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【コンサル事例】

チームコンサルティング事例

クライアント企業とタナベコンサルティンググループのコンサルチームが取り組んだ経営改善の事例。施策と成果を紹介します。
コンサル事例2023.03.07

敬和会:医療・介護・福祉のプロフェッショナルを育てる「敬和会アカデミー」

ポイント


1 地域を包括的にケアする統合医療の実現
2 キャリアの未来像と必要な学びが一目で分かる学習プログラムを構築
3 実力や成果を正しく評価するジョブ型人事制度に変革

 

 

お話を伺った人


社会医療法人敬和会 理事長 岡 敬二 氏

 

 

 

 

地域を包括的にケアする統合医療の実現

 

——大分県内最大規模の社会医療法人であり、2024年に創業70周年を迎える敬和会様。少子化による人材不足や超高齢社会による医療需要に対応するための改革が進む中、地域の医療支援病院グループとして救急・急性期医療から介護・福祉サービスまで、シームレスな医療サービスを地域に対して包括的に提供しています。

 

岡理事長:医療改革の方向性の1つが、地域医療に必要な機能を網羅的に果たす医療事業体・IHN(統合ヘルスケアネットワーク)の確立です。「国際標準の卓越した医療サービスを、大分から」をビジョンに掲げる当法人では、「敬和会ヘルスケア・スマートリンク」という、地域を包括的にケアするネットワークを整備してきました。

 


出所:敬和会提供資料

 

医療・介護・福祉をつなげる統合型サービスを目指して、高度急性期・救急医療を担う大分岡病院、回復期治療を担う大分リハビリテーション病院をはじめ、日々の暮らしの介護支援や在宅医療、精神科医療、国際医療など6つの専門施設があります。手術からリハビリ、介護・在宅支援まで、ワンストップでつながる包括的なケアを実現しています。

 

——医療法人として、医療保険適用の範囲内にとどまらず、保険外領域の最先端医療分野や介護分野でも地域社会に貢献し、ビジネスとしても収益を上げる自社変革を進めてこられました。

 

岡理事長:理事長に就任する前から1つの課題を感じていました。私も心臓血管外科医ですが、医療法人のトップはドクターの方が多く、ドクターとして優秀でも経営的な目線を併せ持つ人が少ないことです。患者数の増加やコスト削減などの損益に目が向きがちで、医療の未来を見通す長期的な視点に立つことの重要性を痛感していました。

 

また、医療業界全体でチーム医療が進み、幅広い知見やコミュニケーション力が必要になっています。さらに、オンライン診療やデータ活用、AIやIoTなど次世代医療をリードしていくためには、従来の延長線上にない未知の課題を見極める洞察力と解決力、多様性を持つ人材が欠かせないとも考えていました。

 

——時代を読む先見の明と進取の精神に富む岡理事長が、統合医療で幅広いアプローチを可能にする人材を育てようと創設したのが、グループ内大学「敬和会アカデミー」です。

 

岡理事長:職員一人一人が社会・地域の変化を察知し、多様な社会課題に敢然と挑戦する医療・介護・福祉のプロフェッショナルに育つための学習プラットフォームが必要でした。

 

私自身がタナベコンサルティングの主催するヘルスケアセミナーに参加し、次世代リーダーの研修でもお世話になっていた縁もあり、企業内アカデミーの豊富な支援実績とノウハウをもとに、開校に向け協力いただきました。

 


癌だけを狙って放射線を照射する目的で作られた最新鋭の放射線治療装置「サイバーナイフ」

キャリアの未来像と必要な学びが一目で分かる学習プログラム

——敬和会アカデミーは、グループ職員1300名がそれぞれに育む「知の集合体」となって、新たな価値を創造するイノベーションにつなげていくのが狙いです。

 

岡理事長:敬和会アカデミーは、知を育んで人材が育つこと、育つための体制や仕組みをつくること、集積した知を組み合わせて社会課題の解決策を提案するシンクタンクの機能を果たすことなど、「プロフェッショナルな医療・介護・福祉人材を養成するビジネススクール」という位置付けです。

 

水平軸として「医療知識、技能、倫理観の高次元での標準化」、垂直軸として「広い視野や創造力を持つリーダーの育成」をテーマに掲げています。初心者からエキスパートまで、職員のみなさんがあらゆるキャリアやシーンでより高いレベルに成長していくために、教育や研修を通じてサポートしていきます。

 

——「もっと学ぶ もっと伸びる」というロゴマークをシンボルに、キャリア形成のステップや人材育成のカリキュラムを体系化した授業計画を設計。2018年に、看護・リハビリ・介護福祉・ME(Medical Engineer:臨床工学)・経営など専門分野別に、全3コース・46科目と新入職員のオリエンテーション課程を開講しました。

 

岡理事長:職員一人一人の将来像と、成長に必要な学びを見える化しています。また、eラーニングで、いつでもどこでも自由にアクセスでき、自分の専門分野以外も幅広く学べるようになっています。教育コンテンツは社内講師を中心に、職員全員が学び、教え合いながらともに成長していますし、集合・外部研修で学びを深めることも可能です。

 

敬和会アカデミーをつくって終わり、ではなく、各施設・部署の所属長クラスをメンバーに「アカデミー委員会」を新設し、絶えず講座のブラッシュアップも図っています。当法人の今後の未来像などを互いに語り合う場にもなっており、私も毎回オブザーバーとして参加しています。

 

——ブラッシュアップの1つとして、先輩が学びを後押しするメンター制度を導入しました。

 

