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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2022.12.01

過去の延長線上にないビジネス創造で 「スペースクリエーション」企業を目指す:サンゲツ 代表取締役 社長執行役員 安田 正介×タナベコンサルティング 若松 孝彦

従来の延長線上にない展開を望むのであれば、
私たちの目指す姿を示す必要があります

 

 

【図表】「スペースクリエーション」企業の実現に向けた価値創造ストーリー

出所:サンゲツ提供資料よりタナベコンサルティング作成

 

 

一気通貫のバリューチェーンで新たなビジネスモデルを

 

若松 製造機能を持つことで、製販一体体制を実現されました。バリューチェーンにおける垂直展開によって、チャネルも含めてマーケットを押さえることができます。

 

安田 国内であれば、グループ内で製造・販売し、現場まで配送するという一気通貫のサービスが可能になります。

 

若松 事業の幅が広がりますね。さらに、2020年からは長期ビジョン「DESIGN 2030」において「サンゲツはスペースクリエーション企業へ」というスローガンを掲げられました。この時期に長期ビジョンを策定した狙いはどこにあるのでしょうか。

 

安田 2014年から2回の中期経営計画を終え、2020年から3回目の3カ年中期経営計画「D.C. 2022(Design&Creation 2022)」を実行しています。実は、最初の6年間は従来の事業モデルの課題や発展に主眼を置いた計画でした。ただ、社内体制や事業構造は改善しているものの、10年、20年先も成長を続けるには新たな事業モデルが必要だと痛感しました。

 

従来の延長線上にない展開を望むのであれば、私たちが行き着く先、目指す姿を社内外に示さないといけません。そうした経緯で、長期ビジョンを策定しました。現在は、長期ビジョンのファーストステップとなる「D.C. 2022」に沿って新しい事業モデルの構築に取り組んでいるところです。

 

若松 「スペースクリエーション」企業という名前から、モノビジネスからコトビジネスへの転換という強いメッセージが伝わってきます。

 

安田 ライフスタイルの多様化や働き方の柔軟性の高まりから、空間デザインに対するニーズが非常に高まっています。スペースクリエーション企業とは、「空間」を創造するために重要な製造・企画・デザイン・配送・施工といったバリューチェーン上のさまざまなサービス機能を持ち、それらをクリエーティブな構想力をもって組み合わせながら、社会への提供価値としてデザインできる企業のこと。お客さまの要望を聞き、あらゆる機能を駆使して空間デザインを提供する新たな事業モデルの実現に向けて、デザイナーの採用や施工企業のグループ化など体制を整えているところです。

 

若松 空間デザインから施工、施設の運営管理までトータルでプロジェクトをサポートし、業績を伸ばしている企業もあります。バリューチェーンの機能強化を図りながら、そのような形を目指していくのでしょうか。

 

安田 モノの生産から空間デザイン、コトの提案までできる、幅のある会社にしていきたいと考えています。クリエーティブな部分と、当社が得意とする内装材料販売による効率的な部分を組み合わせるハイブリッド型の事業モデルです。空間デザインから施工までトータルに手掛けるだけでなく、空間デザインだけを提案するケースや空間デザインと材料の製造・販売を行うケース、材料の配送や施工まで手掛けるケースなど、さまざまなパターンが考えられます。

 

私はこれを、よく肉の卸売に例えて説明します。これまでは牛肉や豚肉、鶏肉、馬肉などさまざまな肉を仕入れて小売肉店に販売・配送したり、直接ホテルなどに販売・配送したりしていたものを、肉の生産やレシピ開発・調理・配送・設営といった各機能を強化・拡大することで、最終的にはパーティーをプロモートできる企業になるイメージです。

 

パーティー全体を企画するのはもちろん、開発したレシピと材料を適切なタイミングで提供したり、肉だけでなく飲料の調達なども含めて会場の設営を請け負ったりと、顧客のニーズに合わせてさまざまな提案ができる形が理想です。極端ですが、肉(当社商品)を一切使わないヴィーガン食のパーティーをプロモートするようなケースもあって良いと思います。

