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【コンサル事例】

チームコンサルティング事例

クライアント企業とタナベコンサルティンググループのコンサルチームが取り組んだ経営改善の事例。施策と成果を紹介します。
コンサル事例2023.08.03

ホクシン:SDGsの実践で経営をアップデート

ポイント


1 サステナブル経営につなげるためのSDGsプロジェクトを開始
2 サステナブルビジョンの策定と次世代リーダー人材の成長
3 自社の在りたい姿を社内外に正しく発信

 

 

 

お話を伺った人


ホクシン株式会社 代表取締役社長 高橋 英明 氏

 

 

 

持続的な成長に向けてSDGsプロジェクトを始動

――ホクシンは、国内で初めて木質工業材料・MDF(中質繊維板)の生産を開始したパイオニアであり、専業メーカーでは業界トップです。未利用材や解体材・廃材のマテリアルリサイクルにより、原料の丸太材を必要としない原料調達で環境に優しいMDFは、グリーン購入法(環境に配慮した商品調達を推進する法律)の「特定調達品目」として家具木工から住宅建材まで幅広く利用され、温暖化防止や環境負荷軽減に貢献しています。

 

「明日の木材を考える」を不変のモットーに、木質工業材料メーカーとして「もっと・ずっと・うまく」環境保全と調和する持続可能な事業成長を目指すべく、新中期経営計画につなげるSDGsプロジェクトを推進され、タナベコンサルティングが支援しました。

 

高橋社長:北海道の合板製造から始まって半世紀前にMDFの開発・製造を開始し、2021年に創業90周年を迎えました。その際、「今後も持続的に成長を遂げて、世の中から必要とされ続ける存在となっていくために当社に求められることは何か」を整理し、経営をアップデートしようと考えました。特に、「持続可能な社会の進展に貢献するSDGsとどう向き合うのか」について現在地を知る必要があると考えていた時に、タナベコンサルティングからプロジェクト推進の提案をいただきました。

 

 


ホクシンの主力製品であるMDF(ミディアム・デンシティー・ファイバーボード)

 

 

――きっかけは、当社主催のマーケティングセミナーへの参加でした。TCFDへの感度が高く、事業そのものがSDGsに貢献するホクシンだからこそ、「その企業価値を全社でより深く共有し、対外的にも発信することが大事です」とお伝えしました。

 

高橋社長:当社の主力製品であるMDFの原料は未利用材です。小径木や製材・合板材料には使えない未利用材、製材くず、木造建築の解体材、物流パレットの廃材などの木質資源をリサイクルし、SDGsの実現に貢献しています。ただ、業界以外の一般社会での認知度は低く、当社も積極的に発信していませんでした。

 

「社会的な存在価値を高めることで企業価値を向上させて、サステナブル経営につなげていくために、まずSDGsについてしっかりと理解を深める。その上で重要な要素を見極めることが、新中期経営計画の実効性をより確かなものにします」とアドバイスをいただき、サポートをお願いしました。

 

「社会性と収益性」を両立したビジネスモデルの実現

――2022年6月から「SDGs重点テーマ策定プロジェクト」がスタートしました。

 

高橋社長:SDGsの基礎知識を学び直すことから始めて、指針となるSDGsビジョンを定め、当社や社会、ステークホルダーにとってのマテリアリティ(重要課題)を特定して重点テーマを絞り込み、さらにKPI(重要業績評価指標)やアクションプランまで具体化するプロジェクトです。

 

このプロジェクトは2023年度にキックオフする新中期経営計画に連動させる狙いがありました。その事前準備として5カ月間という短期間のスケジュールでしたが、月2回、計10回のプロジェクトミーティングは、お互いが納得できるまで議論し合うスタイルで非常に中身の濃いものになりました。

 

SDGsに取り組む意義を解釈し、理解を深めて行動を起こすことが「選ばれ続ける企業」につながること。単なるCSR(社会貢献活動)ではなく、本業の自社ビジネスと社会的責任を果たすことを結び付けて「社会性と収益性」を両立するビジネスモデルになること。そして、サステナブル経営にSDGsをいかに組み込むか。事業環境の的確な分析に加えて、SDGsを推進する企業はどのような取り組みを続けて、どのように発信しているのかなど、他社事例も豊富に示してもらえたことはありがたかったですね。

 

――プロジェクトのプロセスにおいて、一貫してこだわったのは「具体化と分かりやすさ」です。

 

高橋社長:SDGsビジョンのフレーズは社員の共通語となるように、マテリアリティに関しても、ロングリストで網羅的な一覧表をつくるだけで終わらずに、優先的に取り組むショートリストを作成しました。KPIとアクションプランも、新中期経営計画で誰が何をするのかを具体化するためには不可欠なものでした。

 

マテリアリティを特定するバリューチェーンのマッピングを通して、事業活動を通じて世の中に貢献する「正」の活動(ポジティブインパクト)と、当社が存在することで負荷が生まれる「負」の活動(ネガティブインパクト)を可視化できました。そこから「正」を最大化、「負」を最小化するための取り組みを全社的に俯瞰して捉えることで、その実現に向けた強みと弱みも知ることができました。

 

