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【特集】

デジタル×プロモーション

プロモーション(販売促進)手法のデジタルシフトが進んでいる。顧客の消費行動にも大きな影響を及ぼすまでになったデジタルプロモーションの最前線に迫る。
メソッド2019.09.30

顧客に響くプロモーションとは:庄田 順一

 

顧客接点の変化から見るプロモーション手法の変化

 

プロモーションを実施する際に押さえておかねばならない重要なポイントは、そのターゲットが、どういったプロモーション媒体と接触しているかを知ることだ。

 

【図表】は、主なメディア媒体への総接触時間である。

 

【図表】 メディアの接触時間の時系列推移(1日当たり/週平均): 東京地区

出典 : 博報堂DYメディアパートナーズ「メディア定点調査2019」時系列分析より

出典 : 博報堂DYメディアパートナーズ「メディア定点調査2019」時系列分析より

 

直近4年ごとに、2009年までを「マス主力」、2013年までを「デジタルシフト」、2014年以降を「モバイルシフト」と区切ると、消費者のメディア接触は、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌のマス主力から、PC(パソコン)や携帯電話などへのデジタルシフト、そしてスマートフォンやタブレット端末といったスマートデバイスへのモバイルシフトが進んでいる。このような状況においては、消費者とのコミュニケーションの在り方やプロモーション手法も変化しなければならない。

 

モバイルシフトにより、消費者は気になる商品があれば、即時にさまざまな関連情報を得られるようになった。

 

例えば、ある住宅メーカーがモデルハウスへの集客プロモーションを実施したとする。今の消費者は、来場前にその住宅メーカーやモデルハウスの情報を検索して調べる。そして、自分なりに同業分析を済ませた上で来場する。

 

その事前調査の段階で、知りたい情報が足りなかったり、他社との比較で不足する部分などがあったりした場合、消費者はモデルハウスまで足を運ばない。つまり、リアル商品に触れる前に選ばれない。

 

たとえ、その段階をクリアして来場したとしても、事前に調べた情報とリアルな場面で得られる体験や情報の間に“マイナスの乖離”があると、これも購買にはつながらない。ウェブプロモーションとリアルプロモーションが一体となって、消費者に対し継続的に価値訴求を行っていくことで、初めて個々のニーズに応えられるのだ。

 

逆に言うと、消費者が購入前に自社商品を詳しく知る機会を多く提供すれば、新たな顧客に育つ可能性が高い。

 

そのような学習の場をどう提供し、ファンを増やしていくか。商品を欲する人を探して販売するという従来の手法から脱却し、欲しくなる仕組みとその欲望をかなえる仕組みをオンライン上で構築する企業も出てきている。

 

少し前までの日本の市場は、大量生産・大量消費の時代で、企業とユーザーの接点が限られていた。そのため、マスメディアを使ってたくさんの人にリーチできれば商品は売れた。

 

しかし、インターネットが普及してスマホが登場した現在、企業とユーザーの接点は複数あり、その関係性も複雑化している。これからも企業が勝ち残って行くためには、ユーザーが欲しい商品をリアルタイムに把握して、必要な人に必要な情報や商品を提供することが重要だ。そのためにはデジタルマーケティングが欠かせない。

 

まず企業が実行すべきことは、ユーザーとの接点(タッチポイント)で得られるIPアドレス、Cookie(クッキー)、メールアドレス、ソーシャルアカウントなどのIDや情報を集めて、それらをつなぐことだ※。そのためには、顧客情報などのデータベースを、顧客中心の設計に作り変えていく必要がある。

 

すると、誰がどのような情報に接触したのか、何に興味があるのかといった情報を得られる。それを商品開発やマーケティングに生かすわけである。

 

※IPアドレスやCookieなども個人情報と見なし、その取得・利用を制限する「GDPR」(一般データ保護規則)が2018年にEUで導入されて以降、Web上で取得したユーザー情報は慎重に取り扱うことが世界的な流れとなっている。適切なデータ収集・活用に注意したい

 

 

デジタルマーケティングによる新しいプロモーションのカタチ

 

 

ここで、デジタルマーケティングで何ができるのか、先進事例を紹介する。

 

良品計画が提供する無印良品のアプリ「MUJI passport(ムジパスポート)」。これはポイントカードがアプリになっただけではない。購入前後の行動が可視化され、来店頻度の向上や施策の測定にも役立っているという。

 

店舗に顧客が来店して商品を購入する。この流れで企業が把握できるのは「性別、年代、買ったもの」だけである。購入時にポイントカードを提示してもらえれば「名前、買ったもの」の情報をひも付けられるが、やはりそれだけだ。

 

しかし、企業が本当にマーケティングに使うべきは、なぜ店舗へ来てくれたのか、購入商品の他にどういう商品に興味を持ったのかといった情報である。これを解決したのがMUJI passportだ。

 

このアプリには、購入時に提示してポイントを付与する従来のポイントカード機能に加えて、商品検索機能もある。これによって、購入前の行動が分かる。また、店舗に近づいてアプリ内で「チェックイン」するだけで、実際に来店や購入をせずともポイントが付与される。さらに、商品に関してソーシャル投稿しても付与される。

 

付与するポイントが増えるほど、ディスカウントして商品を売らなければならない。このポイントプログラムの導入には、大きな方針転換が必要だったに違いない。

 

しかし、その結果、顧客の購入前後の行動、行動範囲から想定される勤務先や住まいのエリア、行動時間帯など、これまで分からなかったことが把握できるようになった。ネットとリアルのシームレスな顧客体験が実現できている事例だろう。

 

重要なのは、「より良い」買い物体験そのものである。体験の価値を向上させるためには、テクノロジー偏重に陥らず、リアルな顧客満足を体験させる設計がとても重要になってくる。

 

環境の変化に対し、プロモーション手法も顧客の価値観も変化し、一人一人のニーズを満足させる時代へと突入した。ウェブとリアルの融合モデルを自社プロモーション戦略へ落とし込み、新たな形として価値提供していただきたい。

 

“刺さる”プロモーション研究会

販促・プロモーションの概要や手法、考え方を学び、最先端プロモーション事例や成果を上げ続けている最新ノウハウを、現場に落とし込みやすい形で提供します。社内に担当人材が育ち、自社のプロモーション施策で打つべき手が見えてきます。

 

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Profile
庄田 順一Junichi Syouda
タナベ経営 SP コンサルティング本部 副本部長。販促戦略パートナーとして、顧客創造に向けた“Webとリアルを融合した集客プロモーション”コンサルティング活動を展開。マーケティングの戦略策定から実行・運営までをトータルでサポート。特にプロモーション企画とその推進マネジメントを通じた人材育成で、クライアントから高い信頼を得ている。
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