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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティング メソッド 2024.12.02

「つながる・つなげる価値」で社会課題を解決し成長しよう 中村 敏之

インフレモデルへの転換

バブル崩壊を契機とした「失われた30年」が続いた日本経済が今、大きく変わり始めている。一言でいえば「インフレ経済時代の到来」である。 インフレモデルへの転換のポイントは、新たな地域や社会が必要とする価値(=貢献価値)への全力投資、すなわち、明確な戦略方針のもと、「投資できたものが勝つ」である。一つの事例を紹介したい。   事例1:電気工事業A社 A社は創業以来、「職人ファースト」を掲げながらメンテナンス工事を手掛けてきた地域を代表する老舗企業。業績不振から「再成長」へ向け脱皮すべく、2代目社長が打った最初の一手が、「職人の賃金を大幅(2桁近い)に引き上げる決断と現場への権限移譲を同時に行う」ことであった。 仕事量が安定せず、季節的な繁閑差も少なくなかったA社はこれまで、外注活用型のいわゆる「持たざる経営」を企業活動の中心に据えてきた。 しかし、A社社長は「一流の職人を自前で育成し、その人材が活躍できる会社へ変身しなければ、未来はない」、言い換えるなら、「人的資本経営を行う。つまり、働く場所をつくるという『社会課題』と正面から向き合わなければ、一過性の利益は創出できても、持続的成長はない」と考え、人材育成と職人活躍システムへ全てを注力する覚悟で投資する決断を行った。 その結果、現場での働き方改革が進行。職人からの発案で、新たなサービスのアイデアが登場するなどの相乗効果が生まれ、着実に1人当たり利益も向上しつつあるようだ。 A社は「持たざる経営」から投資を積極果敢に行い、「持つ経営」への転換を図り、再成長を遂げている。経営者リーダーシップのマインドセット、すなわちパラダイムシフトが問われていると考えたい。  

「行政」も戦略パートナーとして捉えよう

  中堅・中小企業における投資原則を一言でいえば「一点突破・全面展開」となる。すなわち、誤解を恐れずに言えば、「全力投資」である。 全力投資が求められるからこそ、経営資源に限りのある中堅・中小企業の鍵となるのが、アライアンス戦略である。企業同士の提携・連携はもちろんだが、それに加えて「行政との戦略的パートナーシップ」が有効な戦略オプションの1つになると提唱したい。 その理由は2つある。1つ目が、多様な社会課題の解決に1社で向き合うには、「ひと、カネ、ネットワーク」に代表されるリソース(経営資源)が決定的に不足してしまうという視点である。そしてもう1つは、地域の成長意欲ある企業を後押しする「行政の政策」が質、量ともにかなり充実してきたことにある。 一例として、経済産業省が2024年に発信した代表的な政策を見ていこう。(【図表1】)   【図表1】政府が成長意欲ある中堅・中小企業をシームレスに支援 【図表1】政府が成長意欲ある中堅・中小企業をシームレスに支援 出所 : 経済産業省資料を基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成   1つが、3月に公表された「中堅企業成長促進パッケージ」※1だ。本パッケージで政府が初めて「中堅企業」を定義し、地域経済をけん引する存在である中堅企業の成長をサポートする施策を打ち出したのである。 そしてもう1つが、6月に公表された「中小企業の成長経営の実現に向けた研究会 第2次中間報告書」※2である。本報告書では、地域を支える中小企業を100億企業へ成長させるため、①成長機会の発掘・成長に資する経営者ネットワーク、②成長資金の調達、③人材の確保・育成と組織体制の構築、などのサポートを行う方向性を打ち出している。 これらの政策の意図は、構造変化に直面する日本経済・地域経済が発展していくために、積極的に投資や賃上げを行う、「地域経済を先導するような企業」の創出を、従来にないくらいの大胆な施策も加味してシームレスかつ積極的に後押ししていくことである。 一例として、前述の3大リソース「ひと・カネ・ネットワーク」視点で「100億企業創出の加速に向けた論点」※3俯瞰ふかんすると、まず「ひと」に関しては、右腕・中核人材確保支援策や専門機関のハンズオン支援がある。 次に「カネ」。「成長企業」にとって、資金調達の多様化は、大きなテーマだが、地域の中堅・中小企業の特徴の1つである、「オーナーシップ」に配慮しながらも、従来型の金融機関からの借り入れに代表される「デットファイナンス」に加え、「エクイティファイナンス」やデットとエクイティに中間にある、「メザニン」型ファイナンスへの取り組みなどが具体的に提言され、『成長資金』確保のハードルを下げる提言がなされている。 そして「ネットワーク」に関しては、経営者ネットワークの構築など、「地域を元気にする主役である地域企業」を積極支援する政策提言が意欲的に示されており、まさに「地域再成長元年」と捉えられる内容とも言える。 つまり今、成長意欲の高い企業には大きなチャンスが訪れているのだ。あらゆるリソースを活用することで、持続的成長を実現すること、そしてより高くて広い視野での経営者リーダーシップが求められる経営環境になってきているのだと、あらためて提唱したい。 ※1 中堅企業等の成長促進に関するワーキンググループ「中堅企業成長促進パッケージ」(2024年3月) ※2、3 中小企業の成長経営の実現に向けた研究会「中小企業の成長経営の実現に向けた研究会 第2次中間報告書」 (2024年6月)

