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【特集】

ESG経営

企業の長期的な存続を評価するための指標「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」が、新たな投資判断基準として急速に広がっている。環境や社会への配慮、健全な管理体制の構築などによって、社会と自社の持続的成長を目指す企業の取り組みを紹介する。
2023.04.03

ESG経営に取り組む企業:花王|日鉄ソリューションズ|セブン銀行

誰もが納得し発展する循環型モデルを目指す:花王

 

 

人と地球に貢献する「Kirei Lifestyle Plan」

 

創業以来、人々の暮らしに寄り添い、清潔で豊かな生活文化を実現する日用品・化学品メーカーとして社会繁栄に貢献する花王。顧客起点で消費者志向の事業活動を推進する企業理念「花王ウェイ」を自社の拠りどころに、2021年にパーパスを「豊かな共生世界の実現」にアップデートした。

 

同社は、気候変動や資源枯渇、プラスチックごみ問題、環境や人権に配慮するエシカル消費の高まりなどを背景に、「購買意識・行動が多様化する事業環境の変化に対して、自社変革なくして未来に大きな発展は望めない」と危機感を抱き、ESG 経営を根幹に据えて長期経営ビジョン「K30」を策定。①持続的社会に欠かせない企業、②高社会貢献&高収益グローバル企業、③ステークホルダーへの成長レベル還元、これら3つを目標に、2030年までに達成したい姿を「グローバルで存在価値ある企業『Kao』」と定め、売上高2兆5000億円を見据えている。

 

2021年度には、「未来のいのちを守る~Sustainability as the only path」をビジョンに、中期経営計画「K25」がスタート。既存事業を高収益で強くてしなやか姿に再生する「Reborn Kao」と、未来のいのちを守る新事業の創成「Another Kao」を両輪に変革を推進している。「Maximum with minimum(最小限の資源で最大価値を)」の実現に向けて、「消費を前提としたモノづくり」から「資源を循環させるモノづくり」、「数と量の線形型経済」から「質と絆の循環型経済」へと、誰もが納得し発展する循環型のビジネスモデルの構築を目指している。

 

花王がESG経営の基軸として2019年から推進するのが、「Kirei Lifestyle Plan」(KLP)だ。

 

「全ての人と地球にとってより清潔で美しく健やかな暮らし方」をKirei Lifestyleと定義し、「快適な暮らしを自分らしく送るために」「思いやりのある選択を社会のために」「よりすこやかな地球のために」の3本柱と、その共通基盤となる「正道」で構成されている。(【図表】)

 

 

【図表】花王のESGコミットメントとアクション

出所:花王「花王統合レポート 2022」(2022年6月)よりタナベコンサルティング作成

 

 

2030年までのコミットメントとアクションを明文化し、19の重点取り組みテーマ(マテリアリティ)を選定。それぞれに指標や中長期目標を設定し、各事業部門が目標計画に落とし込み、バリューチェーンを通じた事業活動で社会貢献を進めている。

 

KLP実現に向けて、特に環境領域では「ゼロ浪費・カーボンゼロ」を掲げ、自然と調和する事業運営を体現する脱炭素・ごみゼロなどへの包括的アプローチや、サーキュラーエコノミー(循環型経済システム)を重視する変革、競合他社やマルチステークホルダーとの新しい協働などを推進している。

 

カーボンニュートラルに関する目標として、2040年にカーボンゼロ、2050年にカーボンネガティブの実現を目指し、科学的根拠に基づく削減目標イニシアチブ(SBTi)を1.5℃レベルに引き上げた。また、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄う「RE100」にも参画した。

 

プラスチックバリューチェーン企業として、プラスチック廃棄物ゼロや、製品・ブランドのデザインにESGの視点を組み込み、循環型の社会・事業にポジティブインパクトを与える「ESGよきモノづくり」の創出にも挑んでいる。製品の包装容器に100%再生プラスチックやケミカルリサイクル PET 素材を採用。業界やバリューチェーン、自治体などパートナーとは、リサイクルイノベーションの新システム構築、環境トレーサビリティーの確保でも協働している。

 

2021年には、KLPを社内外により広く発信し社員の挑戦意識を改革すること、ESG 経営の透明性を高めることを目的に、OKR(達成目標管理)システムを導入。全社のESGに関する取り組みの認知度が飛躍的に向上し、KLP実現に挑む企業文化も醸成している。ESG経営を言葉で把握するだけでなく、確かなマインドに落とし込んでいるのだ。

 

KLPはコーポレート・製品ブランドの価値・信用度の向上にも貢献している。米国のシンクタンクであるエシスフィア・インスティテュートが発表する「World’s Most Ethical Companies® 2022」(世界で最も倫理的な企業)に16年連続で選定された。また、企業が開示した環境情報を基に8段階で格付けする国際NGOであるCDPからは、2022年に「気候変動」「森林」「水」の分野で最高評価「A」のトリプルA評価を3年連続で獲得した。

 

2020年には、米国でKLPの実現をパーパスとしたブランド「MyKirei by KAO」の販売を開始。同社の技術力と独自の環境・社会に配慮した商品群を提案し、日本や欧州、アジアにも展開予定だ。

 

「KLPは経営ビジョンを達成する軸」「ESGは投資であり未来の財務」と位置付ける花王は、既存事業領域の清潔・健康・美を深化・拡張することで、社会へのインパクトをさらに高めながら事業も成長させている。

 

 

 

PROFILE

  • 花王(株)
  • 所在地:東京都中央区日本橋茅場町1-14-10
  • 創業:1887年
  • 代表者:代表取締役 社長執行役員 長谷部 佳宏

 

 

 

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