中堅企業にとって、次世代リーダー育成は人事部門だけのテーマではない。事業成長、組織拡大、幹部育成、後継者育成、さらには人的資本経営の実装までを見据えれば、次世代リーダー育成は明らかに経営課題である。
実際の中堅企業では、「任せられる若手・中堅が育たない」「管理職候補はいるが経営視点が弱い」「育成投資をしているのに幹部層が厚くならない」「リーダー候補の選び方が属人的である」といった悩みが多い。こうした状態のままでは、将来の経営体制が不安定になるだけでなく、成長戦略の実行力も弱くなりやすい。
中堅企業の成長戦略については、前回記事である中堅企業の成長戦略とは? 経営層が押さえるべき5つの論点でも整理した通り、事業・組織・人材を一体で設計する視点が重要である。次世代リーダー育成は、その中でも「将来の実行主体をどうつくるか」という極めて重要なテーマである。
また、人的資本経営の観点から見ても、次世代リーダー育成は、単なる研修施策ではない。人的資本経営とは?~企業価値向上、持続成長へ向けて でも示されている通り、人材を資本として捉えるのであれば、将来の経営・変革を担う人材への投資は、中長期の企業価値向上に直結する。
本記事では、中堅企業が次世代リーダー育成を経営課題として捉え直すために、今やるべきことを整理する。
この記事の要点
中堅企業が次世代リーダー育成を経営課題化するうえで重要なのは、次の5点である。
- 次世代リーダー育成を人事施策ではなく経営戦略の実装テーマと捉えること
- 育成対象を曖昧にせず、求めるリーダー像を明確にすること
- 実務を通じて経営視点を鍛える機会を設計すること
- 人事制度や評価制度と育成方針を連動させること
- 幹部育成・後継者育成・理念浸透までつなげて設計すること
なぜ今、次世代リーダー育成が経営課題なのか
中堅企業の成長は「人材の厚み」で決まるから
中堅企業は、大企業ほど人材層が厚いわけではなく、中小企業ほど単純なマネジメントで回るわけでもない。この中間領域にある中堅企業では、事業を伸ばすにも、変革を進めるにも、次世代リーダー層の厚みが競争力を左右する。
将来の幹部・後継体制に直結するから
次世代リーダー育成は、単に若手の活性化を目指すものではない。将来の幹部候補、部門責任者候補、後継者を支える右腕・左腕人材を育てることにつながる。実際に、中堅・中小企業の約6割が次世代のリーダー・後継体制づくりに課題 とされており、次世代人材の不足は企業の将来リスクそのものである。
育成投資を経営成果につなげる必要があるから
研修実施や制度導入だけで終わる人材投資は、経営成果に結び付きにくい。重要なのは、どのような人材を、何のために育てるのかを明確にし、事業成長や組織変革につながる形で投資することである。つまり、次世代リーダー育成はコストではなく、成長投資として位置付けるべきなのである。
次世代リーダー育成を経営課題化する5つのポイント
1. まず「次世代リーダーとは誰か」を定義する
次世代リーダー育成が進まない企業の多くは、育成対象が曖昧である。現場で成果を出している若手・中堅社員を何となく候補者と見なしていても、どのような役割を担う人材を育てたいのかが明確でなければ、育成はぶれやすい。
例えば、次世代リーダーには「将来の事業責任者候補」「将来の経営幹部候補」「次世代の部門マネジャー候補」「専門性を軸に組織を牽引するキーパーソン」「後継者を支える経営補佐人材」といったタイプがある。
この違いを明確にせずに一律の育成を行っても、成果は出にくい。まず必要なのは、自社の成長戦略や将来の組織像に照らして、「誰を、どの役割に向けて育てるのか」を定義することである。
その際は、次世代幹部選定チェックリスト や、Leader KARTE(幹部・リーダー適性診断) も参考になる。
2. 育成を「研修」ではなく「経営テーマへの参画機会」で考える
次世代リーダーは、講義だけでは育たない。重要なのは、経営に近いテーマに触れ、考え、提言し、実行する経験である。
例えば、「中期経営計画づくりへの参画」「新規事業・改善プロジェクトの推進」「部門横断テーマのリーダー経験」「経営層への提案発表」「社外研修や他流試合での視座の引き上げ」といった機会は有効である。
この点は、経営者人材育成概論 や、ビジョン実現に向けた幹部人材育成 が示す通り、長期ビジョン構築、中期経営計画策定、新規事業開発といったテーマに関わることが、経営視点の育成に有効である。
3. 人事制度・評価制度と連動させる
次世代リーダー育成を本気で進めるなら、育成方針と人事制度が矛盾していてはならない。
例えば、挑戦や越境経験を求めながら、評価は短期成果だけに偏っている。あるいは、次世代人材に高い視座を求めながら、処遇や登用の仕組みが年功序列のままである。このような状態では、育成メッセージが現場に伝わりにくい。
だからこそ、次世代リーダー育成は、人事制度見直しとセットで捉える必要がある。この点は、経営戦略に適した人事制度を再構築する や、人事制度再構築のポイント~ビジョンを実現する制度設計と運用 とも強くつながる。
4. 幹部育成とつなげて「登用の道筋」を見せる
次世代リーダー育成が形骸化する理由の一つは、育成後の出口が見えないことである。どれだけ研修やプロジェクト経験を積んでも、その先に幹部候補、部門責任者、経営会議メンバーといった登用イメージがなければ、本人の本気度も周囲の期待値も上がりにくい。