強みは伸ばし、弱みは工夫して改善するというのはシンプルで分かりやすいですし、2030年のゴールを目指すSDGsの時間軸の中で、「自分はどのような仕事をするのか」「職場はどう在るべきか」をより強く意識できるようになりました。

 

 

サステナブルビジョンを策定し次世代のリーダー人材も成長

――2022年10月の最終報告会では、ビジョン(Sustainability Vision 2030)は「木と向き合い、未来を拓く」に決まりました。また、マテリアリティは「事業(ビジネス)・技術(イノベーション)・人材(ヒューマンリソース)」の3つの軸を定めました。

 

高橋社長:私だけではなく、社外取締役も含めた全役員が報告会に参加しました。SDGsビジョンのフレーズは、「未利用材を技術力で生かし、未来にも確かな価値を創り出す」という当社ならではの姿をうまく表現していて、全社員の心に刺さるものになりました。

 

マテリアリティは、「木質資源を利用する事業活動を通じた社会貢献」「MDFの新たな価値・可能性を広げる技術革新」「持続可能なモノづくりを支えるひとづくり」の3つの提供価値を最大化するというものです。具体的な取り組み内容は、ロングリストで108項目をピックアップし、さらに「理念との整合性、環境・社会・経済それぞれへのインパクト、情熱」の各項目で点数化してスクリーニングした後、ショートリストとして重点テーマを22項目に絞り込みました。

 

――プロジェクトは経営企画室を事務局に、製造・購買・営業・人事総務・技術開発・生産管理など各部門の代表が参画しました。多様な議論を通してメンバーの成長も実感されたそうですね。

 

高橋社長:全員が30代以上の次世代リーダー候補で、実は新中期経営計画の策定プロモーションも同じメンバー構成です。「SDGsの理解と検討を進めることで必然的に経営視座が高まります」とタナベコンサルティングからアドバイスをいただき、私からも「部分最適ではなく全社視点を持つ未来の経営幹部が育つように導いてほしい」とお願いしました。

 

当社はこれまで、現場の働きがいを大切にして、安心で安全な職場環境づくりや満足度を高める文化を育んできました。また、改善を実行する現場のスピードや意識が高いのも特長です。

 

プロジェクトを通して「これまでのホクシン」を評価することで、すでに実践しているSDGsが数多くあること、当たり前に行っていたことも世の中の視点に立てば特別な価値があることなど、自社の存在と事業の意義に大きな気付きを得ることができました。同時に、部門から全社、業界、世の中へとより高い視座で物事を捉える力も身に付き、「これからのホクシン」への意見や行動も能動的に変わり始めています。

 

 

自社の在りたい姿を社内外に発信して存在感を高める

――SDGsの達成を目指す2030年は、ホクシンが100年企業として新たな扉を開く節目にもなります。今後の展望をお聞かせください。

 

高橋社長:プロジェクトによって相互理解や建設的なディスカッションができ、部署の違いを超えてチームワークが高まりました。その成果と良い流れを新中期経営計画に実装して、社員のエンゲージメントを高めていきたいですね。採用活動においても、学生の意欲と期待に結び付けたいと考えています。

 

プロジェクトメンバーは発言の量も質も高まり、リーダーシップを発揮して全社に浸透させていく役割も担ってくれるでしょう。また、プロジェクト終了後には私が委員長を務めるサスティナビリティ委員会を発足し、SDGs推進ワークグループなどの実行体制も構築しました。

 

目指す姿を追求する仕組みとしてKPIなどの指標は持ちつつ、的確なモニタリングで適正な修正を重ねていくことも大事です。「2030年までにホクシンはこうなる!」という姿を、社員にも世の中にも発信して、存在感を高めていきたいですね。

 

――最後に、タナベコンサルティングへの評価や期待をお聞かせください。

 

高橋社長:一貫して、手厚くサポートしていただきました。元々、当社は風通しの良い企業風土ですが、事務局から「部門を超えてこれほど活発に議論し合える機会はなかった」という声や、メンバーからも「世の中のニュースを見る視点や感度が変わった」と報告を受けました。このような雰囲気と環境をつくってくれたおかげですし、プロジェクト終了後に参加メンバーがスタンディングオベーションで拍手して感謝の思いを伝えたのも、その証しだと思っています。

 

「実態以上により良く見せる『SDGsウォッシュ』ではなく、『たとえKPIを達成できなくても情報をオープンにして努力し続ける姿勢を見せることが信頼を高める』」とアドバイスいただけたのも心強かったですね。新中期経営計画を推進する中で、新たな重要プロジェクトで協力をお願いする機会も出てくるでしょうし、これからのホクシンにもぜひ力を貸していただければ嬉しいですね。

 

——タナベコンサルティングは、「もっと、ずっと、うまく」をキーワードに持続可能性を高めて未来に挑み続けるホクシンを、これからも支援してまいります。本日はありがとうございました。

 

※ 気候関連財務情報開示タスクフォース:企業の気候変動への取り組みに関する情報開示を推奨する国際的組織

 

PROFILE

    • 会社名:ホクシン株式会社
    • URL:https://www.hokushinmdf.jp/
    • 所在地:大阪府岸和田市木材町17-2
    • 創業:1931年
    • 従業員数:193名(2023年3月現在)

※ 掲載している内容は2023年5月当時のものです。

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