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【特集】

ESG経営

企業の長期的な存続を評価するための指標「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」が、新たな投資判断基準として急速に広がっている。環境や社会への配慮、健全な管理体制の構築などによって、社会と自社の持続的成長を目指す企業の取り組みを紹介する。
2023.04.03

経営理念、基本方針を策定しESG経営を着実に推進:日本エスコン

 

環境や景観、快適性へ配慮した不動産開発を進めている。写真は左が大阪府八尾市初、同社2物件目のZEHマンション「レ・ジェイド八尾桜ヶ丘」。右は埼玉県ふじみ野市のショッピングセンター「トナリエふじみ野」(CASBEE S ランク取得)

 

 

無理のない目標を立て、地道に続ける

 

独自の仕組みで推進するESG経営で、藤田氏とともにかじ取り役を果たすのが、社長室副室長でESG推進グループのグループ長(2023年1月現在)久木野良樹氏。ミーティングに毎回参加し、メンバーの活動報告に耳を傾け、現場起点の声を引き出している。

 

「無理のない範囲で目標を立て、取り組めることから始めて、地道にやり続けることが大切です。もう1つ、力を注いできたのが外部評価です。自社が属する業種でどんなESG指標や評価があるかを調べて取り組むことで、モチベーションと推進力が高まり、対外的なアピール効果も生まれます。

 

GRESBへの挑戦もその1つです。現在、当社の評価は5段階中『2』。当初、無得点の項目もありましたが、外部評価により取り組むべき課題が明確になり、活動計画も立てやすくなりました」(久木野氏)

 

また、女性活躍推進法や、次世代法(次世代育成支援対策推進法)に基づく一般事業主行動計画の目標を策定したほか、2023年3月には健康経営優良法人の認定を取得した。2021年4月に中部電力の連結子会社となり、同グループ会社と方向性を合わせる取り組みも進んでいる。

 

安定・健全・透明性あるガバナンスへの向上を目指すGチームの取り組みは、2022年のコンプライアンス室設置に結び付いた。「上場・非上場を問わず、コンプライアンスの重視と徹底なくして事業継続はあり得ません」と久木野氏。また、非財務情報の開示も積極的に推進し、よりタイムリーな情報発信を実現した。社内的にも、従業員とのコミュニケーション強化とハラスメントのない企業文化を目指しており、内部通報制度などの仕組みが整備されている。さらに、サクセッションプラン(後継者育成)を重要な課題と提起することで、社長室主催の研修もスタートした。

 

「外部評価を得ることは、外のベンチマークで自社がどの位置にあるのかを知るとともに、社内に向けてこんな成果を出していくんだと、ESG活動の位置付けを明確にしやすい。企業ブランドの発信力にもつながり、非常に大切です」(藤田氏)

 

一方、取り組みを進めることで生まれた新たな課題もある。「自社」と社員一人一人の「自分」にとっての、ESG推進の評価の在り方だ。

 

「人事評価の対象として、ESG推進グループの組織とメンバーの活動をどこまで反映していくかが、これからのテーマです」と久木野氏。藤田氏も「ESGは短期的に成果が出るものもあれば、持続的な長期の取り組みもあります。コストとの兼ね合いも関係するので評価が難しい。会社も社員も、双方が納得できる物差しづくりを進めているところです」と将来を見据える。

 

人事評価が定まると「内なるベンチマーク」が可能になる。ESG経営へ歩みを進める多くの企業がまだ、その途上にあると言えるだろう。

 

 

全社員を巻き込み、確実にやり切る

 

ESG推進のキックオフから5年が経過した今、ごみを減らす、電気を消灯するといった身近な取り組みが浸透。推進グループメンバーや社員の意識と行動に、変化が生まれている。

 

「電力使用量や廃棄物削減は、対前年度5%減を目標に掲げています。実績は絶えずモニタリングして担当・関係部署にフィードバックし、毎週ある全社員朝礼でも、現状報告や重点的に強化してほしい取り組みを周知しています。一足飛びに進行するものではないので、組織全体へ地道にメッセージを発信し続けながら、推進グループメンバー中心の活動から脱却し、全社員を巻き込んでいくことが大事です。

 

環境も健康も働き方もガバナンスも、どこからでもつながって切り離せないのがESGです。満足度を高める従業員エンゲージメントも、ESG推進の一環だと思っています」(藤田氏)

 

2022年6月には、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく情報開示を初めて実施。今後は、脱炭素と安全・安定・効率性の同時達成を目指す「ゼロエミチャレンジ2050」を策定する中部電力のグループ企業として、GHG(温室効果ガス)排出量の削減もマイルストーンに定め、まずはオフィスと社有車のGHG排出量を2030年に40%削減という目標達成を目指す。さらに2050年に向けては、推進グループの各チームを中心に、事業活動全体の排出量削減の検討が始まっている。

 

「ZEHマンションの強化や再生エネルギー電源推進など、取り組むべき課題はたくさんあります。『言うは易し、行うは難し』で、まだまだ道半ばです」と笑顔で語る藤田氏。謙遜しながらも、その表情には2018年から蓄積してきたノウハウが今後の挑戦に必ず生きる、という確信がにじみ出る。

 

E・S・Gそれぞれに成すべきことを知り、地道かつ確実にやり切る経営が、ESG投資を呼び込み、社会貢献企業の評価を高める力にもなる。そして何よりも、自社の経営が進むべき方向性に大きく資することが、最大のメリットになっていく。

 

 

日本エスコン 取締役 執行役員 社長室長 現管理本部長 藤田 賢司氏(左)
社長室副室長 ESG推進グループ長 現経営企画部長 久木野 良樹氏(右)

 

 

PROFILE

  • (株)日本エスコン
  • 所在地:東京都港区虎ノ門2-10-4 オークラプレステージタワー20F
  • 設立:1995年
  • 代表者:代表取締役社長 伊藤 貴俊
  • 売上高:994億3100万円(連結、2022年12月期)
  • 従業員数:398名(連結、2022年12月現在)

 

 

 

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