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コラム 2026.09.07

中堅企業における人的資本経営とは?経営成果につなげる実践ポイント

人的資本経営は、大企業の開示対応や先進的人事制度の話として受け取られがちである。
しかし実際には、中堅企業こそ人的資本経営に取り組む意義が大きい。なぜなら、中堅企業の成長は、人材の採用・育成・配置・評価・理念浸透の質によって大きく左右されるからである。


実際の中堅企業では、「人材採用が難しい」「管理職が育たない」「人事制度はあるが戦略とつながっていない」「理念が現場まで浸透していない」といった課題が少なくない。こうした課題に対し、人的資本経営を“開示のための対応”として捉えるだけでは不十分である。重要なのは、人材をコストではなく資本として捉え、経営戦略とつなげて価値創造に結び付けることなのである。


中堅企業の成長戦略については、「中堅企業の成長戦略とは? 経営層が押さえるべき5つの論点」でも整理した通り、事業・組織・人材を一体で設計する視点が欠かせない。人的資本経営は、その中でも特に「人と組織」の側面から成長戦略を実装するための重要テーマである。


また、タナベコンサルティンググループでは、「人的資本経営とは?~企業価値向上、持続成長へ向けて」で人的資本経営の考え方を整理するとともに、中堅企業経営研究所(中堅企業ラボ)を通じて中堅企業の人材・組織課題も継続的に研究している。


さらに、タナベコンサルティングの支援現場では、人的資本経営を単なる制度論ではなく、経営戦略との連動、人材ポートフォリオ設計、人事制度再構築、次世代幹部育成、理念浸透まで一体で支援するケースが増えている。


本記事では、中堅企業の経営層・経営企画・人事責任者に向けて、人的資本経営を経営成果につなげるための実践ポイントを整理する。


この記事の要点
中堅企業における人的資本経営で重要なのは、次の5点である。

  • 人的資本経営を大企業向けの開示テーマではなく、成長戦略の実装テーマとして捉えること
  • 経営戦略と人材戦略を切り離さずに設計すること
  • 人材ポートフォリオと人事制度を連動させること
  • 次世代幹部育成と組織文化・理念浸透を同時に進めること
  • 人事KPIや運用の仕組みまで落とし込み、経営成果につなげること



中堅企業における人的資本経営とは何か

人的資本経営とは、人材を「資源」ではなく「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営の在り方である。


この考え方自体は広く知られるようになったが、中堅企業では「開示義務のある大企業の話」「ジョブ型や先進制度を導入できる企業の話」と受け取られることも多い。


しかし、中堅企業における人的資本経営の本質は、情報開示ではない。
限られた人材で、いかに経営戦略を実現するかにある。


つまり中堅企業の人的資本経営とは、採用、育成、配置、評価、処遇、組織文化、理念浸透といった人と組織の仕組みを、経営成果とつながる形で設計し直すことなのである。


この考え方は、人的資本経営を加速させる人事KPIや、人的資本経営の実装ポイントといった記事でも示されている通り、経営戦略と人材戦略の連動が出発点となる。



なぜ今、中堅企業に人的資本経営が必要なのか

1. 人材不足が経営課題そのものになっている
中堅企業では、採用難、人材流出、管理職不足、技能承継の遅れなど、人に関する課題が事業成長そのものを制約している。


実際に、中堅・中小企業の約8割が人材確保・育成に課題という調査結果にも表れている通り、人材課題は個別の人事課題ではなく、経営課題として顕在化している。


2. 中堅企業は「人」で差がつきやすい
中堅企業は、大企業ほどブランドや資本力で優位に立てるわけではない。一方で、中小企業よりも事業や組織が複雑化しやすい。


この中間領域にある中堅企業では、経営戦略を現場で実行できる幹部・管理職・専門人材の質が競争力を左右する。だからこそ、人材投資をコストではなく成長投資として捉える必要がある。


