タナベコンサルティングは2024年9月12日、特別講演「企業の未来を変えていく、経営人材育成~ビジョンを実装する“経営人材”の育成方法~」を愛知県名古屋市で開催。ゲスト講師として関ケ原製作所の代表取締役・矢橋英明氏をお招きし、企業が持続的成長を実現するために必要な“全員主役経営”を紹介した。
※登壇者の所属・役職などは開催当時のものです。
関ケ原製作所 代表取締役社長
矢橋 英明 氏
原点は国鉄の軌道用機器の生産
関ケ原製作所の創業は1946年。日本国有鉄道(国鉄)の軌道用機器の生産からスタートした、岐阜県のものづくり企業である。関ケ原ゼネラル・サービスと南通関ケ原機械製造有限公司の2社をグループに擁し、2024年5月現在で388 名の社員を擁している。 敷地面積約15万㎡の本社は、天下分け目の「関ケ原の戦い」の開戦地と決戦地の間に位置している。1988年に「工場公園づくり」というコンセプトを掲げ、広大な芝生公園エリアなどの環境整備を進めてきた。現在は、地域社会に開かれた食堂やカフェ、各種研修施設も整い、私たちは大学さながらの学び舎という意味合いをこめて「関ケ原キャンパス」と呼んでいる。7つのニッチ領域を確立
当社の特徴は、大手が手掛けない、そして中小では難しい7つのニッチ領域(①油圧機器、②商船機器、③舶用特機、④鉄道製品、⑤精密機器、⑥大型製品、⑦軸受製品)を事業ドメインとしている点である。今とくに伸びているのは舶用特機で、防衛省関連の案件にオーダーメイドで応えている。売上高は2023年度246億円、2024年度の見込みは現時点で258億円。利益率10%を死守して、人材、開発、設備に未来投資している。
出所:関ケ原製作所講演資料よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
資産の継承ではなく志の継承を
経営理念の根幹には、「陰徳を積め」「商売に頼るな」「書画骨董に親しめ」という矢橋家の3つの家訓と、私の祖父にあたる創業者・矢橋五郎の7つの信条(「人間、皆、平等」「会社は皆のものだ」「変化は進歩」「独立独歩、独立自尊」「デモクラシー」「人の上に立つことは仕えることだ」「サンキュー、サンキュー」)がある。 中でも、創業者の「会社は皆のものだ」という思いは非常に強かったようだ。そして、矢橋昭三郎・現相談役が2代目社長を務めていた頃に「ありたい姿・なりたい姿」を体系化して、理念経営の探求が始まった。
理念経営の探求「ありたい姿・なりたい姿」 出所:関ケ原製作所講演資料よりタナベコンサルティング作成
ところで、当社はオーナー経営ではなく、3代目から5代目は社外出身あるいはプロパーの方が社長を務めてきた。そして今、6代目社長のバトンを受け継いだ私は、「会社はみんなのもの」という創業の精神と「限りなく人間ひろばを求めて」という信念に原点回帰して、「資産の継承ではなく志の継承を」と心に期して取り組んでいる。
人と技術のシナジーで新たな価値を生み出す
そのベースは、「ひろば:51%」「事業:49%」のバランス経営である。「ひろば経営」とは人づくり・基盤づくりで、全員主役の経営実践を意味する。社員が幸せでなければ、良い製品・良いサービスは提供できない。当社では、社員にとっての会社を「明るく楽しい生活空間」、社員にとって仕事を「生きがい、やりがい、自己実現の場」と定義し、「学び舎」「技術村」「文化村」という3つの場づくりに取り組んでいる。 【学び舎】思い・志を継承するため「社長塾」を開催し、次世代を担うプロパー人材を育成している。他社への企業視察、1人出向による武者修行も積極的に行っている。これまでに約50名の“熱だまり”ができた。今後は一人一人と私が面談し、本気で将来リーダーになりたいとと考えているメンバー10~15名を選抜。事業・機能の改革立案から結果を出すまでの実践教育を行う予定である。私自身の社長在籍期間は、最長でも12年と決めている。