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【特集】

人的資本経営とは?~企業価値向上、持続成長へ向けて~

人材を「資源」ではなく「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」が注目されている。もはや企業にとって不可欠の経営戦略である。社員の成長に投資し、自社の持続的成長へとつなげるメソッドや施策とは?具体的な企業事例や注目すべき取り組みも交えて解説する。
2023.01.05

主体性がエンゲージメントを高める:日立ソリューションズ

 

 

働きがいと成長を実感できる組織へと改革

 

「人財」戦略は新中期経営計画とともに、2022年度から次なるステージへ歩みを進めている。働きやすさの推進の次に目指すのは、働きがいと成長実感を高める「EX(従業員体験)の向上」だ。

 

基軸となる施策は2つ。日立グループ全体で推進する「ジョブ型人財マネジメント」と、コミュニケーションや生産性の向上を目指す「オフィス環境の整備」だ。前者は、自分のなりたい姿を明確化することでその後のキャリア形成を可視化し、働きがいや成長を実感できる仕事体験を増やす取り組み。例えば、新たに海外で投資先の獲得からベンチャー企業設立までを経験するプロジェクトが始動。また、入社3年目の全社員に社内FA(フリーエージェント)※1権を付与し、部署間の異動を活性化する制度も2023年春に始まる。

 

「ジョブ型というと職務定義や評価を緻密にしていくことと捉えられがちですが、当社が目指すのは『自分は何のプロになりたいのか』を明確にした上で、スキルアップに取り組み、キャリアを自分でつくっていくということです。そのために自己実現へ向かって、自ら手を挙げて希望する仕事にチャレンジできる制度の拡充に取り組んでいます。

 

手挙げ型の異動が増えることについては、部下に異動されるマネジャーには抵抗感があるでしょうし、一方で、手を挙げる側も入社してから今までに何を学んできたかが問われます。そうした厳しさも伴う制度ですが、それが本当のジョブ型だと考えています」(井上氏)

 

後者のオフィス環境の整備は、ハイブリッドな働き方を維持しながら出社時の最適なワークスタイルを目指し、ウェブ会議スペースや集中ブースの新設、フリーアドレス化などが進行中だ。また、在宅ワークで希薄になりがちなコミュニケーションの活性化策として、毎回100人超が参加するビデオ会議でのトークイベントを行うなどユニークな取り組みも始まった。仕事から趣味まで、多岐にわたるテーマを設けて雑談し、誰でもパネラーや視聴者として参加できる。

 

「同じことに関心を持つ人がつながり、ストレスも軽減できる、進化系のコミュニケーション。良い体験ができると好評です。自分を変えるきっかけとなる体験が社内に散りばめられているのです」(伊藤氏)

 

さらに、エンゲージメントを高めるために慶應義塾大学との共同研究で推進しているのがジョブ・クラフティング※2である。仕事の進め方、仕事に対する考え方、周りへの関わり方について、小さな工夫を主体的に積み重ねることにより、良い状態で働きながらエンゲージメントも高まる取り組みで、クラウドサービスとして商品化も実現した。

 

「自分が何を実施したかをアウトプットして見える化し、上司や同僚から『いいね!』のフィードバックもあります。

 

やりがいや仕事の面白さは、人間関係にも大きく左右されるものです。成果測定は難しいですが、毎年実施する社員サーベイの分析によると、エンゲージメントスコアは着実に向上しています」(井上氏)

 

 

トップダウンとボトムアップを融合

 

改革の歩みを止めない「人財」戦略は、実は同社の危機感の裏返しでもあった。いま、多くの企業がDXを推進するために「IT人財」の獲得競争を繰り広げている。日立ソリューションズで働くからこその良いEXがないと、離職する「人財」が相次いでしまう。そんな危機感を経営層と人事部門が共有したことが、これまでにない戦略と推進力を生んだ。

 

「まずはトップが本気になることが大事です。『働き方改革をやるぞ、残業を減らすぞ』と宣言しても、口先だけなら社員は見抜きます。トップがメッセージを発信し、社員に共感してもらうことが大事です」(井上氏)

 

顧客のソリューション支援も同様に、成否の分岐点はトップの思いにあると伊藤氏は指摘する。「時流のトレンドだから働き方改革をやれ」では目的もやる気を出す方向性も分からない。社員が納得できないまま始めても、取り組みは続かないという。

 

「何のために、どのような目標を目指すのか。トップの思いが明確でブレなければ、うまくいかないときも違うやり方でチャレンジし続けることができます」(伊藤氏)

 

ボトムアップも重要だ。管理職や若手が階層別にワーキンググループを構成し、施策を提案する仕組みを整備。アイデアが次々と生まれ、フィードバックを受けたトップも積極的に受け入れた。

 

また、社内広報や社外への情報開示も積極的に推進。社員と顧客の双方に自社の価値を再認識するインパクトをもたらした。

 

「本気のトップダウンと、具体策を検討・実現するボトムアップを両輪として、丁寧に融合させながら進めていくのが当社の特徴です。こういった取り組みに対する社外からの高評価も社内へ跳ね返って、より強く社員に浸透し、企業文化として定着しています」と井上氏は語る。

 

エバンジェリストとして社会的な認知度や顧客の評価を高める姿が社員の注目を集める伊藤氏も、エンゲージメントの向上を実感している。

 

「人事が保守的なマインドではなくアグレッシブに、働きやすく、働きがいや成長を実感できる施策を進めるうちの会社って、良い会社かもしれないと(笑)」

 

人事戦略の実現へのアプローチは多岐にわたるが、共通点がある。会社も社員も「自分事」として考える主体性だ。目標は決して押し付けず、あくまで一人一人の裁量に任せる基本姿勢を貫いている。

 

「裁量が与えられると、誰でも一度は迷います。残業をなくそうと意識を変えたときもそうだったはずですが、迷いは価値観に変化が起き、主体性というワンステップが生まれた証し。自分が会社を変えていく実感が生まれるような挑戦を、どんどんしていきたいですね。ダメならやめればいいから、まずやってみる。そんな社風も、当社の良いところです」(井上氏)

 

働きがいが生まれる「人財」マネジメントやワーク環境づくりは、会社が本気で主体的に、徹底して整える。EXが向上する中で、社員も主体性を持って行動を起こす。その先に「個人の幸せと企業の成長」が持続的に好循環する未来が見えてくる。

 

 

※1…社員が自ら希望する部署やプロジェクトなどに売り込み、受け入れる側の担当者と面接し選抜する仕組み
※2…従業員が仕事を主体的に捉え直すことにより、“やらされ感”のある仕事をやりがいのあるものに変容させること

 

 

日立ソリューションズが提供する「リシテア/従業員エンゲージメント」画面イメージ。リシテアシリーズは「人財」戦略を支援するソリューションとして、1994年に提供開始した。国内大手企業を中心に累計導入社数が1490社(2022年3月末現在)となっている

 

 

日立ソリューションズ 経営戦略統括本部 チーフエバンジェリスト 兼 人事総務本部 本部員 伊藤 直子氏(左) 人事総務本部 担当本部長 井上 正人氏(右)

 

 

 

PROFILE

  • (株)日立ソリューションズ
  • 所在地:東京都品川区東品川4-12-7
  • 設立:1970年
  • 代表者:取締役社長 山本 二雄
  • 売上高:1734億8300万円(2022年3月期)
  • 従業員数:4783名(2022年3月現在)

 

 

 

 

 

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