2024年2月、政府は「中堅企業」を対象に、投資やM&A、雇用の拡大、賃上げなどの税制優遇や金融支援を行う「産業競争力強化法改正案」を新たに閣議決定した。全国約9000社が対象となる。
中堅企業とは、中小企業を卒業した企業。規模の拡大に伴い、経営の高度化や商圏の拡大・事業の多角化といったビジネスの発展が見られる段階の企業群である。そして中堅企業の定義を、常時使用する従業員の数が2000人以下の会社等(中小企業者を除く)としている。
首相官邸ホームページ「中堅企業成長促進パッケージ」(2024年3月)によると、中堅企業は海外拠点の事業を拡大しつつ、国内拠点においても事業拡大、設備・人材教育への投資を進めるなど、国内経済の成長にも貢献している(【図表1、2】)。
一方、大企業は、この10年間で海外拠点での売上高を大きく拡大したものの、国内の伸びは小さい。そのため、日本経済が持続的な成長を実現するためには、中堅企業が国内投資を拡大し続ける成長戦略を描けるかどうかが鍵とされている。
同パッケージによると、過去10年間における従業員数・給与総額の伸びは、中堅企業が大手・中小企業を大きく上回っている。日本全体の賃金水準を引き上げる上で、従業員数・給与総額の伸び率が大手・中小企業を上回り、地方に多く立地し、良質な雇用の提供者となっている中堅企業が果たす役割は大きいという。
中堅・中小企業の投資対象にはいくつかの顕著な傾向が見られる。最も高い割合を占めたのは「人材育成・採用活動」であり、中堅企業で71.8%、中小企業で64.4%を占めた(【図表3】。
また、「設備投資(機械・建物等)」も中堅企業で41.7%、中小企業で28.9%と高い関心を示している。これに対し、「研究開発(R&D)」や「グリーントランスフォーメーション(GX)投資」、「海外進出・国際化」などの項目は比較的低い割合に留まっているのが特徴である。
共通点としては、中堅・中小企業ともに人材育成や設備投資に注力している点が挙げられる。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)投資も中堅企業で32.0%、中小企業で28.9%と一定の関心が寄せられている。これらの結果から、中堅・中小企業が成長のために人材と設備の強化を重視していることがうかがえる。
【図表3】
具体的な施策を見てみると、DX(デジタルトランスフォーメーション)投資においては、中堅企業は「DXビジョンの明確化」を優先しているのに対し、中小企業は「AIの活用」に注力しているという違いがある。また、システム基盤の構築は両者に共通する最重要項目となっている(【図表4】)。
【図表4】
中堅・中小企業が直面している主要な経営課題が明らかになった。最も顕著な課題は「人材確保・育成」であり、中堅企業の83.5%、中小企業の75.6%が挙げている。次いで「売上や利益の向上」(中堅65.0%、中小54.4%)、「新規事業開拓・市場拡大」(中堅53.4%、中小45.6%)が上位を占めている(【図表5】)。
【図表5】
これらの課題は企業の成長戦略にも反映されており、「人材戦略(獲得と育成)」は中堅企業の65.0%、中小企業の60.0%が最も重点を置くテーマとして挙げている。また、「ビジョン・中期経営計画の策定」(両者とも33%前後)も上位に位置し、長期的視点の重要性が認識されている(【図表6】)。
これらの結果から、中堅・中小企業ともに人材を軸とした成長戦略を展開しつつ、長期的な経営計画の策定を重視していることがわかる。同時に、企業規模に応じて直面する課題や注力する戦略に違いがあることも明らかになった。
【図表6】
中堅・中小企業が取り組んでいる育成に関する内容にはいくつかの顕著な傾向が見られる。
中堅企業では、新入社員研修の強化に55.3%が注力しており、若手人材の育成に積極的な姿勢が見られる。一方、中小企業では同項目が28.9%にとどまっている。この差は、中堅企業が新卒採用に成功し、若手育成に力を入れている一方で、中小企業が新卒採用に苦戦している現状を反映していると考えられる(【図表7】)。
興味深いのは、シニア活躍の推進について、中小企業(25.6%)が中堅企業(19.4%)を上回っている点だ。この結果より、中小企業は新卒採用の困難さを補うため、経験豊富なシニア層の活用に活路を見出していることがうかがえる。
また、マネジメントスキル研修の実施においても、中堅企業(39.8%)と中小企業(25.6%)に大きな差が見られる。この結果は、中堅企業がより体系的な人材育成システムを構築していることが考えられる。
これらの結果から、中堅企業は新卒採用と若手育成に成功し、体系的な人材育成を進めている一方、中小企業は新卒採用に苦戦し、シニア人材の活用に注力している傾向が明らかになった。
【図表7】
中堅・中小企業の外需獲得に関する意識調査の結果、海外展開への消極姿勢が明らかになった。
販路開拓(海外展開やグローバル市場参入)を今後の成長戦略の重点としている企業は、中堅企業で10.7%、中小企業で10.0%と低い割合に留まっている(【図表8】)。同様に、海外進出・国際化への投資を計画・検討している企業も中堅企業で9.7%、中小企業で6.7%と少数派であることが分かった(【図表9】。
これらの結果から、多くの中堅・中小企業が外需獲得や海外展開に対して消極的な姿勢を示しており、グローバル市場での成長機会を十分に活用できていない現状がうかがえる。
一方で、今回のアンケートからは人材戦略や設備投資を重視する傾向も明らかになった。このことから、多くの企業がまずは国内市場での競争力強化を図り、安定した基盤を築くことを優先していると推測される。
現時点では外需獲得に対する消極的な姿勢が見受けられるものの、グローバル市場には依然として大きな成長機会が存在する。今後の中長期的な戦略として、外需獲得の可能性を検討する余地は大きいと考えられる
経営基盤の強化を図る中堅・中小企業における投資意向は、新規事業展開とM&Aへのアプローチの差が顕著である。
アンケート結果から、新規事業に対して中堅企業は37.9%(【図表10】)、中小企業は40.0%(【図表11】)が投資を検討しており、約4割が新たなビジネスチャンスを追求していることが明らかとなった。これは、イノベーションを通じて競争力を向上させようとする意志を反映していると考えられる。
一方、M&Aへの関心は低く、中堅企業で16.5%、中小企業で14.4%にとどまっており、企業の成長戦略として選ばれることは少ないと分かった。
これらの結果から、企業は自社の持つ資源や能力を重視し、内部成長を優先する傾向が強いことがうかがえる。新たな市場の開拓を求める一方で、外部資源の活用には慎重であり、自前主義的な考え方が強く残っていると考えられる。
【調査概要】
アンケート名 | 中堅企業の成長戦略に関するアンケート |
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調査目的 | 中堅企業および中小企業の成長戦略の実態を把握し、後の企業経営の発展に寄与する成長施策を提言する |
調査方法 | インターネットによる回答 |
調査期間 | 2024年7月1日~7月12日 |
調査エリア | 全国 |
有効回答数 | 193件 |
※本調査では、アンケートにご回答いただいた企業において、従業員規模が100人超~2000人以下の企業を中堅企業、 100人以下の企業を中小企業として分類し、分析を行った。
「中堅企業の成長戦略に関するアンケートREPORT」の全体版(無料)には、業種別の回答などのより詳細な調査結果と、タナベコンサルティングの提言を掲載しています。