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【特集】

リードナーチャリング

国内の人口と企業数が減少する中、BtoBにおいてもBtoCにおいても、新規顧客開拓の難易度はますます上がっていく。この状況下で重要性を増しているのが、過去にアプローチした見込み客情報(ハウスリスト)だ。自社に眠る財産であるハウスリストを活用し、見込み客を顧客へ変えていくリードナーチャリングのメソッドを提言する。
2023.02.01

部門間連携とデータ活用を強みにデジタルマーケティングを推進:NEC

 

 

 

ターゲットの明確化とKPI管理が奏功

 

顕著な成果を上げているNECのデジタルマーケティングだが、当初から順調だったわけではない。

 

例えばある製品(部門)では、担当者が経験や個々の能力に基づいて長年活動を行ってきた。従来の方法で結果を出してきた成功体験があるため、デジタルマーケティングには抵抗もあった。そうした中、成功のポイントとなったのが「社員の意識変容を起こすこと」だったと板本氏は振り返る。

 

「各事業部はそもそもペルソナ設定の経験がなかったので、そこを理解してもらうことから始めました。例えば、誰に対して売りたいのかと聞くと、少しでも広い対象を持ちたいため、『ターゲットを絞らず、みんなに売りたい』という回答になりがち。また、人によって売りたいターゲットが異なる場合もありました。

 

そこで、これまでの受注リストなどを共有・分析して受注セグメントや商談履歴などのデータを提示し、事業部で共通のペルソナを設定し、有効な施策を一緒に考えていきました」(板本氏)

 

もう1つ、成功の鍵となったのが「スモールスタート」である。

 

「ある業種向けのプロダクトでデジタルマーケティングの効果が出れば、類似製品や同じようなペルソナの製品にも試していく。こうした地道な活動で、営業や製品部門の認識が変化しました。

 

大切なのはPDCAを回しながら改善していくことです。デジタルマーケティングの優れた点は数値で可視化できることですから、反応率の悪い施策があれば、異なる施策を試しながら成果を上げていく。そのプロセスを共有することで社員のデジタルマーケティングへの評価が高まりました」(田中氏)

 

加えて重要なのはKPI(重要業績評価指標)の設定であると言う。デジタルマーケティングの目的を明確にするとともに、具体的な数値目標を定めることで施策が打ち出しやすくなる。

 

例えばKPIを達成するためには、広告やイベントを何本打つ必要があるのかといった具体策に落とし込みやすくなる。また、達成できない場合、その要因を検証して改善策を考えることができる。

 

「実施したことのない取り組みに関するKPI設定は敬遠されがちですが、一緒になって事業部や営業のKPI達成に取り組み、進捗について都度共有し、適宜フォローすることで、確実に成果へつなげています(【図表】)」(板本氏)

 

 

【図表】営業・インサイドセールス・マーケティングの協業

出所:NEC提供資料よりタナベコンサルティング作成

 

 

 

イベントのオンライン開催がリード獲得増や生産性向上へ直結

 

NECのデジタルマーケティング活用の代表例は、毎年開催するイベント「NEC Visionary Week」だ。従来はリアル開催のイベントとしてさまざまな製品や技術を紹介してきたが、コロナ禍の2020年は急きょオンラインへ変更した。

 

「(同イベントでは)製品などの紹介とともに有識者の講演も開催・配信しているのですが、現在は参加者の講演視聴履歴やアンケートの回答内容をほぼリアルタイムで全社員が閲覧できるようになりました。つまり、どのお客さまが商談できそうなのかが、即時に把握できるようになったのです」

 

そう説明するのはIMC統括部デジタルマーケティング基盤・データ分析グループのマーケティングマネージャーの中島拓也氏だ。しかし、システムは一朝一夕に構築されたわけではない。まずオンライン開催を余儀なくされた2020年、わずか数カ月で対応できるシステムを構築した。

 

「システムを運用した結果、営業サイドから『すぐに参加者の情報が見られるようになれば、的確に次の施策を打てる』という要望があったため、システムのアップデートを図り、参加者の情報が即時に共有できるシステムを構築し、翌21年から運用しています」(中島氏)

 

「オンライン開催とデジタルマーケティングにより、思わぬニーズも顕在化しました。例えば、多忙なユーザーの多いある業種では、リアル開催だと参加率が低かったのですが、オンラインだと職場や都合の良いタイミングで参加できるため、参加率が上がり、リード獲得数の増加につながりました。ペルソナによってオンライン・リアルの好みが分かれるので、仮説検証を繰り返しながらニーズに対応していきたいと考えています」(田中氏)

 

他にもさまざまな効果が表れている。例えば、ある製品の場合、以前と同じ売り上げを達成するのに、従来の半分の営業工数で済むようになったという。データの一元化やAIによるデータ解析により、これまで人が行っていた業務がなくなったためだ。こうした生産性向上もデジタルマーケティングの大きな成果と言えるだろう。

 

「この3年でデジタルマーケティングはかなり定着しました。しかし、まだ活用していない事業部が多いのも事実です。さらに社内で広げていくため、正しい知識や成功事例を共有できる場を設けて情報発信しています」(板本氏)

 

板本氏はデジタル人材の育成も同時に行うことで、「デジタルマーケティングが当たり前」の企業文化にしていきたいと言う。

 

デジタルマーケティングを支えるデータ基盤も、さらなる進化を目指している。

 

「デジタルマーケティングにおいては『情報の鮮度』が命。常に情報を更新できる機能を付加しているところです。また、システムを活用してもらうためのフォローや情報提供も積極的に進めていきます」(中島氏)

 

早い段階から「データ経営」の重要性を唱え、デジタルシフトに取り組んできたNEC。デジタルマーケティング成功モデルの組織全体での水平展開に向け、その歩みを加速させている。

 

 

日本電気 IMC統括部 マネージャー 板本 真一氏(左)
マーケティングマネージャー 中島 拓也氏(中)
主任 田中 絵美氏(右)

 

 

PROFILE

  • 日本電気(株)
  • 所在地:東京都港区芝5-7-1
  • 創立:1899年
  • 代表者:代表取締役 執行役員社長 兼 CEO 森田 隆之、代表取締役 執行役員常務 兼 CFO 藤川 修
  • 売上高:3兆141億円(連結、2022年3月期)
  • 従業員数:11万7418名(連結、2022年3月現在)

 

 

 

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