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【メソッド】

レジリエンス戦略

「低成長×非連続×高速変化」という経営環境下で、自社をしなやかにアップデートしていくための「レジリエンス戦略」について提言します。
メソッド2022.12.28

vol.7 持続可能な高収益モデルへのアップデート

②サブスク・リカーリングビジネスの収益モデル
従来の「買い切り型」モデルを見直し、近年増加する「リカーリングモデル」と「サブスクリプションモデル」に注目する企業が増加しています。リカーリングは、「Recurring =繰り返す」という意味で、「Recurring Revenue =継続利益」を得ることを目的とした収益モデルです。
 
両モデルが注目を集めるのは、消費者の価値観の変容に伴い、多くの業界で「所有」から「利用」へのシフトが起きていることに起因します。また、企業としても国内マーケットの単純な拡大が見込みにくい中で、新規顧客を獲得し続けるよりも、既存顧客との関係性を深め安定的・継続的な収入を獲得することを選択するケースが増えていることも一因と言えます。
 
サブスクリプションモデルの事業展開においてはローンチ(立ち上げ)後、数年の不採算期間があり、事業がスケール(拡大)すると著しい成長が見られ、優れた収益性を誇るモデルが形成されます。サブスクリプションモデルの導入においては、こうした不採算期間のキャッシュをどのように賄い、将来キャッシュフローの最大化をいかに図っていくかが重要になります。
 
自社でサブスクリプションモデルに進出を決めた後は、数値モデルの設計や業績進捗を適宜モニタリングすることが必要になるでしょう。その際に基準となるのが「40%ルール」です。40%ルールとは、欧米のベンチャーキャピタリストなどがベンチャー企業への投資を検討する際の一般的な基準の1つであり、創業期のサブスク企業や SaaS(クラウド経由でソフトウエアを提供するサービス)企業を判断する上で重要な指標です。40%ルールは次の算式で表されます。
 
「企業の売上高の成長率」+「営業利益率(あるいは FCF マージン)」> 40%
 
売上高成長率が前年比100%であるなら、売上高の60%の損失を出しても構いません。また、売上高成長率が前年比40%であるなら、営業利益率はゼロ以上であるべきです。売上高成長率が前年比20%であるなら、営業利益率は20%となるべきであるといったように、非常に分かりやすく現場に落とし込みやすい指標といえるでしょう。

 

③ユニットエコノミクスを重視した中長期的視野での高収益モデル設計
近年あらゆる業種で注目され、重視されているのが「ユニットエコノミクス」の概念です。ユニットエコノミクスとは、事業の経済性(収益力)をユニット単位で測定・管理するという考え方で、管理経営の手法の1つです。SaaS 企業やスタートアップ企業では、ビジネスにおける「ユーザー 1 人当たり採算性」を示す指標として活用されています。顧客が生涯にわたってその企業にもたらしてくれる収益(LTV)と、1人当たりの顧客を獲得するためのコスト(CAC)をもとに、次の計算式で求められます。
 

 
分母の LTV(顧客生涯価値)については、顧客が生涯にわたって総額でどれだけの利益を生み出すかを予測するための指標であり、業界によって計算式が違うものの、一般的には「顧客平均粗利益×生涯購入回数×離脱率」などで求められます。分子の CAC(顧客獲得コスト)は「顧客の獲得にかかる費用合計/獲得顧客数」で計算されます。

 

④コロナウイルスで変わるプライシングの在り方
収益改善(フリーキャッシュフローの最大化)においては、プライシングの見直しとコスト低減に取り組みましょう。
 
近年注目されている価格戦略の1つに「ダイナミックプライシング」があります。ダイナミックプライシングは、消費者の需要と供給の変動に応じてその都度プライシング(値付け)を行う方法です。つまり、外部環境(はやり廃り、季節性、利用頻度など)によって「フレキシブルに、最も適した価格で提供すること」とも言い換えられるでしょう。
 
コロナ禍を経て、「適正なサービスに適正な価格を払う」ことの重要性が再認知されてきている中、ダイナミックプライシングはもはや従来のようにサービス・交通機関だけのものでなく、製造・小売・卸売などあらゆる業界において一般的な戦略オプションとなっていくことが予想されます。自社の製品・サービスの付加価値を向上させ、適切な価格で提供することにより安定した高収益モデルを設計しましょう。
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