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【特集】

DX戦略の壁

デジタルによる業務効率化は達成したものの、商品・サービスの価値創造に生かしきれていない。そんな課題を持つ企業は、データ(もしくは情報資産)の一元化、分析および活用を戦略的に描くことで競争優位を生み出すことができる。付加価値を高める手段としてのDX戦略と、戦略策定において押さえるべき実践ポイントを提言する。
メソッド2024.04.26

DX推進に向けた人材育成と組織デザイン:布施 龍人 山崎 雄大

DX人材が求められる背景

 

総務省「令和5年版 情報通信白書」によると、デジタル化推進における課題(各国比較)について、日本は「人材不足」との回答が最も多く(41.7%)、次いで「デジタル技術の知識・リテラシー不足」(30.7%)だった。

 

また、同白書によると、諸外国の企業と比べて、日本企業にはCIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)といったデジタル化の主導者が少ない。専門的なデジタル人材について、「CIOやCDOなどのデジタル化の主導者が在籍している」と回答した国は、中国85.1%、米国83.8%、ドイツ69.9%であるのに比べ、日本は33.4%しか在籍していない深刻さである。

 

このように、日本企業の多くがDX人材が足りないという課題を抱えている。今後、この課題解決に向けて多くの日本企業がDX人材の採用や育成に取り組むと予想されるが、どのような人材を確保・育成すべきかを明確にしなければ、場当たり的な対応となってしまうだろう。

 

そこで本稿では、この課題を根本的に解決するための「育成すべきDX人材像」と「DX人材を活躍させる組織デザイン」について提言する。

 

DX人材不足の課題は、IT人材(エンジニアなど)を新規採用すれば解決できるものではない。DX人材を採用しながら、育成していくことが重要である。

 

DXとは、デジタル技術、テクノロジーを活用してビジネスモデルを変革することだ。この変革は、自社のビジネスモデル、経営方針、顧客関係を理解している人材だけが成し得る。

 

IT人材を採用すれば、一時的にDXを進めることができるかもしれないが、それだけでは中長期的なDX推進は難しい。自社のビジネスモデルや経営方針の理解などの「ビジネス知識」と、ITや自社内のシステムに関する「デジタル知識」を兼ね備えたDX人材を、自社内で育成することが重要なのである。社内でDX人材を育成することで、DX推進に必要な知識やノウハウが自社の資産として蓄積されるからだ。

 

経済産業省と情報処理推進機構(IPA)は、2022年12月に、個人の学習や企業の人材育成・採用の指針である「デジタルスキル標準(DSS)」を策定した。DSSでは、「DX推進スキル標準(DSS-P)」を設け、DXを推進する人材の役割や習得すべき知識・スキルを示しており、DX推進人材については、次の5つに分類している。

 

❶ ビジネスアーキテクト
DXで実現したい目的の設定と全体のコーディネートを担う人材

 

❷ データサイエンティスト
データ収集・解析する仕組みの設計・実装・運用を担う人材

 

❸ サイバーセキュリティ
サイバーリスクの影響を抑制する対策を担う人材

 

❹ ソフトウエアエンジニア
システムやソフトウエアの設計・実装・運用を担う人材

 

❺ デザイナー
方針に沿った製品・サービスの在り方のデザインを担う人材

 

この5類型は、企業や組織がDXを推進していく上で必要な人材を定義付けたものである。タナベコンサルティングがクライアントのDXを支援する際は、この中でも特に❶ビジネスアーキテクトの育成を推奨している。

 

まずは、自社の経営方針、ビジネスモデル、顧客関係などを理解した上で、DX戦略の策定やDXを通じたビジネスモデルの変革を担うビジネスアーキテクトの育成から検討していただきたい。その他の類型人材も重要だが、社外のリソースでも編成可能である。

 

 

DX推進に向けた組織デザイン

 

次に、DX人材育成後の課題として、DX人材の活躍の場がなくDXが進まないことが挙げられる。これは、企業の経営システム、組織風土・構造・制度などがDX推進にマッチしていないため発生する課題である。次に、DX推進に向けた組織デザインについて解説する。

 

DX推進における組織デザインの大前提として、経営陣がDXビジョン(企業がデジタル技術を活用して目指すべき姿)をつくることだ。経営陣がDX人材・現場を巻き込んで全社的にDXビジョンを展開することで、企業の目指すべき方向性がまとまる。1つの判断基準が経営陣・DX人材・現場の3者で共通認識され、目的がずれることなくDXを推進できる。

 

DX推進に向けた組織デザインとして、次の3つを例に挙げる。

 

❶IT部門拡張型
既存のIT・情報システム部門を拡張

 

❷ 事業部門主導型
営業部門やマーケティング部門などの既存事業部がDXを主導

 

❸ プロジェクト型
DX推進に特化した専門組織を設置

 

どの組織デザインが適しているかは、各企業で異なる。【図表】にメリット・デメリットをまとめたので、参考にしていただきたい。

 

【図表】DX推進に向けた各組織デザインのメリット・デメリット

出所 : タナベコンサルティング作成

 

タナベコンサルティングでは、プロジェクト型組織を推奨している。IT部門や事業部門の他に外部ベンダーなどを専門部隊として組織するため、経営・現場・IT人材の3つの視点で推進が可能だ。

 

プロジェクト型組織では、組織を率いるリーダースキルが重要となるため、社内で育成したDX人材をプロジェクトマネジャーに登用することをお勧めする。ビジネスとIT、両方の知識を兼ね備えた人材だからこそ、現場と経営、ベンダーの意見を的確に捉えて最適な判断ができる。重要なのは、各役割における人材の適切な配置である。

 

 

経営者であるあなた自身がDXの知識を持っているか、またDXビジョンを描けているか。経営者は自らDX推進のために学びを深め、進むべき道を示さなければならない。

 

「DX人材がいなくて」と言い訳していては、自社の存続が危うい。DX人材の育成は、経営者が考えなければならない重要なテーマと捉え、5年後、10年後の未来を考えて、健全な危機感を持って育成を行っていただきたい。DXを成功させるには、何よりも経営者の覚悟が必要なのだ。

 

 

 

布施 龍人 (ふせ りゅうと)
タナベコンサルティング マネジメントDX
DXの戦略立案から具体的な実行推進までを、クライアント各社の実情に即して支援。特にHRDX領域においては、人的資本経営に基づいたDX人材の育成を得意とする。経営視点と現場視点を併せ持つ丁寧なコンサルティングに定評がある。

 

Profile
山崎 雄大Yuta Yamazaki
タナベコンサルティング マネジメントDX
地方自治体にて予算・決算調整および長期収支計画策定、飲料メーカーの新ブランド立ち上げに参画。その後、中小企業支援機関にて年間60社以上の事業計画立案を支援した後、タナベコンサルティング入社。デジタルを活用したブランディング、マーケティング支援に従事し、常に経営者視点を意識したコンサルティングを心掛けている。
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