社長のゴール設定は極めて重要。それまでに必ず次の経営人材をつくる決意だ。 【技術村】当社の強みは省人化・省力化・自動化できない、つまり、人の技術に頼らないとできない大型・高精度のものづくりをしている点にある。そのため、次は誰に技能を伝承するのかを見える化し、社内外の技能競技大会などに挑戦している。また、技術開発力の向上を目指して「技術開発発表会」を年1回開催している。 また、「全員有資格者」という目標を立て、会社の全額負担で技能検定・資格取得にも挑戦。上級資格の取得者には報奨金を出している。技術の棚卸表を作り、半期ごとに評価して目標を管理する中、これまでに全社員の9.6%が上級レベルを取得している。 厚労省認定の「ものづくりマイスター」は現在9名。岐阜県内の中小企業への技術指導や、工業高校等の教員・生徒への技能伝承、実技指導を5年前から実施しており、本年度は1名が「卓越した技術者(現代の名工)」として厚生労働大臣表彰に決まっている。 こうした地道な活動により、近年は10~15名を安定的に採用できていて、離職率は1%にとどまっている。 【文化村】開かれた会社を目指して、広大な芝生の広場を憩いの場として開放。地域社会とのつながりを創出している。敷地内のミュージアムでは、彫刻家や画家の作品展も行われており、文化人も数多く来訪する。 一方、社内では2021年から2022年にかけて「職場別懇話会」を全職場・全社員を対象に行った。これは、社長就任3年目に従業員満足度調査を無記名で実施した際、会社に対する率直な不満が一定数寄せられたからである。「これはいかん」とショックを受け、懇話会で社員の生の声を聴いたところ、183件もの要望があがり、全てに対応しようと決めた。以来、工場トイレの増設・改修、暑さ対策機器の導入など74%に対応済みで、7%に取り組み中である。 また、1992年から計7回、会社の全額負担で海外研修を実施してきた。これは異国の人や文化に直接触れて豊かな感性を育むことを目的としているもので、束縛はせず、若手社員を中心に企画してもらい、自由行動の時間をたっぷりと確保している。 このほか、社員の家族に感謝をこめて、米やギフトカードなどの贈り物を、折あるごとにサプライズで届けている。 長い歴史の中で、当社も以前はトップダウンだった。これでは会社が活性化しないと反省し、とにかく権限委譲をして、「スピード感のある自律的なチームを作ろう」「失敗は何度してもいいから、どんどんチャレンジしよう」と全社朝礼のたびに呼びかけている。 具体例を1つ挙げると、間接部門のルーチンワークを少しでも減らすため、若手社員が中心となって、基幹システムを全面的に入れ替えている。5年がかりの業務革新プロジェクトであり、あと2年で完了する予定だ。生きがい、やりがいを感じるのはやはりクリエイティブな仕事である。繰り返しの仕事は面白くない。 当社の直接部門では、品質管理を目的に業務を見直すQC活動に40年以上前から取り組んでいるが、品質・ミッション・モラルを追求するQMM活動に加え、ここ10年間は、間接部門の自工程完結活動に積極的に取り組んでいる。技術とマーケティングが事業を先導
現在、当社が焦点を定めている事業のターゲット領域は、国防、海洋開発、社会インフラ、医療、IT・半導体である。洋上風力発電に不可欠な国産ダビッドクレーンや重粒子がん治療装置など、技術的難易度の高い大型のビジネスに、バックキャストで開発費を投じている。 各種展示会への参加を通して、マーケティング活動も積極的に行っている。2018年からはマーケティング研究会と価値創造委員会を発足し、全社の営業・設計が一堂に会して互いのシナジー効果を出そうと価値創造に向けた議論を継続。これまでに計24回開催している。 最終的に勝敗を決するのはサービスである。グループ3社でシナジーを出し、ものづくりを通じてエンジニアリングサービスの100年企業を実現したい。
出所:関ケ原製作所講演資料よりタナベコンサルティング作成