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研究リポート

ナンバーワンブランド研究会

コロナ後の新しい時代に合わせた最新のブランディングを研究し、参加者の皆様が自社で実装するために、コンサルタントがアドバイス・サポートいたします。
研究リポート 2024.05.17

200年企業のリ・ブランディングד燕三条”地域ブランディング:玉川堂

【第4回の趣旨】
第4回ナンバーワンブランド研究会では地域企業におけるブランディングについての先進事例を学ぶため、新潟県燕三条に訪問した。
燕三条は古くから金属加工技術の集積地である。低湿な土壌で信濃川の氾濫が多く、農業ができなかった経緯から江戸時代初期に当時の代官が農民救済のために江戸の鍛冶職人を派遣し、和釘の製作を奨励したことが燕三条における金属加工の始まりである。加えて1700年代に近郊の弥彦山から銅が産出されるようになったことから、金属加工業として発展を続け、現在に至る。
今回は度重なる苦難を自社固有の技術を磨き上げることで乗り越え、今も絶えず自社のブランドを進化させ続けている株式会社玉川堂、株式会社ハイサーブウエノの2社に講演いただいた。

開催日時:2024年4月18日(新潟開催)

 

 

株式会社玉川堂 代表取締役 7代目 玉川 基行 氏

 

株式会社玉川堂
代表取締役 7代目 玉川 基行 氏

 

 

はじめに

 

株式会社玉川堂は1816年に創業した老舗の銅器製造の会社である。日本国内の地場産業として有名な新潟県燕市の金属加工業の中でも唯一、1枚の銅板を金鎚で打ち起こして銅器を製作する「鎚起銅器」の伝統技術を200年に渡って継承している。

 

特に、銅に錫を塗り酸化発色させて銅器に多彩な着色を施す技術は、この地域で独自に研究され発展したものである。世界最高品質の銅器を目指し、海外にも顧客を持つ企業である。

 

登壇いただいた代表取締役玉川基行氏は7代目であり、バブル崩壊後の会社が窮地に陥った 1995年に入社し、現在に至るまで自社のブランドを磨き続けてきた。「200年企業のリ・ ブランディングד燕三条”地域ブランディング」というテーマで、自社のブランドを届けるための流通改革、玉川堂のブランドコンセプト、燕三条地域の製品ブランディングについての取り組みを紹介いただいた。

 

玉川堂本店
玉川堂本店

 


 

まなびのポイント 1:ブランディング=流通経路の短縮

 

玉川堂における“ブランディング”とは、「お客様との距離をどれだけ縮められるか(究極は作った職人とお客様との会話)」である。玉川社長就任時に、従来の問屋を介して流通する構造から、消費者の声を聞くための直販流通へと変革を行った。大手百貨店に直接納入し、制作実演販売を行ったことにより、茶器や酒器などのヒット商品が生まれた。

 

さらに「私たちが作った銅器を私たちの作ったお店で、私たちが丁寧に販売する」ことを目的に自社直営店販売への転換を行い、2017年にはGINZA SIX(銀座)に新店舗をオープン。今後のビジョンは、玉川堂の本店に、フランスのオーベルジュ文化を玉川堂本店にも採り入れることで、職人が作った銅器を直接消費者に届ける価値提供を追求していくことである。

 

玉川堂が持つ銅の着色技術(左)。人間国宝 玉川宣夫氏の作品(右)玉川堂が持つ銅の着色技術(左)人間国宝 玉川宣夫氏の作品(右)

 

まなびのポイント 2:顧客の期待値を超え続けるための人材育成

 

玉川堂のブランドメッセージは「打つ。時を打つ。」である。職人は心を込めて銅器を打ち、ユーザーは愛着を持って長期間使用する。銅器はユーザーの使用環境により色が変化するため、唯一無二のものとなり、ユーザーと共にブランドを築き上げていく。

 

職人の伝統技術と感性によって生み出された銅器が、趣味を極めたい層に選ばれている。1人1人の職人の感性を絶えず磨き続けるため、同社は独自の人材育成を実施。終業後に工場を職人に開放し、職人の自己研鑽や英会話教室、書道教室、デッサン教室を開催することで、職人の造形認識能力を高めている。伝統を守り続けるだけでなく、さまざまな感性的品質を取り入れた職人が伝統・ブランドを進化させることで、顧客の期待値を超え続けることが玉川堂のブランド戦略である。

 

案内人のマシューさんは玉川堂の社員であり、月1回の英会話教室の際は英会話教師を務める
案内人のマシューさんは玉川堂の社員であり、月1回の英会話教室の際は英会話教師を務める

 

 

 

まなびのポイント 3:ワイン生産地、オーベルジュから学ぶ「オープンファクトリー」でブランド化

 

燕三条では産業観光都市化に積極的に取り組んでいる。その一環として、工場を一般消費者に開放する「燕三条工場の祭典」や、燕三条地域一体となった海外展示会を実施。来場者に対して職人が自らの仕事を自らの言葉で説明することで、職人こそが最高の営業として、伝統工芸の継承に努めている。

 

工場の「見せる化」によって、職人の中で伝統を継承していくという「自負」が生まれ、職人のモチベーション向上、企業ブランディングへの意識向上につながっている。燕三条では、伝統とは「技術を受け継ぎ、革新を連続させること」と定義している。燕三条地域が培ってきた技術を全世界に発信することで、ファンを増やす取り組みと言える。

 

工房の様子。銅器を作り上げる過程を見せることで、職人が自らの言葉で銅器の魅力を伝える機会を創出している
工房の様子。銅器を作り上げる過程を見せることで、職人が自らの言葉で銅器の魅力を伝える機会を創出している