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研究リポート2023.09.19

イノベーションが未来をつくる(ゲスト:住友林業、竹中工務店、ヤマダホールディングス)

竹中工務店:竹中工務店におけるデジタル人材育成

竹中工務店
デジタル室 管理・教育グループ長
田邊 紀光 氏
1992年4月入社。作業所、技術研究所勤務を経て、インフォメーションマネジメントセンター(情報システム部門)に配属。全社ICT関連費用の予算計画、実績管理などを担当し、2022年4月より現職。全社的なデジタル人材育成計画の立案・運営をはじめ、デジタル専門人材の採用、全社デジタル関連費用管理などを担当。

 

竹中工務店におけるデジタル変革の取り組み

 

竹中工務店は、建設工事および土木工事に関する請負、設計、監理を主事業としている。売り上げ(単体)の9割以上を建設事業が占める“建設専業”である点は、他社と異なる当社の特徴である。

 

神社仏閣の造営を業として1610年に創業。従業員数7751名(2023年1月)、グループ会社55社を擁する。

 

現在はグループ会社と一体となった成長戦略として、「グループで、グローバルに、まちづくりにかかわる」を掲げた「2025年グループ成長戦略」に取り組んでいる。デジタル部門としては、「まちのライフサイクルの企画・計画、建設、維持運営」に関するデジタル変革をはじめ、これを支えるアプリケーションやインフラの構築・運用を担っている。

 

【図表1】2025年グループ成長戦略

出所:竹中工務店講演資料

 

竹中工務店がデジタル変革に取り組む背景として、建設業における課題や環境変化が挙げられる。他産業に比べて低い生産性、建設技能労働者の減少、改正労働基準法の適用など、従来のやり方を根本的に見直さなければ、とても対応しきれない状況にあり、デジタルの力が求められた。

 

デジタル化の推進にあたっては、やみくもに取り組むのではなく、全社で、整合性を持って進める必要がある。具体的には、次の8項目を同時並行で進めていく。

 

1.デジタル化によって目指す姿を設定、バックキャスト

2.デジタルデータを活用するためのデジタル基盤整備、クラウド化

3.デジタル化進展に伴うサイバーセキュリティーリスク低減、安定稼働への対応

4.AIなど先進的なデジタル技術適用

5.データ利活用のための組織・人材

6.デジタルを積極的に活用する業務・働き方改革

7.グループ・グローバルを視野に、デジタル化推進

8.上記のための投資

 

これらを通じ、デジタル化による業務の効率化、さらにはデジタル化による業務の変革に取り組む形となる。

 

竹中工務店では「2030年にデジタル変革で目指す姿」として、「お客様の課題解決と事業機会の創出」「圧倒的なお客様満足を生み出すものづくり」「建築とそのプロセスでのサステナブルな価値提供」を策定。この「目指す姿」を関係者全員で共有し、推進している。

 

デジタル変革の推進体制は、役員が委員を務めるデジタル中央委員会の下にデジタル変革推進タスクフォースを編成。メンバーは本社の管理系(経営企画、総務など)・プロジェクト系(営業、設計、生産など)のメンバーと、事業部門のメンバー(本支店のデジタル化推進責任者)をアサインしている。

 

デジタル室は全体事務局を務めながら、デジタル化推進副責任者として、事業部門(各店)にも兼務配置されている。このように、デジタル部門と事業部門が二人三脚でデジタル変革を推進できる体制が特徴である。

 

【図表2】デジタル変革の推進体制

出所:竹中工務店講演資料

 

竹中工務店は「働き方改革」について、トップから全社員へメッセージを発信している。「労働生産性と知的生産性の向上のために、働き方改革を断行しよう」という内容で、その中には「すべての業務のデジタル化」を掲げている。

 

デジタル化されたデータをデータベースに集約し、そのデータを使って効率よく物事を判断できるようにしていくために、全社のデータ蓄積・活用の仕組みである「建設デジタルプラットフォーム」を構築し、運用を実施。また、データ基盤と業務をサポートする「DXアプリケーション群」の開発を順次進めている。

