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【特集】

ESG経営

企業の長期的な存続を評価するための指標「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」が、新たな投資判断基準として急速に広がっている。環境や社会への配慮、健全な管理体制の構築などによって、社会と自社の持続的成長を目指す企業の取り組みを紹介する。
メソッド2023.04.03

ESG経営で実現する企業と社会のサステナビリティ:巻野 隆宏

 

ESG経営とサステナビリティの関係性

 

「サステナビリティ」という言葉は、耳目に触れない日がないくらい関心の高いキーワードとなっている。各社が長期ビジョンで掲げることの多い2030年に向けた成長戦略においても、サステナビリティが非常に重要になっている。

 

サステナビリティとは「持続可能性」を意味する言葉である。そこに含まれる要素は非常に多岐にわたり、事業・経営の両面から考える必要がある。また、自社のサステナビリティだけでなく、社会のサステナビリティも同時に実現することが重要だと認識しなければならない。

 

自社のビジョンにおいて、サステナビリティの要素は十分に検討されているだろうか。持続可能でない世の中は自社にとっても大きなリスクであり、社会が持続可能となるような企業戦略の構築が求められている。

 

本稿ではまず、企業と社会のサステナビリティを実現するために、企業が提供すべき社会的価値(Social Experience)とは何かを定義する。それは、企業が社会的課題に対して積極的に関与し、公器としての責任を体感できる環境とブランドをつくることである。そして、自社の事業を通して社会課題を解決し、それにより稼ぐ力(強み・競争優位性・ビジネスモデル)が中長期で持続化・強化されることにつながるという関係性が成立している状態だ。この善循環のビジネスモデルの構築がポイントであり、それをステークホルダーと共有することにより、企業のブランド価値は高まる。

 

企業の社会的価値を向上させるためのプロセスは次の通りである。

 

❶解決すべき社会課題を認識する

 

まずは自社を取り巻く社会課題、自社の責任で解決しなければいけない社会課題の正しい現状把握を行う。

 

❷事業で課題解決へ挑戦する

 

事業活動を通して課題解決を行うことで、自社らしい社会性と経済性の両立したビジネスモデルが確立される。

 

❸社会課題解決事業の取り組みを社内外へ情報発信する

 

サステナビリティへの取り組みはステークホルダーへ情報発信することでインパクトが最大化する。

 

❹企業の社会的価値をブランディングする

 

事業活動により社会的価値を向上させるとともに、それを自社の強みとする戦略がファーストコールカンパニー(顧客から最初に声がかかる会社)の実現につながる。

 

❺新たな社会課題解決へ取り組む

 

社会課題は1つではない。つの社会課題解決への取り組みを次の課題解決への取り組みにつなげるループが、世の中を継続的に良くすることにつながる。

 

❺から❶へつながるサイクルを回すことで、企業の社会的価値は向上していく。

 

企業によるサステナビリティの取り組みを通して貢献する社会的価値を評価し、ステークホルダーと共有する指標の1つがESG(環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governance)である。

 

投資家などのステークホルダーがこれらの非財務情報を重視する風潮はますます強くなっている。また、ESG投資が拡大傾向にあるといったデータをよく目にする。

 

ESG投資とは、従来の財務情報だけでなく非財務情報としてのESG要素も考慮した投資のことを指す。ESGの視点を組み入れることなどを原則として掲げる国連責任投資原則(PRI)に、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年に署名したことを受け、国内でもESG投資が広がっている。

 

こうした流れを受けて、企業がESGへ配慮した経営を行う傾向が強くなった。企業経営のサステナビリティを評価するという概念の普及に伴い、気候変動などを念頭に置いた長期的なリスクマネジメントや、新たな収益創出の機会を評価するベンチマークとして、ESGが注目されているのだ。各社はさまざまなリポートでESGに関する取り組みを発信しており、こうした企業側の取り組みをESG経営と呼ぶ。

 

ここまで見てきたように、サステナビリティとESG経営は切っても切り離せない関係にあり、自社のサステナビリティと社会のサステナビリティを長期的に実現するために、中長期のビジョンや事業・経営戦略にESGの視点を取り入れることが重要となっている。

