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【特集】

ESG経営

企業の長期的な存続を評価するための指標「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」が、新たな投資判断基準として急速に広がっている。環境や社会への配慮、健全な管理体制の構築などによって、社会と自社の持続的成長を目指す企業の取り組みを紹介する。
2023.04.03

社会への貢献にかける創業者の意志を継承:TOTO

 

性能だけではなく、豊かで快適な生活文化を創造

 

節水型トイレを開発した1976年当時30%程度だった日本の下水道水洗化率は現在90%を超え、1980年に販売開始したウォシュレットは2022年8月に累計6000万台を突破した。公共施設から一般家庭まで、現代の日本では「きれいで快適」「環境にやさしい」トイレが広く普及している。しかし、ここに至るまでには地道な啓発活動が重ねられてきたと曾根崎氏は強調する。

 

「当社では、製品性能だけではなく『豊かで快適な生活文化を社会に広めていく』という視点を大切にしてきました。1996年にトイレ関連企業と業種の枠を超えて結成した『学校のトイレ研究会』では、5K(汚い・臭い・暗い・怖い・壊れている)のイメージもある学校のトイレを安全・安心な生活空間に変えていこうと、学校や自治体に改善提案を重ねてきました。30年の時を経て、トイレに対する日本の衛生意識は格段に向上したと思います」(曾根崎氏)

 

生活文化は、人と人とのつながりの中で長い年月をかけて育まれていく。2005年に設立した「TOTO水環境基金」は、環境に貢献する地域の人たちの輪を広げていくためのプラットフォームだ。顧客・株主・社員などステークホルダーによる環境貢献の実績から助成金額を算出し、水環境の保全や衛生的な生活環境を整備する国内外の活動を支援している。「意志を持って水環境の課題解決に取り組んでいけば、必ずや社会の発展に貢献でき、経済的成長にもつながると考えています」と曾根崎氏。2022年までの17年間の累計助成額は4億1656万円に上る。

 

 

人権尊重のために明確なKPIを掲げる

 

TOTOの事業は、公衆衛生や社会福祉の向上、環境権の保障など、国の責務として憲法に定められた「人権の尊重」に寄与する取り組みだ。具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定し、「社会的価値」「環境価値」の創造に取り組んできた結果、売上規模・営業利益率・海外売上高比率などの「経済価値」も比例して伸びてきた。

 

人権尊重の取り組みは、足元の職場でも積極的に行われている。

 

「社内では、性の在り方・障がい・国籍・年齢などによる差別がなく、皆が安心して生き生きと働けるような環境の整備をグループ一丸となって推進しています」(曾根崎氏)

 

一例を挙げると、現在グローバルで達成を目指している「新共通価値創造戦略 TOTO WILL2030」においては、2023年度の目標として、①女性管理職比率(日本)21%、②ライフイベントによる離職率※2(日本)0%を掲げている。(【図表】)

 

 

【図表】2023年度までのグローバル環境目標

※a…2005年当時の商品を普及し続けた場合と比べた削減効果
※b…対象範囲:日本・米州・欧州・中国大陸・台湾・インド・タイ・ベトナム
出所:TOTO提供資料を基にタナベコンサルティング作成

 

 

障がい者雇用についても1978年から積極的に取り組んでおり、2021年4月現在、307名が働いているという(日本全社員の2.53%)。多様な「人財」を包摂する組織づくりは、製品のユニバーサルデザインにも生かされ、市場の裾野を広げている。

 

同社ではサプライチェーン全体にも目を配っている。人権・労働・環境などの国際的なガイドラインに沿ったCSR調達計画を策定し、購買部門が方針説明、アンケート調査、訪問監査などを担当。長くて深い信頼関係を構築するため、企業訪問によるモニタリングも実施している。

 

今後、TOTOは2030年にきれいで快適、環境にもやさしい「サスティナブルプロダクツ」の構成比を78%まで向上させることを目標に掲げる。感染症予防に配慮したタッチレスで流せるパブリックトイレや、高騰する光熱費の抑制につながる節水シャワーや断熱浴槽など、社会課題の解決に直結する製品のポテンシャルは高い。

 

「中国、米国、タイ、ベトナムなど、さらなる成長が期待できる海外市場では、先行する競合他社との差別化が求められます。当社だからこそ提案できる『より良い生活』、つまり付加価値とは何か。引き続き、清潔なトイレ文化がウェルビーイングにもたらす意味を探究し、広く発信していきたいと考えています」(曾根崎氏)

 

 

※2…結婚・妊娠出産・介護・配偶者の転勤などライフイベントを原因とする望まない離職を防ぐため、制度などを充実させながら、仕事との両立支援を推進している

 

 

 

TOTO 経営企画本部 ESG推進部(小倉) 企画主幹 曾根崎 修司氏

 

 

PROFILE

  • TOTO(株)
  • 所在地:福岡県北九州市小倉北区中島2-1-1
  • 設立:1917年
  • 代表者:代表取締役 社長執行役員 清田 徳明
  • 売上高:6452億7300万円(2022年3月期)
  • 従業員数:3万4614名(2022年3月現在)

 

 

 

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