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【研究リポート】

デザイン経営モデル研究会

経営に『デザインの力』を活用して、魅力ある自社らしいブランドづくりを実践している素敵なデザイン経営モデル実践企業の取り組みの本質を視察先講演と体験で学びます。
研究リポート2023.11.17

デザインの力によるイノベーション創出:東京大学生産技術研究所

【第5回の趣旨】
「デザイン経営」とは、デザインを「企業やビジネスモデルそのものを差別化する経営資源」と捉え、受け手側の体験価値を高め、自社らしさを醸成する経営手法である。
デザイン経営モデル研究会では、デザインの力を経営に活用する「高収益デザイン経営モデル」実践企業を視察し、経営の現場でデザインがどう活用され、他社との差別化、社員の活躍と成長、地域社会との共創を実現しているかを体験。
第5回は、三井不動産株式会社の講義で「街づくり型物流施設「MFLP」に見る新たなロジスティクスのデザイン思考」、東京大学の講義で「デザインの力によるイノベーション創出」、株式会社イトーキの講義で「これからの時代のワークスタイルとセンターオフィスのデザイン」についての秘訣を学び、デザイン経営の本質に迫った。
開催日時:2023年6月1日、2日(東京開催)

東京大学 生産技術研究所価値創造デザイン推進基盤(DLX) 准教授 本間 健太郎 氏

東京大学 生産技術研究所
価値創造デザイン推進基盤(DLX) 准教授 本間 健太郎 氏

 

 

はじめに

 

「もしかする未来の研究所」をスローガンに掲げ日々研究活動を行っている東京大学生産技術研究所。まだ世界が気づいていない数々の可能性を誰よりも早く見つけ出し、社会と「もしかすると実現する未来」をつなぎ合わせるための価値を絶え間なく提起し続けている。

 

その中に属する価値創造デザイン推進基盤(以下DLX)は、デザインを通じて価値を創造することをミッションとしている。研究室や企業と協働し、顧客が動き出す新たな価値をデザインすることで実現可能なイノベーションを創出。科学や工学への『デザインの力』の活用が、なぜ、社会にイノベーションをもたらすのか。その最先端のデザイン思考の本質に迫った。

 

東京大学生産技術研究所では、まだ世界が気づいていない数々の可能性を誰よりも早く見つけ出し、社会と「もしかすると実現する未来」をつなぎ合わせるための価値を絶え間なく提起し続けている
東京大学生産技術研究所では、まだ世界が気づいていない数々の可能性を誰よりも早く見つけ出し、社会と「もしかすると実現する未来」をつなぎ合わせるための価値を絶え間なく提起し続けている


 

まなびのポイント 1:技術と社会をつなぐ価値創造ステップ

 

DLXの活動における大目的は、技術と社会をうまくつなげて新しい価値やサービスを作ることである。そこにはマーケットインの考え方を取り入れることが重要である。

 

保有技術をベースとし、技術を昇華させるためニーズを探すのが従来のフレームワークであった。実際には技術とニーズを結びつけるためには数多のハードルが存在し、それを乗り越え社会実装に到達している。

 

しかし、DLXの活動に欠かせないのは「社会からフィードバックを受けること」である。そのため、社会のニーズを入口とし、解決するための手段として技術を取り入れるという逆の発想が最適といえる。無理やりニーズに結び付けるのではなく、顧客が思わず意見を投げかけたくなるような仕組みをつくることでそれが実現する。

 

技術とニーズをつなぎ合わせる。それは例えば技術×時代の流れ、技術×ライフスタイルなど、時代に応じた社会のニーズと連動させることが、技術を活かした価値創造の基礎となる。価値とは技術が持っているのではなく、社会ニーズから生まれるものなのだ。

 

DLXの考える価値創造デザイン。社会ニーズに合わせて技術・科学・工学を適用する
DLXの考える価値創造デザイン。社会ニーズに合わせて技術・科学・工学を適用する

 

 

まなびのポイント 2:アイデアを出すための有用な制限

 

ニーズの掘り起こしに苦労している経営者は少なくない。DLXでは協働先とプロジェクトを行う際、まずは技術についての討論を行う。メインテーマに沿って話すだけではなく、あえて本筋から外れたテーマを振ったり、複数の視点からそのテーマについての議論を交わす。そうすることで技術の本質を探ることができる。そこで得た技術の本質こそが、社会ニーズを解決するためのタネだという。

 

その後、タネを活用するためのアウトプットを行うフェーズに入る。DLXではアイデア・ジェネレーションとプロトタイピングというモデルを活用してアイデアを創出する。多種多様な人物からアイデアを発散してもらい、その中から選択と改善を行うことがこのモデルにおいて重要な点である。

 

発散フェーズでのポイントは、批判的にならずなるべく多くのアイデアを出すことである。そのため、「カードを使って強制連想をさせる」「時間制限を設けてアイデアを出してもらう」「アイデアをマッピングする」など、あえて制限を設けることでよりアイデアを発散しやすい環境をつくるそうだ。

 

また、選択と改善フェーズのポイントは「マッピングされたアイデアへ批判的に意見する」「批判的に意見する際は特定の人物になりきって意見をする」ことである。

 

ここでも同様に、より具体的かつ的確なアイデアを出すための制限を設け、ファシリテーターが上手く場を活性化させることが成功の秘訣だという。

 

ペニントン・マイルス氏により定型化されたアイデアジェネレーションのフレームワーク
ペニントン・マイルス氏により定型化されたアイデアジェネレーションのフレームワーク

 

 

まなびのポイント 3:真のデザイン思考

 

選択されたアイデアは、「試しに作ってみる=プロトタイピング」を行い、その段階で失敗して社会から意見をもらうことが重要だと本間氏は言う。アイデアは思いつくだけではなく、目に見える成果物として形にする。そして、失敗と改善を繰り返す泥臭さも社会価値をデザインするためには必要なのだ。

 

最先端の技術と地道な作業のシナジーを発揮し、アイデアの発散と収束を繰り返す。その仮説と検証で選択肢を生み出す発散的発想がデザイン思考そのものである。外部との共創によりさらに新たな価値(=選択肢)を生み出し、テクノロジーとユーザー目線を両立させた「もしかする未来」を実現するイノベーションを創出していくだろう。

 

アイデアは思いつくだけではなく、目に見える成果物として形にする。そして、失敗と改善を繰り返す泥臭さも社会価値をデザインするためには必要
※図・写真は講演資料より抜粋

 

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