 

 

対応が求められるESGの各課題

 

ここからは、E:環境、S:社会、G:ガバナンスごとに、いま注目されているトピックを見ていく。

 

E:環境

 

日本では比較的、環境意識が高まってきているが、当然のことながらまだ課題も抱えている。環境課題のうち、海洋汚染と温室効果ガス(GHG)排出の問題について触れる。

 

海洋に流出している廃棄物の中でもプラスチックは「海洋プラスチック」と呼ばれており、海洋汚染を急激に進めている。毎年約800万トン以上のプラスチックごみが海洋に流出しているとされており、2050年には海洋中のプラスチックごみの重量が魚の重量を超えるという試算があるほどのインパクトとなっている※1。プラスチックは自然に分解されることがないため、数百年にもわたって自然環境へ残ってしまう大きな問題へとつながっており、自然環境への悪影響が懸念されている。

 

この海洋プラスチックごみ問題への対応として、そもそもの廃棄量を減らすという取り組みはもちろんのこと、回収して再利用し、エコバッグやシューズなどにリサイクルされる例も出てきている。

 

一方、GHG問題についてはより広く知られており、多くの企業がさまざまな取り組みを進めているテーマである。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が設立され、多くの日本企業が賛同して取り組みを宣言していることからも、注目度の高さがうかがえる。GHGの排出量を算定し、削減への取り組みや成果などを報告書で対外発信する企業は多い。ただ、自社単独で削減できるGHG排出量は限られている。取引先を含むサプライチェーン全体で削減に取り組むことが求められている。

 

S:社会

 

社会課題への対応について、日本は諸外国と比べ遅れているといわれている。特に人権に関わるダイバーシティー&インクルージョンやジェンダー平等への取り組みは強化しなければいけないテーマである。

 

ダイバーシティーとは多様性を意味する。企業における人材の多様性というと、性別、年齢、国籍など目に見えやすい多様性について数値指標を設定して追いかける企業が多い。しかし、ここで考えなければいけないのは、本質的な多様性とはどういうものか、何のために多様性を求めるのかということである。考え方やバックグラウンド、経験値、得意分野など、目に見えにくいものの多様性も重要であるという本質を見誤ってはいけない。

 

日本の女性管理職の割合は、国際的に比較して圧倒的に低いという調査結果がある。欧米企業では30%を超えている水準であるのに対し、日本は14.9%となっている※2。また、各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数では、146カ国中116位とこちらも低い値となっている※3

 

こうした課題を解消すべく、女性の幹部比率を何%に高める、といった目標を設定している企業もあるが、重要なのは女性幹部の比率を高めることでどういった効果を求めるのかである。「とにかく数値割合を高める」ということでは、本当の意味での社会課題の解決につながらない。

 

G:ガバナンス

 

企業における管理能力の強化については、不正や不祥事を防ぎ正しい経営をするための体制強化はもちろんのこと、環境課題・社会課題を正しく認識し、解決に向けて事業戦略・経営戦略を推進することにも寄与する。昨今はパーパス(貢献価値)という言葉をよく耳にするようになった。パーパスは貢献価値と解釈することができる。このパーパスを改めて再定義し、理念とともに今一度、全社員で共通の認識とすることも大きな意味を持つ。

 

 

※1…環境省「令和元年版 環境白書」(2019年6月)
※2…内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和元年版」(2019年6月)
※3…内閣府男女共同参画局「共同参画」(2022年8月)

 

 

 

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Profile
巻野 隆宏Takahiro Makino
タナベコンサルティング ストラテジー&ドメイン大阪本部 本部長代理
専門分野は事業戦略の立案をはじめ開発・マーケティングなど多岐にわたる。企業の持続的な変化と成長のサポートに取り組み、志ある企業・経営者のパートナーとして活躍中。「高い生産性と存在価値の構築」を信条とし、明快なロジックと実践的なコンサルティングを展開。建設業、製造業を中心に中長期ビジョン構築において事業の選択と集中で高収益ビジネスモデルへの変革を数多く手掛けている。
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