 

【図表3】建設デジタルプラットフォームの構築

出所:竹中工務店講演資料

 

デジタル変革の効果をより高めるには、従業員がデータ基盤に蓄積されたデータをアプリケーションを介して扱うだけでなく、従業員が自由に扱える状況にしなければならない。当社の場合、全従業員がアプリケーションにあるデジタル情報を有効活用するためのリテラシー向上が課題となっていた。

 

デジタル人材育成の取り組み

 

従来、情報系の部門に配属された社員はデジタルエキスパート、それ以外の部門だと担当事業のエキスパートとして教育されてきた。しかしながら今後は、デジタルと事業のどちらの専門性も身につけているハイブリッド人材を育成していく必要がある。
 

この考えのもと、社員を4つのカテゴリーに分け、デジタル人材育成を進めている。デジタルで業務を行う「一般社員」(カテゴリーⅠ)、デジタル化活動をリードする「部門キーマン」(カテゴリーⅡ)、デジタル変革を主導する「デジタル技術専門人材」(カテゴリーⅢ)、「デジタル技術&事業エキスパート」(カテゴリーⅣ)である。

 

各カテゴリーにおいて、目指すスキル・リテラシーを設定し、どういった狙いでどのような向上策を、どのような手段で行うかをまとめている。カテゴリーⅠの場合、2022年入社の新入社員(新社員)から、この育成方法を本格運用している。

 

カリキュラムの内容は、経済産業省「デジタルスキル標準ver.1.0」を参考にした。「ビジネスパーソン一人一人がDXに関するリテラシーを身につけることで、DXを自分事ととらえ、変革に向けて行動できるようになる」という同標準策定の狙いに共感できたこと、事前に検討していたカリキュラムの内容にも非常に近かったことが、参考にした理由となる。

 

加えて、「デジタルスキル標準」は順次アップデートされるので、内容の取りこぼしがないことも参考にした理由となる。

 

新入社員教育プログラムの受講者の学び・気づきとしては、DXの推進・生産性向上は喫緊の課題であること、建設デジタルプラットフォームの整備を進め、全社的にデジタル変革を進める必要があること、データを活用できる力が求められること、業務のデジタル変革はデジタル室だけが取り組むものではないこと、の4つ。これまでの取り組みや成果発表を通じ、スキルだけでなくマインドも含めて向上しており、着実に成果が上がっていると実感している。

 

また、情報部門の風土・文化も変わってきている。これまで情報システム部門は受け身の姿勢で仕事を進めていたところがあったが、デジタル変革の責任部門として、一人一人が変革をけん引する意識を醸成する必要があった。

 

そこで、文化風土改革を行うことを室長に宣言してもらい、部門外にも周知。部門長・上司は、メンバーの意見に対する良しあしの判断だけでなく、メンバーに熟考させ、行動につなげていくよう問いかける手法へ変更し、意識改革を行った。

 

メンバーに対しては、課題に対する解決案の仮説を立て、メンバー間で周知結集の場を設け、社内相談とともに先進技術や事例を学びながら、主管部門や顧客への提案を行う、といったサイクルを繰り返しながら、意識変革へつなげていった。

 

今後、カテゴリーⅠ(一般社員)は、新入社員向けコンテンツのダイジェスト版やeラーニング版を製作し、すきま時間などにいつでも学べる環境を整え、新入社員以外にも展開し、カテゴリーⅠ全体の底上げを図る。また、中級編・上級編を作成し、カテゴリーⅡ(部門キーマン)にも展開していく。カテゴリーⅢ(デジタル技術専門人材)は、現場配置やローテーションを拡大し、事業分野の専門性を高めていく。

 

事業領域の人材に関してはデジタル領域の専門性、デジタル技術の専門人材に関しては事業分野の専門性を高めるべく、それぞれのハイブリッド人材を育成する活動を今後も推進していく。

 

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