したがって、次世代リーダー育成は、将来の幹部育成とつながっていなければならない。この文脈では、人的資本経営「実践元年」に進めるべき人材育成 や、日本に再興をもたらす経営者人材の育成 も参考になる。
5. 後継者育成・理念浸透と一体で進める
中堅企業の次世代リーダー育成は、単なる人材プール形成ではない。企業理念や価値判断基準を共有し、将来の経営を支える体制をつくることが重要である。
特に中堅企業では、経営者の価値観や判断が企業運営に大きく影響する。そのため、次世代リーダーには、知識やスキルだけでなく、経営者が何を大事にしているのか、どのような基準で判断しているのかを理解させる必要がある。
この意味で、次世代リーダー育成は、後継者育成や理念浸透とも深く結び付く。この点は、経営者・幹部人材育成による企業承継 や、Vol.04 ビジョン浸透のための全社戦略①、Vol.05 ビジョン浸透のための全社戦略② とも接続する。
中堅企業でよくある失敗
中堅企業の次世代リーダー育成でよく見られるのは、まず育成対象が広すぎることである。「若手全体」や「管理職手前層」といった大きなくくりで対象を設定してしまうと、何のために、どのような人材を育てたいのかが曖昧になりやすい。その結果、育成の狙いもぼやけ、施策全体の効果が見えにくくなる。
また、研修を実施しただけで取り組みが終わってしまうケースも少なくない。学んだ内容を実際の仕事の中で試し、役割を担いながら定着させる機会がなければ、行動変容にはつながりにくい。
さらに、制度と育成方針がずれていることも大きな課題である。企業としては挑戦や主体性を求めていても、評価・処遇・登用の仕組みがそれに連動していなければ、現場にメッセージは伝わりにくい。加えて、経営者の関与が弱く、人事部門任せになっている場合も、次世代リーダー育成は経営課題としての重みを持ちにくくなる。次世代リーダー育成は、単なる人材開発施策ではなく、将来の経営体制を形づくるテーマであるため、経営者自身の関与が欠かせない。
そしてもう一つ見落とされがちなのが、育成後にどのようなポストや役割につながるのかが見えないことである。将来の登用イメージが不明確なままでは、候補者本人の本気度も高まりにくく、周囲もその育成を重要課題として受け止めにくい。
中堅企業は次世代リーダー育成をどう進めるべきか
中堅企業が次世代リーダー育成を進める上で、まず必要なのは、自社の成長戦略や将来の組織像を踏まえ、どのような人材が次世代リーダーとして求められるのかを明確にすることである。育成は人を増やすこと自体が目的ではなく、将来どの役割を担う人材をどう育てるかを定義するところから始まる。
あわせて、資質、態度能力、実務能力、将来性などを踏まえながら、育成対象となる候補者を見立てることも欠かせない。候補者の選定が曖昧なままでは、育成施策もまた曖昧になり、成果につながりにくくなるためである。
その上で重要になるのが、研修だけに頼らず、実践を通じて育てることである。経営計画、部門横断課題、新規事業など、経営に近いテーマに参画させることで、視座や判断力、周囲を巻き込む力を鍛える必要がある。
さらに、こうした育成方針は、評価、登用、配置、人事制度と連動していなければならない。育成で求める行動や役割と、制度上で評価される内容がずれていては、現場にメッセージが伝わらず、本人の行動変容にもつながりにくいからである。
そして、次世代リーダー育成は単独の人材施策として終わらせるのではなく、将来の幹部育成や後継者育成へとつなげていくことが重要である。
中堅企業における次世代リーダー育成で本当に問われているのは、若手や中堅社員の成長支援そのものではなく、次世代の経営体制をどうつくるかという経営課題である。したがって、育成を人事施策の一つとして扱うのではなく、企業の持続的成長を支えるための経営テーマとして位置付ける必要がある。
特に経営者は、次の5点を押さえる必要がある。
- 次世代リーダー像を明確にすること
- 実践機会を通じて経営視点を育てること
- 人事制度と育成方針を連動させること
- 幹部育成への道筋を示すこと
- 後継者育成や理念浸透と一体で進めること
次世代リーダー育成は、将来のための余裕施策ではない。中堅企業が次の成長を実現するために、今すぐ経営課題として取り組むべきテーマなのである。
FAQ
Q1. 次世代リーダー育成は人事部門の仕事ではないのか
人事部門の役割は大きいが、それだけでは不十分である。次世代リーダー育成は将来の経営体制づくりに直結するため、経営課題として扱う必要がある。
Q2. 次世代リーダーと幹部候補は同じか
重なる部分はあるが、必ずしも同じではない。将来の部門責任者候補や専門リーダーも含め、どの層をどう育てたいのかを明確にすることが重要である。
Q3. 研修だけではなぜ不十分なのか
知識の習得だけでは、経営視点や意思決定力は身に付きにくいからである。実践テーマへの参画が不可欠である。
Q4. 次世代リーダー育成は後継者育成とどうつながるのか
後継者だけでは経営は成り立たない。後継者を支える幹部・中核人材の層が厚くなってこそ、承継後の経営体制が安定する。