草刈機・農具製造業から「グリーンイノベーションカンパニー」へ
若松 2023年にホールディング経営へ移行されています。その際は、タナベコンサルティンググループも経営コンサルティング、資本政策をご支援させていただきました。その本質、目的は何ですか。
今村 これまでは農業機械製造業1本でしたが、今後は多面的に事業が広がっていくような体制をつくらないといけません。今後、社内の新規事業を分社したり、あるいはM&Aで新たに迎え入れたりするにはホールディング経営が最適と考え、2021年から準備を進めてきました。
若松 今後のオーレックグループにとって非常に大切です。ホールディング経営はまず、事業戦略の実現が最優先です。その次に資本戦略、組織戦略へと続きます。この優先順位が逆になったり、曖昧になったりするとうまくいきません。今後は、より幅広い事業を展開されていく方針ですか。
今村 社是である「明るい未来創りに貢献する」のもと、草刈機・農具製造業から脱皮し、有機農産物普及業を目指す方針を打ち出しました。タナベコンサルティングの「モノづくりからコトづくり」という提言も参考にしました。
当社には毎日、多くの感謝の声が寄せられます。特に、日本初の機械には反響が大きく、例えば「あぜ道に除草剤をまかずに済む」とか、「バギー型の草刈機を購入したら、子どもたちが競って手伝ってくれるようになった」など。さらに良い機械を作ろうと励みになっていますし、そうした声を聞くうちに「当社が貢献できる範囲を広げていかなくては」と思うようになりました。
若松 国内の圧倒的なトップメーカーの使命として、農家から寄せられる期待や責任も大きいですね。有機農産物については、農林水産省が2021年に「みどりの食料システム戦略」を発表し、耕地面積の25%を有機農業に変える目標を掲げており、市場拡大が見込まれています。ただ、課題も多くあり、思ったように拡大するのが難しい状況ですが、どのように推進されようとお考えですか。
今村 当社は有機農産物普及業とグリーンメンテナンスからなる「グリーンイノベーションカンパニー」というビジョンを掲げ、コアビジネスである農業機械製造業から「食」「環境」「健康」の3分野で事業を展開していこうと考えています。
具体的には、「食」は、草刈機・農機具事業に加え、BLOF※推進事業とBtoCのコンシューマー事業を推進。「環境」は、バイオテックと環境整備インフラ。畜産消臭システムの「Dr.MIST(ドクターミスト)」などが入ります。「健康」は、有機農作物を使った機能性食品を提供します。
若松 事業戦略は、強い根っこがあって、本業である幹が太く育ち、そこから枝が伸びていくように成長していくことが原則です。農業機械製造という太い幹があるからこそ周辺に枝(事業)が広がり、実がなります。どのように一体としてデザインしていくか、グループ売上高300億円に向けて、製品開発の段階から事業開発の段階ですね。
今村 有機農産物を普及する方法として、大きく2つあると思います。1つは有機農家でない人を有機農家にすること。それにはノウハウが必要ですから、収穫高が上がるBLOF理論(生態調和型農業理論)を用いながら農家と連携してビジネス化を目指します。
もう1つは、有機農業のための道具の開発。有機は農薬を使わないため除草に手間が掛かりますが、道具を開発することで参入のハードルを下げられます。そうした環境をつくるのが当社の役割だと思います。
若松 「グリーンイノベーション開発」と命名したいぐらいですが、それらを駆使した機械はまだ数多く生まれそうですね。
今村 はい。ただ、今、世の中に存在しないのは開発が難しいのも確かです。当社は2017年に水田除草機「WEED MAN(ウィードマン)」を発売しましたが、開発に14年掛かりました。特長は、稲の根元に生える雑草が取れること。株間の除草については長年、「機械ができるわけがない」と言われていましたが、覚悟を決めて開発を続けました。有機農家を増やすには機械が不可欠であり、それを完成させることが明るい未来に貢献することだと考えています。
若松 14年は長期開発です。ただ、誰もやらない挑戦をやり遂げなければナンバーワンになれません。就農者の高齢化や人手不足が深刻化する中、多くの農家が待ち望んでいた機械であり、グリーンイノベーション開発です。
今村 これらも農家の方々の困り事を解決する現場主義を具現化した製品です。また、機械ではありませんが、せっかく農作物を作っても買い手が見つからないといった声を有機農家の方からお聞きするので、今後は販売先を探すお手伝いができればと考えています。
