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【研究リポート】

FCC FORUM 2023

人材は今、企業価値の向上において最も重要な要素と位置付けられ、積極的に投資を行うべき対象へ変化している。新たな製品・サービスを生み出す力や、新たなビジネスモデルへの対応力は、全て人材が生み出すものであり、それが企業の競争優位性の源泉となるからだ。「投資により、人材の価値を新しく創造する」「人材の力を高めることで、企業価値を高める」をテーマに開催し、全国1700名の経営者・リーダーが視聴したタナベコンサルティング「ファーストコールカンパニーフォーラム2023」(2023年6~8月、オンデマンド開催)の講演内容をまとめた。
研究リポート2023.10.02

パーパスと向き合うヴィスの文化づくり:ヴィス

フィロソフィーに立ち返り諦めずに伝え続ける

 

山中 社員の皆さんと目線を合わせるために、大事にされていることはありますか。

 

中村 社員250名の氏名を全て覚えて、必ず名前で呼んでいます。やっぱり名前で呼ばれるとうれしいじゃないですか。クレドにも掲げていますが、人にされてうれしいことを、とても大事にしています。

 

社員と、より深くコミュニケーションを取れるように、会長室や社長室は昔からありません。今のオフィスで私が座るのは、社員通用口に一番近いところです。みんなにあいさつするためで、毎日顔を合わせて、誰よりも大きな声を出しています(笑)。

 

山中 トップが率先して取り組む姿勢ですね。

 

中村 もちろん、それには理由があります。当社のビジネスは、形あるプロダクトをつくる仕事ではありません。私はよく「無形商材」と言うのですが、何もないゼロの状態からデザインしてオフィス空間をつくるので、人との関わりが薄ければ仕事になりません。ミーティングでみんなが「ダンマリ」だったら、何一つ進まない仕事なのです。

 

山中 コミュニケーションが自然発生的に生まれることが、社員の皆さんの能動的でスムーズな活動につながるということですね。

 

中村 そうありたいと願っていますし、経営層としてやるべきことが1つあるとすれば、それは、諦めないで言い続けることじゃないかと思っています。そんなに簡単には、人は動きませんからね。

 

私は、1度言うだけでは相手に50%しか伝わらないと思っています。100人いれば50人にしか伝わらないので、2回目は残る50人に、3回目は25人に対してといったように、どこまでもめげずに、諦めずに言い続けています。

 

それぐらいやり続けてもゼロにはならないのが難しいところですが、常にパーパスやクレドなどのフィロソフィーに立ち返れることが強みではないかと感じています。

 

山中 立ち返るところがあるから、社員の皆さんの判断軸や物の考え方、価値観が育まれていくのでしょうね。

 

 

言行一致で先頭に立って動く

 

山中 最後に、中村会長の経営思想についても教えていただけますか。

 

中村 私の考えにはオリジナリティーがないと思っています。それは、若い頃に稲盛和夫さんの著書『ガキの自叙伝』(日経BPマーケティング)を読んで感動して以来、いつも書籍から学んでいるからです。

 

私が尊敬する人は稲盛さんと松下幸之助さん、坂本龍馬さんの3人です。それぞれに経営思想がありますが、共通して大事にされているのは、自分が先頭に立って動くということ。私の座右の銘は「言行一致」で、言うことと行うことは一致させないとダメだと思っています。

 

「私が何を考えているか、どんな行動をしているのか、社員は全部見ている」と自分にプレッシャーをかけています。これも書籍から学んだことですが、経営者として最も重要なのは、自分がやっていることと同じことを部下がやっても許せるかどうか、自分に問いかけることです。

 

実は、これが結構きついのですが、歯止めにもなりますし、それができる経営者なら多分、周りにも良い影響が自然と生まれるはずです。

 

山中 今回の対談で学んだポイントを3つ、あらためて整理します。1点目は、パーパスに関する相互コミュニケーションや独自の特徴的なネーミングで、社員が自社に愛着を持つことを通して、企業としてのカルチャーを育まれていることです。トップダウンだけで落とし込むのではなく、クレドに対して自ら発信する場があるなど、社員と並列的な立場でコミュニケーションを取ることで、企業としての判断基準と社員から見た判断基準、互いの水準を合わせていく。それが、結果的に企業カルチャーを育みながら、非常に強固な組織へと成長することを実感しました。

 

2点目は、パーパスやクレドの浸透を人材育成の一環として、優先度高く取り組まれていることです。人材育成と聞くと、専門知識や業務遂行のスキルを高めることをイメージされる方も少なくないと思います。しかし、ヴィスでは新しく入社した社員とすぐにコミュニケーションを取り、対話を重ねて、個人の働く目的や企業として進むべき方向性の共感を育み、社員が取り組む業務や、その業務の社会への貢献度合いを高めていきます。それが、結果として自発的・能動的に行動する人材の育成につながっているのです。

 

3点目は、トップ自らがパーパスと向き合い、社員と同じ目線に立ってコミュニケーションを取ることです。フィロソフィーは、社会に対してどんな価値を提供するのか、経営トップの思いが明文化されています。

 

ただ掲げるだけや周知するだけというレベルではなく、トップが自ら一人一人と真摯に向き合い、その声に耳を傾けることで社員が腹落ちするため、フィロソフィーに基づいて判断しながら日々の業務を進めることができ、高エンゲージメント企業として成長し続ける、ということです。本日は、ありがとうございました。

 

 

PROFILE

  • ㈱ヴィス 代表取締役会長
    中村 勇人(なかむら はやと)氏
    1960年大阪府生まれ。大手ディスプレイ・商業空間デザイン会社を経て、1998年ヴィス創業。2004年からデザイナーズオフィス事業をスタートし、オフィスデザイン業界の拡大に尽力。2020年東証マザーズ上場、2021年東証二部上場を経て2022年より東証スタンダード市場。2022年現職。

 

Interviewer

山中 惠介(やまなか けいすけ)
タナベコンサルティング HR 人的資本経営チーフマネジャー

 

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