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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2022.09.01

新しい食文化を世界で創造し続ける:キッコーマン 代表取締役社長COO 中野 祥三郎氏×タナベコンサルティング 若松 孝彦

本業でお客さまに喜んでいただく、
食の喜びを感じていただくことにひたすら集中していきます

 

 

本業以外の事業には手を出さない

 

若松 バイオ事業は新たな価値創造への挑戦として非常に楽しみです。キッコーマンは私が提唱する「100年経営企業(100年以上の歴史がある長寿企業)」です。社内に長く伝わる社訓のようなものはありますか。

 

中野 明文化されていませんが、「本業以外に手を出すな」ということは代々言われてきました。バブル期にはさまざまな事業のお誘いもありましたが、当時も食品領域以外の事業は手掛けませんでした。本業でお客さまに喜んでいただく、食の喜びを感じていただくことにひたすら集中してきました。

 

若松 「おいしい記憶をつくりたい。」というコーポレートスローガンを体現する経営ですね。ホームページでも、食の豊かさや幸福感が伝わるブランディングが貫かれています。現在のコーポレートスローガンをつくられたのは、いつごろですか。

 

中野 2008年です。当時から「萬」を中心に配した亀甲(六角)マークはありましたが、社名の書体などが統一されていませんでした。さらに、海外展開を推進する上でコーポレートマークをつくることになり、ブランドとしての考え方をもう一度整理しようと取り組みました。

 

その際、昔から受け継がれている考え方を基に、キッコーマンの約束や、コーポレートスローガン、コーポレートマークを策定。おいしいという記憶を、いかにお客さまや消費者の皆さまに感じていただけるかが当社の価値であり、事業を行う存在意義であることを定義しました。

 

若松 今で言う「パーパス」ですね。私はパーパスを「貢献価値」と解釈していますが、何で貢献するか、どのように世の中の役に立つかが、しっかりと定義されているスローガンだと感じます。

 

中野 ありがとうございます。策定に当たっては、若手のメンバーを集めて討議し、外部の知恵も借りながらつくっていきました。さらに、スローガンを決めて終わりではなく、ブランドブックを製作して全社員に配布しました。もちろん、英語版もつくって海外の社員に配布しています。

 

組織の考え方が社員にきちんと浸透していくと、「私たちは何をすべきか」という方向性が一致していく。やり方はさまざまあると思いますが、目指すべき方向を合わせることが重要だと考えています。

 

 

トップ自らリーダーシップの自律性を発揮する

 

若松 企業のブランディングについては、インナーブランディングも非常に重要です。社員の意識の変化が社風を変え、その社風がブランドとして顧客や社外へ伝わっていきます。ここ数年続くコロナ禍で、インナーブランディングの重要性を問い直す会社が、私たちへの相談も含めて増えています。

 

中野 約束やスローガンは周知されていますが、日々の業務の中でブランドへの貢献が感じにくい仕事もあります。それぞれが自社のブランドについて考えるきっかけが必要だと思い、私が社長に就任してから「みんなで考える会をつくろうよ」と、声をかけて始めた取り組みがあります。ちょうどコロナ禍で対外的な活動が制約されたこともあって、時間をつくることができました。

 

若松 具体的にはどのような取り組みなのでしょうか。

 

中野 所属長や中間管理職を対象に各回15名に参加してもらい、私も含めてディスカッションしています。全30回を企画しています。参加者には前段階として、キッコーマンのグループビジョンやグループが目指す姿、実現に向けてどのように進めていくか、どうやってお客さまの喜びに貢献していくかなどを各部門や個人の立場で考えてもらい、メンバーで対話しています。

 

また、そこで考えたことを研修会でブラッシュアップしたり、各職場に持ち帰ってメンバーとディスカッションしたりしながら共有しています。日々の業務と将来のことを関連させながら両輪を回していくことが大事ですし、キッコーマンの約束や各部門が目指すべき方向、強みとは何かなどについて一人一人に考えてもらうことが重要です。それが社員のやる気を引き出し、行動を促していくと考えています。

