その他 2025.02.03

社員一人一人が能力を発揮できる人材戦略 アスクル

「ASKUL(アスクル)」「LOHACO(ロハコ)」という2大ECサイトを通じて、仕事場やくらしの場の必需品をワンストップで提供しているアスクル。累計購買金額4.9兆円超、累計オーダー数8億円超という圧倒的なBtoBビッグデータを活用し、進化し続けていく組織を目指した人材戦略を展開する同社は、2024年5月期で売上高・経常利益ともに2期連続で過去最高を更新している。

 

全ての仕事場とくらしを支えるインフラ企業へ

1993年創業のアスクルは、“仕事に必要なものが明日あす来る”をコンセプトに、高速物流を強みとするオフィス向け通販サイト「ASKUL」で成長を遂げてきた。当初より個人事業主や中小企業に寄り添うきめ細やかなサービスで裾野を広げ、近年は医療・介護、製造などの現場で使われる専門用品の取り扱いも強化。今や1400万点を超える品ぞろえで幅広いニーズに応えている。

また、2012年から個人向けECビジネスにも本格参入。ヤフー(現LINEヤフー)と業務・資本提携し、家事、育児、仕事に多忙な女性の“くらしをかるくする”日用品通販サイト「LOHACO」を開始した。累計アカウント数は、2024年5月20日時点で1000万を超える。

技術革新に伴って人々の仕事とくらしの境界線が曖昧になっていくことを予見し、10年以上かけてBtoBとBtoCの両事業で基盤を築いてきた同社は、2021年7月に発表した中期経営計画で、満を持して「オフィス通販」から「すべての仕事場とくらしを支えるインフラ企業」へのトランスフォーメーションを宣言。その実現に向けて、人的資本の強化に全力を注ぐ。

2023年、CHO(チーフ・ヒューマンリレーション&ヘルスケア・オフィサー)に就任した伊藤珠美氏は、中期経営計画を実現する人材戦略の重点施策として次の3つを示した。

その筆頭に掲げたのは「DX人材の獲得と育成」である。先述のように、同社はバリューチェーンの全プロセスとシステム上で日々発生する膨大なビッグデータ資産を保有している。2021年12月には、それらのデータを集約するプラットフォーム「ASKUL-EARTH」の構築を完了し、全事業部門で分析・活用できる環境を整えた。そして、基礎から応用までデータやテクノロジーの活用方法を幅広く学べる「ASKUL DX ACADEMY」を社内に開校し、受講者を着々と増やしている。

特筆すべきは、文系理系を超えたSTEAM(科学・技術・工学・芸術・数学)の枠組みをベースにプログラムが組まれている点で、データやテクノロジーに苦手意識のある文系社員にも広く門戸が開かれている。膨大なデータを自由に分析・可視化するスキルを学べる「データサイエンス教室」(1回2時間×15回)は、2024年5月末で全社員の25%が受講。営業部門の卒業生も増えており、新たなサービス開発につながっているという。

同社は今後数年間で受講者を60%まで引き上げていく方針だ。なお、データサイエンティストやエンジニア向けには、より高度なデータ分析や機械学習の実装を学べる各種プログラムを用意。並行してIT人材の採用も強化している。

第二の重点施策は「エシカルeコマースに寄与する人材の育成」である。エシカルeコマースとは、経済価値と社会価値が両立したECサービスを意味する。

代表取締役社長CEOの吉岡晃氏は、2019年の就任以来、企業の倫理観の重要性を繰り返し強調し、人と地球のサステナビリティに配慮したバリューチェーンの実現を強力に推進している。2021年には、年間約3〜4万㎥もの漂着ごみに悩まされている長崎県対馬市とSDGs連携協定を締結。現地に社員を派遣し、海洋プラスチックごみを加工・再生した商品の開発をスタートした。

さらに、2023年からは「対馬スタディツアー」を企画して、全社員から参加希望者を公募。海洋ごみのみならず、絶滅が危ぶまれる野生生物、漁業活動に深刻な害を及ぼす食害魚など、さまざまな社会課題を学ぶ機会を設けている。

同社は他にも、「グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン」や「4Revs(フォーレブス)」など、他の企業や団体と共創・交流できる場に社員を積極的に送り出し、社会課題を「自分事」として捉えて事業化していく視点を養っている。

人事戦略の第三の重点施策は、「次世代経営幹部人材の育成」である。同社は2020年からサクセッションプラン(後継者育成計画)の作成に着手し、独立社外取締役を交えて客観的な選抜方法や育成方法を議論してきた。2023年には「過去の成功をアンラーニングする力」「過去の常識にとらわれない行動力」など8つの基準に沿って約20名の経営幹部候補を選定し、幹部候補の育成に取り組んでいる。

さらに、2024年5月には採用計画の策定や人事配置を専任で行うHRBP(Human Resource Business Partner)を各本部に配置し、本部長との定期的なミーティングで現場の課題を抽出。必要な人材の要件を整理しながら、全体最適の人事を目指している。

 

サステナブルな企業活動の根底に多様性尊重の視点

 

最大の課題は、女性管理職(部長以上)の活躍と定着だ。同社では、2014年に当初12.3%だった女性管理職の比率を2020年までに30%に引き上げるという高いハードルを課してダイバーシティーを推進してきたが、達成には至らなかった。そこで、同社は2025年までに実現することをあらためて宣言。マネジャー以上の女性リーダー比率は2024年5月期現在で29.1%と年々向上している。中には育児と両立しながら開発プロジェクトのマネジャーとして活躍する女性エンジニアのメンバーもいる。

また、女性に限らず、多様な人材が多様な働き方を選択できるよう、社内制度を拡充。子どもが満2歳の誕生日を迎えるまで取得できる育児休業、全社員を対象にしたテレワーク、家族との時間や趣味・習い事にも使えるコアタイムなしの完全フレックスタイム、学びを後押しするエデュケーションサポート休職、公共の福祉の推進に資する活動をするためのボランティアサポート休職など、社員それぞれが自分らしい生き方を考え、ワークライフバランスを最適化できる環境を整えて、心身ともに健やかに末長く働ける環境づくりに注力している。

同社は、①個々が能力を発揮するダイバーシティーの推進、②積極的にチャレンジする人材によるイノベーション創出、心身ともに安心・安全に働ける健康経営を柱として、サステナブルな企業活動を支える人材を育成し、ステークホルダーとの対話・協働を重ねながら「仕事場とくらしと地球の明日に『うれしい』を届け続ける」というパーパスの実現を目指していく方針だ。

アスクル (株)

  • 所在地 : 東京都江東区豊洲3-2-3
  • 豊洲キュービックガーデン
  • 創業 : 1993年
  • 代表者 : 代表取締役社長 CEO 吉岡 晃
  • 売上高 : 4716億8200万円(連結、2024年5月期)
  • 従業員数 : 3687名(連結、2024年5月現在)