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【特集】

グローバルビジョン

人口減少による日本の内需縮小が「確実にやってくる未来」である今、海外進出は全ての日本企業に とって必須の成長戦略となった。自社のグローバルビジョンをアップデートし、それに基づく長期視点の 海外戦略をデザインするメソッドを提言する。
2024.01.05

高シェア・高収益で持続的に成長する「信頼」と「情報共有」の経営:レーザーテック

レーザーテック 取締役 執行役員 CFO 三澤 祐太朗 氏

 

5G、IoT、AI、データセンター、ADAS(先進運転支援システム)など、 進展するデジタル社会に欠かせない半導体の需要の高まりをチャンスに、他社がまねできない研究開発力を武器として成長を続けるレーザーテック。
グローバル展開で、存在感を高める経営・組織体制に迫る。

 

3つの経営戦略

 

経営理念「世の中にないものをつくり、世の中のためになるものをつくる」を体現し、最先端の光応用技術で、世界シェアトップやオンリーワンの検査・測定装置を開発し続けるレーザーテック。2023年6月期の売上高は1528億円と10期連続で過去最高を更新し、社員1人当たりの営業利益も7200 万円強と高収益だ。半導体デバイスのフォトマスク(回路原版)やマスクブランクス(ガラス基板材料)の欠陥検査装置はシェア100%のオンリーワン製品があり、最先端の光応用技術で数々の世界シェアトップを誇る。

 

「外的要因では、売上高の9割以上を占める半導体市場の活況が大きく影響しています。内部的には、当社にしか提供できない世界初の製品群を開発できたこと。両方がうまくかみ合って成長につながりました」。そう話すのは取締役執行役員CFOの三澤祐太朗氏だ。だが、飛躍的な成長を遂げる理由は、市場拡大と他社にまねできない技術力だけではない。双方をスムーズにつなぐ3つの経営戦略を着実に推進していることが挙げられる。2009年に3カ年中期経営計画(以降、中計)を始動して以来、経営戦略に掲げるのが「グローバルニッチトップ」「スピード開発」「ファブライト」だ。

 

「小さなセグメントに対して、高付加価値で差別化できる最適な製品を提供し、グローバル市場で高シェア・高収益を獲得するのが、グローバルニッチトップ戦略です。

 

スピード開発戦略も当社の特徴で、極端な言い方をするならクオリティーよりスピードです。お客さまである半導体メーカーは、微細化や省エネ化など技術革新がとにかく早いので、同機能のチップはより小さく、同サイズならより高機能へと、いち早くソリューションを提供します。

 

そして、自社リソースは試作品や生産装置の設計開発などに集中し、製品の量産は製造協力会社に外部委託するのが、ファブライト戦略です。当社は社員の70%がエンジニアで、売上高の10%を目安に研究開発費に投じるなど、開発に集中特化しています」(三澤氏)

 

単なるメーカーではなく、研究開発型のエンジニアリング企業へと進化を遂げる自社像を描き、その実現に向け、2023年度は中計「フェーズ3+」の最終年度に突入(【図表】)。経営基盤の強化と成長機会の追求という、2つの重点取り組みを推進し、社員1000名体制へ人員の増強も目指す。

 

【図表】レーザーテックの中期経営計画

出所 : レーザーテックコーポレートサイトを基にタナベコンサルティング作成

 

「人材の採用や教育、ガバナンスの仕組み、そして子会社(海外法人)の在り方も。グローバルに展開する経営・組織の基盤をしっかりと見直し、より成長しやすい姿へと変わる、新たなステージを迎えています」(三澤氏)

 

 

信頼関係と情報共有を大切にする社風

 

グローバル市場にどう進出するかは経営者の思案どころである。海外売上比率は約90%に達し、米国・韓国・台湾・中国・シンガポールに5つの現地法人を展開するレーザーテックの戦略は、至ってシンプルだ。

 

「お客さまがいる国や地域に、拠点となる子会社を設立しました。現地に営業やサービスの担当者を配置しないと食い込めない環境ですから。ビジネスが大きくなったらメンテナンスエンジニアが工場近くの駐在事務所に常駐し、すぐにサポートできる体制を築きました。米国はインテル、韓国がサムスン電子、台湾がTSMC。『ビッグ3』と呼ばれる半導体メーカーだけで、売上高の8割弱を占めています」と三澤氏は話す。日本の本社は技術・研究開発と生産、海外法人は営業とメンテナンスサポート。マネジメントは現地に一任して日本は後方支援に徹するなど、役割分担もシンプルで明確だ。

 

「進出」から「展開力」を高める道標になるのが中計で推進する3つの戦略だが、その実践には共通点がある。信頼関係と情報共有が不可欠なことだ。要望に応える製品開発で信頼を得て、ニーズや改善点といった新情報を知り、次なるソリューションへと開発サイクルを回し続ける。

 

「いち早くニーズをつかむことで開発の助走期間が長くなり、フィードバックを得ながら改善を繰り返し、お客さまに満足していただけるレベルに仕上げることができます。そうした柔軟さも、他社との違いとして高い評価を得ています。

 

また、エンジニアはリモートではなく現地へ出向いて直接、トラブルや課題を解決し、お客さまのエンジニアから新たなニーズを掘り起こしています。エンジニア同士、現場起点のフェース・トゥ・フェースのコミュニケーションがものづくりに重要なのは、世界中どこでも同じですね」(三澤氏)

 

現地法人の営業担当者は、顧客の工場長や装置選定のキーパーソンとリレーションを構築。エンジニアとの両輪で、トップから現場まで多面的に信頼と情報共有のサイクルを回すのが大きな強みである。さらに、関係性を深めるコミュニケーションが触媒となって、確かなビジネスチャンスを創出している。

 

「信頼関係」と「情報共有」は、社内の活動でも大事にされている。例えば、階層の少ない組織体制が挙げられる。本部長と部長以外の管理職は、スタッフエンジニア職のグループリーダーが数人いるだけ。各グループ内はコア技術の「光応用技術」、高速回路や信号処理の「エレクトロニクス」、ナノレベルでロボティクス的な「精密機構」、欠陥解析ソフトウエアの「画像処理」など、専門分野が異なるエンジニアが機能別に複数のチームを構成する。一人一人が情報を共有しながらチームで問題を解決することで、強固な信頼関係が育まれるのである。

 

「複雑で複合的な技術なので、全てチームで取り組んでいます。知恵を出し合い、より良いものをお客さまに届けることが最大の目的です。

 

チームリーダーには若手社員を抜てきすることもあります。専門外の技術に触れて視野を広げながら、リーダーシップを経験し、管理職へと駆け上がるステップになればと考えています。仮に失敗したとしても責めない社風なので、思い切りチャレンジできるのは当社の良いところですね。失敗から学べることは、たくさんありますから」(三澤氏)

 

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