 

 

サステナブルな事業経営で国境を越える唯一無二の価値を提供

 

若松 タナベコンサルティンググループでは、チームコンサルティング理論として「高度の専門化と高度の総合化」という価値観を大事にしています。まさに、インテリア材やエクステリア材の仕入れや販売・配送において高い専門性を持つサンゲツだからこそ、高度な総合サービスが実現できるのだと思います。

 

安田 今の時代、モノを安く仕入れて大量に販売する事業モデルは業界の疲弊につながりますし、サステナブルではないと思います。当社は2021年から商品の値上げを実施しましたが、幸い顧客離れは起こっていません。これは、前述の改革を進めたことで、「サンゲツのサービス機能が日本の建設業界において重要な役割を担っている」ということを、あらためてご理解いただけた結果だと認識しています。値上げを実施したことで収益も大幅に改善しており、2022年度の第1四半期は連結で営業利益率が9.8%まで上昇しました。

 

若松 業界のリーディングカンパニーとして値上げに取り組まれたことは非常に革新的です。世の中にとってサンゲツの存在価値・貢献価値が高いことが分かります。

 

安田 当社の存在価値・貢献価値をさらに高める上で、海外市場への展開も重要です。それぞれの国・地域の特性を見ながら、どういった機能を持たせるのか見極めていきたいと考えています。

 

若松 インテリア材やエクステリア材は風土や生活様式によって大きく異なります。市場規模や経済環境によって商品や戦略を変えていく必要がありそうです。

 

安田 例えば、米国は市場が大きいため、「インテリア材の販売をさらに拡大させた上で、次にどのような価値を付けるか」というアプローチになります。今は単に製造して、販売するだけ。配送は現地の業者に任せていますが、そうした事業形態を変えるか否かも含めて、いかに価値を付けていくのかを考えていかねばなりません。

 

一方、東南アジアに関してはインテリア材だけで進出するとマーケットが限られてしまうため、最初からバリューチェーンの上流にある空間デザインも含めてスペースクリエーション事業を展開する方法を視野に入れています。

 

若松 海外展開においても、スペースクリエーション事業をいかに構築するかが鍵になります。バリューチェーンの上流工程であるクリエーティブな部分と、効率性の良い下流の部分がうまくモデル化されると、サンゲツらしい唯一無二の事業モデルが生まれるでしょう。

 

安田 従来のバリューチェーンに加えて、企画・デザインと製造、配送、施工という4つの機能を広げていくことが、次の収益を生み出すポイントになると思います。まずは国内で事業形態を変えながら、海外のマーケットに新たな事業モデルを持っていけるよう2030年に向けて取り組んでいきたいと考えています。

 

若松 スペースクリエーション企業という新たなステージに向けて、ますますご活躍されることを祈念しております。本日はありがとうございました。

 

 

 

サンゲツ 代表取締役 社長執行役員 安田 正介(やすだ しょうすけ)氏

1973年三菱商事入社、2004年執行役員機能化学品本部長、2008年常務執行役員中部支社長。2012年サンゲツ取締役に就任し、2014年代表取締役社長、2019年より現職。

 

 

タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)

タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

 

タナベコンサルティンググループ(TCG)

大企業から中堅企業のビジョン・戦略策定から現場における経営システム・DX実装までを一気通貫で支援する経営コンサルティング・バリューチェーンを提供。全国600名のプロフェッショナル人材を有し、1957年の創業以来15,000社の支援実績を持つ日本の経営コンサルティングのパイオニア。

 

 

PROFILE

  • (株)サンゲツ
  • 所在地:愛知県名古屋市西区幅下1-4-1
  • 設立:1953年
  • 代表者:代表取締役 社長執行役員 安田 正介
  • 売上高:1494億8100万円(連結、2022年3月期)
  • 従業員数:2453名(連結、2022年3月期)

 

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