理念を継承しブレない経営を目指す
若松 ビジョンに掲げられている「グリーンイノベーションカンパニー」の実現には、やはり人材が重要です。人材育成とその体制についてお聞かせください。
今村 人材育成については、2010年ごろからタナベコンサルティンググループに協力いただいています。階層別社員教育の運用や次世代幹部を育成するジュニアボードでお世話になっており、2025年1月には第4期ジュニアボードプログラムもスタートする予定です。
若松 一朝一夕で人材育成はできません。在るべき姿が明確にあり、絶対にそこにたどり着くのだというオーレックグループの強い思いを日頃から感じていますし、継続したことが人材の層の厚さにつながっています。育成において大事にされていることはありますか。
今村 パーパス経営が注目されているように、ブレないものを持つことが重要だと思います。当社の場合、経営者によって手法が変わるのは良いのですが、農家をほったらかしにしてまったく異なる分野で事業をするのはいけません。
そうならないために、創業者の精神である「世の中に役立つものを誰よりも先に創る」や、社是である「明るい未来創りに貢献する」、私が現場で学んだ「百見は一感にしかず」といった理念をしっかりと継承していきたいと考えています。
若松 先行きが不透明な時代こそ、創業の精神や経営理念が必要です。昨今は、世界で活躍するグローバル企業ほど、パーパスや理念を大事にする経営を実践しています。
今村 かつて日本は世界で優位性を発揮していましたが、最近は近隣のアジア諸国にも後れを取っている状況です。その原因の1つが、多様性やSDGsといった側面の後れにあると感じており、当社も女性比率の上昇に向けて真剣に取り組んでいるところです。
また、日本は世界的に見ても生産性が低いと言われています。理由としてDXが進んでいないことなども指摘されていますが、結局は新しい価値づくりが足りないのだと思います。ちょっとした工夫や改善だったり、今の延長線上に何かをプラスしたりするだけで、これまでになかった新しい価値が生まれるはず。そこに気付く人が増えると当社はもっと強くなりますし、そういった日本人が増えると世界で優位性を取り戻せるのではないかと思います。
若松 グローバルな活動でも、「百見は一感にしかず」が大切になりますね。オーレックグループの戦略プロセスは、「新しい価値づくりで、明るい未来をつくる」につながっていくと私も信じています。本日は今村社長の原点をお聞きし、オーレックグループの強さの理由が見えました。グリーンイノベーションカンパニーの実現に向け、タナベコンサルティンググループもサポートしてまいります。本日はありがとうございました。
※ Bio Logical Farming:自然界の循環を活用し、土壌の微生物バランスを最適化する農法。化学肥料を使わず、作物の品質と収穫量を向上させる
1952年福岡県生まれ。明治大学工学部卒業後、1976年に父の今村隆起が創業した大橋農機(現オーレック)に入社。九州での営業を経験後、埼玉県で事務所を開き関東から東北エリアを開拓。現場の声を反映した新商品開発を手掛け、大ヒット商品を生み出す。1988年より現職、併せてオーレックに社名を変更。趣味は自然散策。
若松 孝彦 わかまつ たかひこ タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長
タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。
1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『チームコンサルティング理論』『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。
タナベコンサルティンググループ(TCG)
大企業から中堅企業のビジョン・戦略策定から現場における経営システム・DX実装までを一気通貫で支援する経営コンサルティング・バリューチェーンを提供。全国660名のプロフェッショナル人材を有し、1957年の創業以来17,000社の支援実績を持つ日本の経営コンサルティングのパイオニア。
PROFILE
- (株)オーレック
- 所在地 : 福岡県八女郡広川町日吉548-22
- 創業 : 1948年
- 代表者 : 代表取締役社長 今村 健二
- 売上高 : 223億円(グループ計、2023年12月期)
- 従業員数 : 444名(グループ計、2024年4月現在)