3. 制度だけ整えても成果は出ない
人的資本経営という言葉の広がりにより、人事制度改定、エンゲージメント施策、研修強化などに取り組む企業は増えている。


しかし、それらが経営戦略とつながっていなければ、制度だけが先行し、現場にとって意味の薄い取り組みになりやすい。人的資本経営で重要なのは、制度の有無ではなく、経営成果につながる設計になっているかである。


なお、中堅企業の人材投資や成長課題を俯瞰する上では、【発刊】中堅企業白書2026 日本経済の成長を先導する中堅企業の肖像や、長期的視点で人材育成を優先する動きが加速も参考になる。


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中堅企業の人的資本経営を実践する5つのポイント

1. 人的資本経営を「開示対応」ではなく「成長戦略の実装」と捉える
中堅企業でまず必要なのは、人的資本経営を大企業寄りの開示テーマとして見るのではなく、自社の成長戦略を支える仕組みとして再定義することである。


例えば、人的資本経営のテーマは次のように整理できる。

  • 採用競争力をどう高めるか
  • 次世代幹部をどう育てるか
  • 現場と管理職の役割をどう再設計するか
  • 専門人材をどう活躍させるか
  • 理念やビジョンをどう浸透させるか
  • 人への投資をどう業績につなげるか

この視点がないままでは、人的資本経営は「開示項目の整備」や「制度の流行導入」に終わりやすい。


人的資本経営は、経営成果を生み出すための人と組織の再設計なのである。


人的資本経営の全体像については、人的資本経営コンサルティングや、人的資本経営チェックリスト&ディスカッションシートも参考になる。


2. 経営戦略と人材戦略を切り離さない

人的資本経営で最も重要なのは、経営戦略と人材戦略を一体で考えることである。


例えば、新規事業を伸ばしたい、既存事業の生産性を上げたい、地域展開を加速したい、M&A後の統合を進めたいといった経営テーマがあるなら、その実現に必要な人材要件を定義しなければならない。


整理すべき論点は、例えば次の通りである。

  • どの事業にどの人材を重点配置するか
  • どの機能が成長のボトルネックになっているか
  • 管理職と専門職にどの役割を求めるか
  • 将来必要となる幹部候補をどう育てるか
  • 人材投資をどの指標で評価するか

この点は、「事業と連動した人事戦略を構築する」や、「人的資本経営へシフトするための課題と求められるHR施策」ともつながる論点である。


3. 人材ポートフォリオと人事制度を連動させる
人的資本経営を実装する上では、求める人材像と、それを支える制度を切り離してはならない。


例えば、「挑戦する人材を増やしたい」と言いながら、年功的な処遇制度のままであれば、戦略と制度は矛盾する。「専門性を高めたい」と言いながら、管理職にしか評価や処遇の道がないのであれば、専門人材は育ちにくい。


この点で参考になるのが、「リコー式ジョブ型人事制度」についてである。リコーの事例は、そのまま中堅企業に当てはめるものではないが、マネージャーとエキスパートを並列で位置付けるという考え方は、中堅企業においても示唆が大きい。


中堅企業では、大企業と同じ制度を導入する必要はない。しかし、「自社の成長戦略に必要な役割をどう定義し、どう報いるか」という問いは避けて通れない。


また、人事制度設計の考え方については、「経営戦略に適した人事制度を再構築する」や、「人事制度再構築のポイント~ビジョンを実現する制度設計と運用」も併せて確認したい。


4. 次世代幹部育成と理念浸透を同時に進める
中堅企業の人的資本経営は、制度だけで完結しない。


特に重要なのは、次世代幹部育成と、組織文化・理念浸透を同時に進めることである。
中堅企業では、トップの意思や価値観に経営が依存しやすい一方で、組織規模の拡大に伴ってトップだけでは統率しきれなくなる。ここで必要になるのが、トップと同じ価値判断軸を持ち、戦略を現場で実装できる幹部層である。


