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【特集】

ESG経営

企業の長期的な存続を評価するための指標「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」が、新たな投資判断基準として急速に広がっている。環境や社会への配慮、健全な管理体制の構築などによって、社会と自社の持続的成長を目指す企業の取り組みを紹介する。
メソッド2023.04.03

ESG経営で実現する企業と社会のサステナビリティ:巻野 隆宏

 

事業戦略・経営戦略の視点で見るESG経営

 

環境・社会・ガバナンスを意識したESG経営の目的は、企業の長期的なブランド価値を高めサステナビリティを実現することにある。また、ESG経営の効果は事業戦略・経営戦略の両面で見ることができる。

 

事業戦略を構成する要素はTechnology、Market、経営戦略を構成する要素はMoney、Man、Managementに分けることができる。この1T4MでESG経営の効果を整理すると次の通りとなる。(【図表1】)

 

 

【図表1】1T4Mで見るESG経営の効果

出所:タナベコンサルティングにて作成

 

 

Technology(固有技術、製品・サービス)により、環境や社会の課題解決を軸とした製品・サービスの開発やライバルとの差別化ポイントを創出することが可能となる。

 

Market(市場、顧客)については、倫理的な概念に基づく消費行動であるエシカル消費を促すことでの新たな市場創造やパートナーシップで、これまで関わりのなかった市場への新規参入が可能となる。

 

また、Money(資金、投資)により、拡大傾向にあるESG投資の活用や補助金・助成金の活用で事業資金を広く得ることができる。

 

Man(人材、組織)については、社内への意識浸透によるインナーブランディングが社員のモチベーション向上につながり、社外への情報発信によるアウターブランディングは広く優秀な人材の採用につながる。

 

そして、全社員が共感できるPurpose・Mission・Vision・Valueを策定するManagement(経営システム)により良い社風が醸成され、企業価値の向上につながる。

 

 

ESGへの取り組み事例

 

多くの企業がESGへの取り組みをリポートで情報発信し、ステークホルダーとコミュニケーションを図っている。各社ともESGレーティング※4の14テーマ(【図表2】)のうち、自社に関連する項目を中心にテーマを構成している。ぜひこれらの項目を参考にESGの取り組みを推進していただきたい。

 

 

【図表2】ESGレーティングの14テーマ

出所:FTSE Russell ホームページよりタナベコンサルティング作成

 

 

社会的価値による企業ブランド向上の要素を構成する重要活動項目をESGそれぞれの項目に分解することにより、取り組むべき指標が見えてくる。ESGレーティングの14テーマと、それにひも付くKPI(重要業績評価指標)の切り口でまとめると次の通りとなる。

 

「環境」については、サプライチェーン、生物多様性、気候変動、汚染と資源、水の安全保障がある。KPI切り口としては、気候変動、脱炭素社会、生物多様性、廃棄物削減、資源循環、汚染防止、エネルギー、水資源などである。

 

「社会」については、サプライチェーン、顧客に対する責任、健康と安全、人権と地域社会、労働基準がある。KPI切り口としては、顧客満足、最適品質、健康経営、人材育成、労働安全衛生、社会貢献活動、ダイバーシティー&インクルージョン、ワーク・ライフ・バランスなどだ。

 

「ガバナンス」については、腐敗防止、企業統治、リスクマネジメント、税の透明性がある。KPI切り口としては、コーポレートガバナンス、リスクマネジメント、コンプライアンスなどである。

 

レーティングテーマごとに、KPI切り口を参考に自社に合ったKPIを設定し、それにより重要活動項目である環境・社会・ガバナンスの各項目を評価すると企業の社会的価値力が見えてくる。

 

ESG経営に取り組むことが社会的価値向上につながり、自社のサステナビリティと社会のサステナビリティを実現することにつながる。だからこそ多くの企業が取り組んでいるのである。具体的な実施事項としては、世界共通の課題であるSDGsの17ゴールとリンクさせて取り組むことをおすすめする。それらの取り組みをESGでステークホルダーへ分かりやすく情報発信することが、企業ブランディングにつながるのである。

 

 

ESG経営へ取り組む意志

 

最後に、ここまで見てきたESG経営の推進において重要なことは、まずESG経営へ本気で取り組む意志を固めることである。中長期的な視点で企業経営を見たとき、ESGの視点を持たないことはリスクでしかない。本質的な課題に対して本質的に取り組む、本気のESG経営へ迷いなく挑んでいただきたい。

 

具体的には長期ビジョン・中期経営計画へESGの実施項目を取り入れるべきである。真のESG経営に取り組む企業の付加価値創造力は間違いなく高い。ぜひトップがリーダーシップを発揮してESG経営に本気で取り組んでほしい。

 

 

※4…企業のESGへの取り組み状況や課題解決に向けた意欲、ビジネスに影響を及ぼしそうなリスクの度合いなどを分析・評価し、スコア化したもの

 

 

 

 

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Profile
巻野 隆宏Takahiro Makino
タナベコンサルティング ストラテジー&ドメイン大阪本部 本部長代理
専門分野は事業戦略の立案をはじめ開発・マーケティングなど多岐にわたる。企業の持続的な変化と成長のサポートに取り組み、志ある企業・経営者のパートナーとして活躍中。「高い生産性と存在価値の構築」を信条とし、明快なロジックと実践的なコンサルティングを展開。建設業、製造業を中心に中長期ビジョン構築において事業の選択と集中で高収益ビジネスモデルへの変革を数多く手掛けている。
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