岡理事長:タナベコンサルティングの講義を受講した認定メンターが、職種を超えて進路やキャリアを職員にアドバイスしています。看護・リハビリ・介護などの専門的な教育は、日本医療法人協会による医療業界共通の学習プログラムがありますが、敬和会アカデミーでは、さらに敬和会としての思いを伝え、受け継ぐ学びのシステムをつくることができました。

 

グループ一体となって同じ思いを共有し、行動を起こす風土の醸成にもつながりました。人が育つスピードも早くなったと実感しています。

 

 

実力や成果を正しく評価するジョブ型人事制度に変革

 

——敬和会アカデミーの開講後、人事制度と給与体系の再構築プロジェクトがスタートし、2022年4月に新人事制度がスタートしました。引き続きタナベコンサルティングがサポートさせていただいています。

 

岡理事長:分かりやすく表現するなら、仕事に対して人材を配置するジョブ型人事制度への刷新です。従来は、人材に仕事を割り当てるメンバーシップ型人事制度と、国家資格専門職制度をミックスした人事制度で、給与体系も職種別の年功序列型でした。

 

年齢や勤続年数に関係なく、その人自身の実力やスキル、成果を重視することで、努力した人が正しく評価され、賃金にも反映される制度にしたいと考えました。

 

——ジョブ型人事制度への改革は、医療業界では前例のない挑戦でした。

 

岡理事長:その通りです。ジョブ型人事制度は欧米企業が採用しているイメージが強く、「任された役割しかやらなくていい」「即戦力が求められる」「給与が下がるのでは」と、制度の導入を悲観的に捉える職員もいました。

 

ですが、私たちが目指すジョブ型人事制度はその正反対です。伝統的な職能・年功制のメンバーシップ型人事制度は、昇給・昇格・昇進の基準やフローが曖昧で、目標設定や評価が相対的に何となく決まることも多く、がんばっている人ほど物足りなさを感じていました。ジョブ型人事制度に転換することで、正しく職能を評価できますし、現行業務の棚卸しから始めて、「どのような業務ができる人材に育ってほしいのか」を人事考課の基本体系として明確に定めることで、一人一人が自分のキャリアを描きやすくなります。

 

——新人事制度は、資格等級やキャリア選択コースの定義や考課基準を明文化しました。職員に対する説明会の開催のほか、考課者訓練の実施など運用面の準備も進めています。

 

岡理事長:人材の育成を、成長したいと思う人の自助努力だけに委ねてはいけません。敬和会アカデミーは自ら学び、成長できる環境、新しい人事制度は実力と評価に基づく成長モデル。この2つがそろってこそ、学習プラットフォームとしてプロフェッショナルな人材育成を実現できます。

 

また、そのことをタナベコンサルティング主導の職員説明会や考課者訓練で丁寧に伝えて、職員の理解や納得度を高めています。職員一人一人にどのような職務を求め、実績や成長をどう評価するのか。考課者が正しく運用できてこそ、互いにやりがいや充実を実感し、信頼や一体感も高めていけます。

 

 

敬和会ヘルスケア・スマートリンクを大分から世界へ広げる

 

——敬和会様はアカデミーや新人事制度をHR領域の新たなデザインと捉え、組織開発による法人ガバナンスの改革やグループ成長につなげるための将来構想を、大局的な視点で描いておられます。コロナ禍という困難な時期を卓越したリーダーシップで乗り超え、2024年には新病院も開院予定です。さらなる進化への展望をお聞かせください。

 

岡理事長:まずは、新人事制度への移行と定着が重要です。これまで以上に人材育成に投資を行い、働きがいのある職場環境づくりを進めていきます。また、敬和会アカデミーは教育環境が十分ではないほかの医療法人にも開放し、地域や人とのつながりを深めながら、ともに地域を包括的にケアできる環境を整えていきます。東京にある敬和国際医院では、海外の利用者を受け入れるグローバルな展望も描いています。大分から全国、そして世界へと、先進的なIHNの日本モデルである敬和会ヘルスケア・スマートリンクを広げていきたいですね。

 

敬和会アカデミーや新人事制度と併行して、タナベコンサルティングから執行役員制度やジュニアボード、幹部候補育成研修の提案を受け、新たに導入しています。執行役員会やジュニアボード制度が経営戦略を担う理事会を支えていく体制へと変革できましたし、オンライン診療やロボット診療など、未来の医療をデザインできる人材をバックキャスティングで育てながら持続的な成長力につなげていきたいですね。

 

——最後に、タナベコンサルティングへの評価や期待をお聞かせください。

 

岡理事長:当法人のHR領域に関する理想のイメージを具体化していただきました。また、私の思いを噛み砕き、伝わる言葉に翻訳して職員に浸透していただきました。敬和会アカデミーや新人事制度においても、私が描く将来構想と職員のギャップを埋める役割を担ってくれたと感じています。

 

外部のプロフェッショナルだからこそ、職員に対する説得力がありますし、長いお付き合いで職員の顔も分かっているという信頼関係が、納得性を高めています。私の考えるサクセッションプラン(後継者育成計画)や、人事や経理などスタッフ職の幹部人材育成もこれからの大事なテーマです。ぜひ、力を貸していただきたいですね。

 

——タナベコンサルティングは、先進的なIHNの日本モデル確立を目指し、医療の未来を切り開く敬和会様に的確な支援を続けてまいります。本日はありがとうございました。

 

PROFILE

    • 会社名:社会医療法人敬和会
    • URL:https://keiwakai.oita.jp/
    • 所在地:大分県大分市西鶴崎3-7-11
    • 創業:1954年
    • 従業員数:1254名(グループ職員、2023年2月現在)

※ 掲載している内容は2023年1月当時のものです。

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