その他 2022.08.01

ベネフィット・ワン:社員の「感度」を磨き企業文化を創造する

福利厚生サービスを提供するベネフィット・ステーションでは、140万件以上のサービスを会員限定の優待価格で提供している

 

 

社員の教育・交流の場として、2005年からジュニアボード制度を導入したベネフィット・ワン。メンバー同士だけでなく、経営者との対話や部門・業界を超えた交流により、社員の「感度」を高めている。

 

 

企業規模の拡大とともに失う無形資産

 

「人と企業を繋ぐ新たな価値の創造を目指し、サービスの流通創造を通して、人々の心豊かな生活と社会の発展に貢献しよう」を企業理念に、主に法人顧客の従業員が、宿泊施設や、介護・育児サービス、eラーニングなど140万件以上のサービスを会員限定の優待価格で利用できる福利厚生サービス(【図表】)を提供するベネフィット・ワン。

 

 

【図表】ベネフィット・ワンのサービスモデル

出所:ベネフィット・ワン提供資料を参考にタナベ経営作成

 

 

代表取締役社長である白石徳生氏が総合人材サービス会社・パソナグループの社内ベンチャー第1号として1996年に起業した。以後、企業の経営課題解決や消費者の利用満足度向上に貢献する事業を展開し、今では従業員数1500名を超える企業へと成長を遂げている。

 

躍進の背景には、時代のニーズを的確に捉えたビジネスモデルがある。インターネット黎明期に設立した同社は、ユーザーからの会費収入を収益源とする会員制福利厚生サービス「ベネフィット・ステーション」を開始。当時、バブル崩壊を受けて自社で保養所の保有が困難な状態であった企業の間で、同サービスは瞬く間に広がった。その後、ヘルスケアをはじめ人事労務関連のさまざまなサービスを拡大してきた。

 

新たな市場を開拓してきた同社は、進取の気風に富んだ文化を持つ企業でもある。だが、企業というものは、成長するに従ってそうした気風が後退し、硬直化する傾向にある。同社も創業当時から続く企業文化の維持に苦心してきたという。

 

「企業は規模が大きくなるにつれて、キャッシュ・顧客・知名度などさまざまな価値が蓄積されていきます。その一方で、社員の主体性や、高い志を持って大きなリスクを背負いながらも物事に挑戦するベンチャースピリットといった無形の財産は劣化していきます。

 

これは当社に限らずどの企業にも当てはまることで、もはや宿命です。そこで当社では、創業当時から続く企業文化を継承していくために、ジュニアボード制度をはじめとしたさまざまな施策で社員の『感度』を高めています」(白石氏)

 

 

優れた感度が顧客満足度を向上させる

 

感度を高めるベネフィット・ワンの取り組みについて、「ユニクロ・ニトリ・ソフトバンクなど誰もが知る企業の社員の方々の感度の高さを参考にしています」と白石氏は続ける。

 

「ユニクロ・ニトリ・ソフトバンクの事業の大枠は、他の競合する企業とそれほど変わりません。誤解を恐れずに言えば、ビジネスモデルそのものは特筆すべきものではないのです。

 

しかし、これらの企業の社員の方々は、お客さまへの対応に悪い点があるとすぐに気が付き、迅速に関係性を修復します。また、業務の進め方においても、非効率と判断すればすぐに改める。そのスピードと正確性が、他社とは圧倒的に違うのです。

 

そして、それを可能にしているのが社員の感度の高さです。感度が優れているからこそ、多くの顧客から支持を受けている。これに倣い、当社でも社員の感度を磨くための気付きの場を用意しています」(白石氏)

 

その代表的な施策が、2005年に導入したジュニアボードである。これまで毎年10名の社員を選出しており、参加する社員の選考基準も明快そのものだ。

 

まず、年代は20~30歳代と若手・中堅社員を中心に構成。同じ入社年次の社員は選ばず、業務で接点の少ない社員が交流できる場としている。「選抜基準は『前向きで主体性があり、素直であること』。この3つが重要です」と白石氏は続ける。

 

この3つの素質を持つ社員は、現状に満足することなく感度を研ぎ澄まして、未知の領域にチャレンジできるからだ。

 

ジュニアボードとは、企業経営における「若手(青年)役員会」の位置付けであり、次世代の役員・経営幹部候補をつくる取り組みの1つだ。同時に、自社の経営の現状と将来について具体的な改革プランを発信・提言する機関でもある。

 

ベネフィット・ワンでは、ジュニアボードを「社員教育の場」と「情報共有の場」の2つと位置付けている。

 

社員教育としては、経営者である白石氏自らが、その時々の社会情勢や市場動向など幅広いテーマで参加者とディスカッションを行う。さらに、ビジネスの第一線で活躍する社外の経営者を招き、社会や時代を見る視点や物事の考え方を伝えることで、社員の感度を養っている。

 

情報共有では、「社内の情報共有の促進」をテーマに、自社の経営・業務課題の解決に向けた施策づくりを行う。

 

「組織が大きくなると経営者の考えが現場に伝わりにくくなり、同様に、現場の意見も経営陣に届きにくくなります。当社のジュニアボードでは、選抜メンバーが情報共有を図るための施策を全社的な視点で考え、意見交換しながら検討・導入しています」(白石氏)

 

ジュニアボードで生まれた施策は、オフィスのさまざまなところで見られる。例えば、フリーアドレス制度の導入やデジタルサイネージの設置もその1つである。フリーアドレス制度は社員のコミュニケーションの活性化に、デジタルサイネージの設置は各部門の取り組みや自社の株価指数など全社的な情報の浸透に効果を発揮している。

 

一般的に、社内への情報発信は社内イントラネットを活用するケースが多いが、各自のPCで確認するため社員間の交流が生まれにくい。デジタルサイネージを設置することで、休憩中や業務の隙間に目に止まり、そこから新しいコミュニケーションが生まれる。

 

「デジタルサイネージなどの施策はもちろんのこと、2次的な効果も生まれています。これまで毎年10名の社員が参加し、合計すると200名近い社員がジュニアボード経験者になりますが、参加社員が各部門へ良い影響を与えているのです。

 

ジュニアボードで学んだ経営的な視点や、何か問題があればすぐに改善行動に移すという実践力を発揮して、周りを良い方向に巻き込んでいるのだと感じます。社員の感度の劣化を防ぐ役割を、ジュニアボードの参加メンバーが担っているのです」(白石氏)