 

若松 ワーク・エンゲージメントの向上ですね。これまでの価値観が変わりつつあるコロナ禍にこそ、考えるべきテーマです。「食」の領域は、特に心が大事です。品質や味に心が表れますから。その意味でも、受け継いできた価値やブランドをしっかりと理解し、いかに自分のものにするかが一番大切な部分です。

 

中野 結局、組織は人が全て。こうした機会を生かして、一人一人が考え、挑戦してもらいたいと思います。中間管理職の約450名に対し、全30回のうち3分の2が終わったところであり、引き続き開催していきます。

 

 

顧客との密なコミュニケーションで体験価値を創造する

 

若松 私は、「これからのビジョンは『長期ビジョン』であるべきことや、その中にDX・グローバル・サステナビリティ・M&Aが組み込まれていることが大切」と、提言しています。キッコーマンのグローバルビジョン2030には、それらが全て含まれています。その上で、さらに取り組むべきことはありますか。

 

中野 1つは自社商品を使った料理レシピの強化です。ホームページで公開しているレシピの閲覧数は月1000万PV(ページビュー)に上っており、レシピは当社の強みと言える部分。その充実と活用は重要なテーマと捉えています。

 

デジタルを適切に活用しながら、レシピ提供を通してお客さまとの双方向のコミュニケーションに取り組んでいきたいですし、国内外のお客さまとの交流も活発化させることで、お客さまの声を商品づくりや店頭での販売促進にも活用していきたいと考えています。

 

一方、リアルの交流も大切にしています。リアルとデジタルをうまく組み合わせながらお客さまと交流できる仕組みを構築し、ビジョンの実現につなげていきます。

 

若松 世界では、デジタル技術の活用で「体験価値」をアップデートさせた事例が数多く出てきています。信頼関係を築いた上で双方向の交流が深まれば、価値創造がさらに加速するでしょうね。対談を通して、「本業以外はやらないこと」「グローバルに交流し、融合して、新たな価値を創造していくプロセス」「ブランディングとワーク・エンゲージメント」など、キッコーマンがキッコーマンたるゆえんに触れることができました。今後も世界中に食のよろこびを提供されることを祈念しております。本日はありがとうございました。

 

 

 

キッコーマン 代表取締役社長COO 中野 祥三郎(なかの しょうざぶろう)氏

1957年千葉県生まれ。1981年慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了後、キッコーマン入社。国内営業、海外販社出向後、2008年4月経営企画部長に就任。同年6月執行役員、2011年常務執行役員、2012年CFO(最高財務責任者)、2015年取締役常務執行役員、2019年キッコーマン食品社長(現任)などを経て、2021年6月より現職。

 

 

タナベコンサルティンググループ タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)

タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず、大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。社長就任後の2016年9月に東証一部(現プライム)上場を実現する。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『甦る経営』『戦略をつくる力』『ファーストコールカンパニー宣言』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

 

タナベコンサルティンググループ(TCG)

日本の経営コンサルティングファームのパイオニア。東証プライム上場企業。1957年の創業以来、We are Business Doctorsを掲げて日本全国はもとより世界でも活動。現在は、グループ4社で総員580名のプロフェッショナルを有し、ビジョン・戦略の策定からM&A、DX・デジタル、HR、ファイナンス、クリエーティブ、デザイン経営などの実装までを一気通貫で提供できるチームコンサルティング、そのバリューチェーンで企業繁栄に貢献する。

 

 

PROFILE

  • キッコーマン(株)
  • 所在地:千葉県野田市野田250
  • 設立:1917年
  • 代表者:代表取締役社長COO 中野 祥三郎
  • 売上高:5164億4000万円(グループ計、2022年3月期)
  • 従業員数:7686名(グループ計、2022年3月現在)

 

 

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