次世代幹部育成の具体策としては、幹部人材育成・研修や、次世代の経営幹部育成~ジュニアボードコンサルティングといった導線も設けられる。


5. 人事KPIと運用設計まで落とし込み、経営成果につなげる

人的資本経営は、理念や制度だけでは成果に結び付かない。
重要なのは、人への投資がどのように成果につながるかを、KPIやマネジメントの仕組みで捉えることである。


例えば、確認すべき指標としては次のようなものがある。

  • 採用充足率
  • 早期離職率
  • 管理職登用率
  • 次世代幹部候補の充足度
  • エンゲージメント指標
  • 教育投資額と育成成果
  • 一人当たり売上高
  • 一人当たり付加価値額

ただし、KPIは多ければよいわけではない。


経営戦略との関係が明確で、打ち手につながる指標に絞ることが重要である。



中堅企業の人的資本経営でよくある失敗

制度導入が目的化している
ジョブ型、評価制度、タレントマネジメントなどの導入自体が目的になり、経営成果との接続が弱いケースである。


人事部門だけのテーマになっている
経営層が十分に関与せず、人事部だけで取り組むと、戦略との連動が弱くなりやすい。


幹部育成と理念浸透が後回しになっている
制度は整っても、運用主体となる管理職・幹部が育っておらず、現場で実装されない。


指標が多すぎて運用できない
人事KPIを増やしすぎた結果、見るだけの指標になり、意思決定や改善につながらない。


大企業事例をそのまま持ち込んでいる
先進事例を参考にすることは重要だが、自社の規模・文化・成長段階に合わせて翻訳しなければ定着しにくい。



中堅企業の人的資本経営はどう進めるべきか

Step1. 経営戦略から必要人材像を定義する
どの事業を伸ばすのか、何を変革するのかを明確にし、必要な人材要件を整理する。


Step2. 現状の人材ポートフォリオを可視化する
幹部、管理職、専門人材、若手、採用、定着などの現状を把握し、ボトルネックを明確にする。


Step3. 人事制度と育成施策を再設計する
評価、処遇、育成、配置、登用の仕組みを、経営戦略に合う形へ見直す。


Step4. 次世代幹部育成と理念浸透を進める
制度と並行して、価値判断軸を共有できる幹部層を育成し、文化を浸透させる。


Step5. 人事KPIとレビュー体制を構築する
経営会議や人材会議の中で指標を確認し、改善が回る仕組みをつくる。


中堅企業における人的資本経営で重要なのは、人材施策をバラバラに進めるのではなく、経営戦略とつながる形で設計することである。


特に中堅企業の経営層・経営企画・人事責任者は、次の5点を押さえる必要がある。

  • 人的資本経営を成長戦略の実装テーマとして捉えること
  • 経営戦略と人材戦略を連動させること
  • 人材ポートフォリオと人事制度を一致させること
  • 次世代幹部育成と理念浸透を同時に進めること
  • 人事KPIと運用設計まで落とし込むこと

人的資本経営は、大企業の先進事例を導入することではない。


中堅企業が自社の成長段階に応じて、人と組織の仕組みを設計し直し、経営成果につなげることで初めて意味を持つのである。



FAQ

Q1. 人的資本経営は中堅企業にも必要か

必要である。むしろ中堅企業は人材不足や幹部層の薄さが成長制約になりやすいため、人的資本経営の重要性は高い。


Q2. 人的資本経営は人事制度改定と何が違うのか

人事制度改定は施策の一つである。人的資本経営は、経営戦略と人材戦略を連動させ、人材価値を企業価値につなげる経営全体の考え方である。


Q3. ジョブ型人事制度は中堅企業にも必要か

そのまま導入する必要はない。ただし、どの役割にどの成果を求め、どう評価・処遇するかを明確にする考え方は、中堅企業にも重要である。


Q4. 理念浸透は人的資本経営とどう関係するのか

理念や価値観は、採用、育成、配置、意思決定、マネジメントの土台になる。特に中堅企業では、理念浸透が幹部育成や組織一体感に直結しやすい。