、事業主と保険者の積極的な連携強化を図る「コラボヘルス」を推進し、HRDXのリーディングカンパニーとしてウェルビーイングの向上を支援していきたいと考えています。(【図表】)

 

【図表】「ベネワン・プラットフォーム」によるHRDX支援の取り組み


出所 : ベネフィット・ワン提供資料よりタナベコンサルティング作成

 

若松 今回の対談を通して、福利厚生が縮小傾向にあった時代に逆行してでも福利厚生のベネフィットを追求してきた白石社長の先見性を強く感じました。新しい事業の種をどう見つけていくか。その視点を社員に教えるのは難しいと思いますが、社員教育ではどのようなことを大切にされていますか。

 

白石 当社では、20歳代を中心とした若手社員が1年かけてさまざまな経営課題に取り組む「ジュニアボード制度」や、私自身の原点でもある「社内ベンチャー制度」を設けています。なぜなら、当社が安定的な売り上げを得られるサブスクリプション型のストックビジネスであるが故に、社員が危機感を抱きにくいからです。

 

今の若い世代は基本的に競争を好みません。守ってくれる経営者がいる限り、言葉でいくら煽っても甘えてしまうものです。やはり自分で事業を立ち上げるなどの体験をしてみないと、本当の意味で目が覚めることはないのではないでしょうか。

 

若松 優秀な企業ほどジュニアボード制度や新規事業チームを立ち上げ、社員の皆さんに体験、経験させているケースが多いですね。経営者育成の必要性を感じているのでしょう。白石社長もまた、そのように波を乗り越えながら続いていく会社を築いておられるのだと思います。本日はありがとうございました。

 

ベネフィット・ワン 代表取締役社長 白石 徳生 (しらいし のりお) 氏
1989年拓殖大学政経学部を卒業後、1996年パソナグループの社内ベンチャー第1号としてビジネス・コープ(現ベネフィット・ワン)を設立、取締役に就任。2000年同社代表取締役社長に就任。JASDAQ、東証2部を経て2018年に東証1部上場、2022年に東証プライム市場へ移行。「サービスの流通創造」を経営ビジョンに、ユーザー課金型の定額制割引・予約サイト「ベネフィット・ステーション」を運営。また、福利厚生・健康支援・教育研修を軸としたBPOサービスのワンストップソリューションを提供し、「ベネワン・プラットフォーム」を通じて企業のHRDX推進を支援している。

 

タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。
1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

タナベコンサルティンググループ(TCG)
大企業から中堅企業のビジョン・戦略策定から現場における経営システム・DX実装までを一気通貫で支援する経営コンサルティング・バリューチェーンを提供。全国600名のプロフェッショナル人材を有し、1957年の創業以来15,000社の支援実績を持つ日本の経営コンサルティングのパイオニア。

 

PROFILE

  • (株)ベネフィット・ワン
  • 所在地 : 東京都新宿区西新宿3-7-1 新宿パークタワー37F
  • 設立 : 1996年
  • 代表者 : 代表取締役社長 白石 徳生
  • 売上高 : 423億7600万円(連結、2023年3月期)
  • 従業員数 : 1527名(連結、2023年3月現在)

 

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