「つながる価値」で社会課題解決し成長しよう

  事例2:小売業B社 こうした動きを先取りし、持続可能な企業価値の創出に向けてビジネスモデルの変革に取り組む企業も増えてきている。 B社は地域を代表する小売業だ。「地域を愛し、地域とともに」という信念のもと、地域になくてはならない企業として、コロナ禍を乗り越え、業績を順調に伸ばしている。 一方、B社の中核となる地域(エリア)は、人口減少スピードが極めて速く、従来型の小売業の事業展開だけでは成長が難しい地域でもある。 そこで、B社は「小売りビジネスから(地域)生活サポートビジネスへの転換」をビジョンに掲げた。モノを売るだけでなく、地域のさまざまなモノやコトをつなぎ、地域を元気にする、文字通り社会価値と経済価値の両立を目指すビジネスモデルへの挑戦である。 一例を挙げるなら、生活者起点で「店頭や接客・サービスの在り方」を再定義した上で、「より楽に、便利に・楽しく」を使命としたデジタル技術を活用した生活プラットフォームを構築するなど、従来の小売企業にとどまらない多様な取り組みで、事業価値とともに、地域価値を高める活動に高い次元で挑戦している。 この取り組みにおいて、大きな役割を果たしているのが、一民間企業や団体の枠を超えた、地域ベンチャー企業や大学などと組む「ビジネススキーム・チーム」であり、「民間活力の価値」に理解ある地方自治体の政策支援だという。言い換えるならば、「産官学連携モデル」がビジョン実現の1つの鍵を握っている。 繰り返しになるが、社会課題を解決することで成長するには、企業同士の連携はもちろん、行政を筆頭にした地域のあらゆる経営リソースをコネクトする(つながる、つなげる)、いわゆる「戦略的パートナーシップ」が有効なのだと提言したい。   ベンチャーなどの企業や地方自治体、大学などと組む産官学連携モデルが、ビジョン実現の鍵を握っている ベンチャーなどの企業や地方自治体、大学などと組む産官学連携モデルが、ビジョン実現の鍵を握っている

ミッション型の柔軟なチームへ

  コネクト(つながる価値で未来を創出)する取り組みにおいて、もう1つ欠かせないテーマが「組織の柔軟性を高める活動」である。 事例3:建設業C社 「地域を元気にし、地方を支える地域ゼネコンも元気にする」というミッションを掲げ、「社会課題解決こそ本業」として、多角的な事業展開に取り組む建設会社C社。 ミッション実現に向け、トップが大切にしている考え方が「チームビルディングを優先する経営」である。社長は口癖のように「戦略より組織風土(を優先する)」と繰り返し社内に伝えている。戦略・計画は大切だが、モチベーションという名の風土が整っていなければ、どんな素晴らしい戦略も、残念ながら機能しない。 一方、少々戦略が未熟(不完全、もしくは途中段階にある戦略)であっても、チームメンバーのモチベーションが高ければ、壁を乗り越え、工夫するプロセスを通じて、成果につながりやすくなり、何より「モチベーションある人の周りには、モチベーションある人が集まる」と考えているからだという。 その意味で、C社経営陣が最も時間を割いて取り組むテーマの1つが、「ミッションの理解と共感」を得るための「車座ミーティング」や「トークセッション」など、社員と経営陣の直接コミュニケーション機会の創出にある。 この活動を通じ、「ミッションに理解あり」と判断すれば、社員の役職や年齢、入社経歴などに関係なく、あらゆる提案や提言を基本受け入れる「ミッション ポッシブル(仮称)」という仕組みをつくっているのである。 社長はこうしたチームビルディングを、基本的なポジションはあるが、柔軟にチェンジし、交代も原則何度でも行える「バスケットボール型の組織」と呼んでいる。(【図表2】)   【図表2】高い柔軟性が特徴の「バスケットボール組織」 【図表2】高い柔軟性が特徴の「バスケットボール組織」 出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成   ボトムアップできる組織風土と仕組みを創り、トップダウンで速やかに物事を動かしていく。C社の挑戦が示すように、社会課題の事業化だからこそ、従来の発想の延長でない取り組みが必要なのである。 「Mission is Your Boss」という言葉を聞かれたことのある方も少なくないのではないだろうか。「真の上司(ボス)は、組織図上の上司ではなく、企業や事業のミッションである」という考え方である。 飛躍的な成長を遂げる世界的半導体企業が、このメッセージを使ったことで、近年注目されている経営キーワードの1つとなっている。 「『儲かるかどうか』ではなく、『必要』だからやる」「その上で事業化し、稼げるようにすることで持続的成長を実現していく」。だからこそ、ただひたすら、その時々に果たすべきミッション(使命や重要な任務)のもとに必要な人が集まり、迅速なトップダウンの意思決定のもと、事業や仕事を行うことで、各々の役割を果たし、価値を創造していく。 米中対立、ウクライナ情勢など、昨今の世界情勢は残念ながら「新冷戦」などとも呼ばれる状況にある。また、AI活用などデジタル革命を前提とする「第4次産業革命」の影響は世界中の企業や個人にとって避けられない。 一方で、日本は少子高齢化、圧倒的人手不足を背景に「社会課題大国」となり、多くの経営者が未経験となる、30年ぶりのインフレモデルへの転換を迎える。前例なき環境下での経営や組織運営が求められる今、前述のようなミッションを軸にした柔軟な組織が、「コネクトモデル」を進化させる。コネクトの求心力はどこまで行ってもミッションであることを提言し、本稿を締めくくりたい。
PROFILE
著者画像
中村 敏之
TOSHIYUKI NAKAMURA
タナベコンサルティング 常務取締役 「次代の後継者、経営者リーダーシップ創造なくして企業なし」をコンサルティング信条とし、事業・組織特性を踏まえた、ドメイン・セクター別事業戦略の構築と実装に注力。「ビジョンマネジメント・コンサルティング(VM経営)」を通じ、100年発展モデルへチャレンジする企業・組織の戦略パートナーとして、クライアントから厚い信頼を得ている。