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【メソッド】

人材マネジメントの流儀

企業が「今」取り組むべき人材マネジメント施策のポイントについて、タナベコンサルティング HR コンサルティング事業部メンバーが徹底解説。実際の企業の取り組み事例を交え、採用から育成、活躍、定着と制度構築まで網羅し、人事の極意に迫ります。
メソッド2024.04.01

Vol.10 人材マネジメントの推進力向上:岡原 安博

 

タナベコンサルティングのHRコンサルティング事業部による連載「人材マネジメントの流儀」。第10回は人材マネジメントの推進力を上げるため、人事部門の機能をいかに強化するかについて考察する。経営戦略の実現に寄与するため、人事の機能はどのように変わっていけばよいのだろうか。

 

CHRO(Chief Human Resource Officer)の設置

 

人材マネジメントの推進力を上げるポイントは、人事部門の機能強化である。その方法の一つとして「CHROの設置」がある。CHRO(CHO)とは「最高人事責任者」であり、経営視点で人材戦略を構築・推進していく経営者である。CHROの代表的な役割は次の通りである。

 

①経営理念・パーパスの社内浸透による好ましい組織風土の醸成
②経営戦略の実現に向けた人材戦略の提言
③人事KPIのモニタリングと達成に向けた施策の立案・推進
④その他、全社的な人材上の課題に対する対策の立案と実行

 

例えばCHROは、「業績目標を達成するには、こういった人材を投入していくべきではないか」、「社員のAさんにこういった役割・経験を与えていくべきではないか」などといった経営視点での意見を提言する。こうした役割を担うにふさわしい、経営視点を持った人材を社内から登用するのが難しい企業も多いだろう。ただその場合でも、短期的には取締役会や経営会議といったトップマネジメントでその役割を担いながら、中長期的な先を見据えて社内外の人材確保・育成を進めるのが望ましい。

 

 

人事部門の「戦略人事」化

 

CHROはもちろんのこと、実行部隊である人事部門そのものが人材マネジメントにおいて果たす役割も大きい。当然、人事部門が変われば人材マネジメントの推進力も変わる。そんな人事部門の改革で目指すべき方向は「戦略人事」である。

 

戦略人事とは、経営戦略と連動した人材戦略の策定および実行機能を指す。従来、人事部門において重要視されてきた機能は、労務管理や給与計算などの「オペレーション人事」や、人事制度設計や運用などの「インフラ人事」であった。戦略人事はこれらとは異なり、経営戦略の実現を支えるいわば“攻めの人事”である。

 

人的資本経営の推進においては、企業の経営理念・パーパスや成長戦略を軸に、社員のエンゲージメント向上に向けて能動的に働き掛けることが求められる。つまり「戦略人事」への転換がこれまでになく求められているということであり、経営目線と社員目線の両方を持って経営戦略に貢献する人事部門の重要度が高まっている。

 

しかし従来の日本の人事部門は、経営サイドや社員の要求への対応を役割の中心に据える傾向が強い。どちらかというと受動的な組織であり、業務は労務管理や制度の運用、規定・ルールの徹底といったものが中心で、創造性やリーダーシップはあまり問われてこなかった。

 

そんな従来の人事部門が戦略人事へ転換するためには、リソースの再配分が必要である。【図表】は、人事部門の業務における戦略連動性と専門性の関係を表している。現在の人事部門の業務が左下のⅣの領域にあり、労務管理やオペレーション業務中心になっているようなら、右上のⅠの領域への変革を目指したい。定型業務はデジタル化やアウトソーシングにより効率化を図り、人材戦略や人事企画、要員計画の立案などに集中できる環境をつくっていくのだ。

 

【図表】人事業務のポートフォリオ図

 

 

HRDXによる意思決定の適正化

 

CHROを設置したり人事部門の機能強化に取り組んだりしても、それらの機能において適正な意思決定を行うためには正しい情報が必要である。従来の企業における人事の意思決定はどちらかというと感覚的に行われてきたが、近年の技術革新により客観的なデータに基づいた意思決定ができるようになってきている。

 

データに基づいて意思決定を行うデータドリブンな取り組みは、特にマーケティング領域で盛んに行われてきた。だが、HR領域においても、勘や経験だけに依存しない、データを活用した精度の高い意思決定を実現することが可能になりつつある。

 

社員の属性データ(年齢や性別など)や行動データなどを収集・分析し、採用・配置・異動・育成といった人事管理や、人事施策に生かす手法のことを「ピープルアナリティクス」という。データを用いることによって、実際の業務における社内外の人脈やコミュニケーション行動などの情報を加味して客観的な意思決定が行える。

 

では、ピープルアナリティクスを実装するに当たり、どのような情報を集めればよいか。まずは人材に関する情報の一元化から取り組むとよい。企業における人材の情報のうち、人事に関する基礎的な情報は人事部門でのみ管理されており、社員各人のパフォーマンスに関する情報は事業部でしか把握できていないといったことがよくある。このように各部署に散在した人材に関する情報は、タレントマネジメントシステムなどを活用することで一元管理することができる。まずは情報の一元化を進めることがピープルアナリティクスの第一歩となるだろう。

 

Profile
岡原 安博Yasuhiro Okahara
タナベコンサルティング HR ゼネラルパートナー
外資系ラグジュアリーブランドで店舗マネジメントに従事後、人事コンサルティング会社にて組織・人事領域のコンサルティング、教育、組織開発等の経験を経て、タナベコンサルティングへ入社。人事領域全般のコンサルティングを中心に、上場・中堅企業の人事制度・教育体系の構築において数多くの実績を持つタナベトップコンサルタントの一人。
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