2024年の平均賃上げ率は5.10%と、2023年の3.58%を1.52ポイント上回り、1991年以来33年ぶりに5%を超えた(連合「2024年春季生活闘争 第7回(最終)回答集計結果」)。人材獲得競争が激しい経営環境においては、今後もこの流れは止まらない。
多くの企業では、「生産性の向上」を経営方針に組み込んでいる。そこで今回は、戦略的なアプローチとして「生産性カイカク」の実例を紹介したい。「カイカク」という表記には、トヨタ自動車の「カイゼン」のように、こうした取り組みが世界モデルへと昇華するようにとの願いを込めた。
まず、最も取り組みやすいアプローチはビジネスモデルであり、「付加価値率カイカク」である。付加価値の決定要素は「独自性と卓越性」だ。技術・商品・サービスにおける独自性と卓越性をいかに磨き抜くか。さらに、ブランディングを必須とし、世界のナンバーワンブランドにまで押し上げる。経済産業省が2020年6月に公表した「2020年版グローバルニッチトップ100選について」によると、選定企業の世界市場シェアは43.4%、営業利益率12.7%(共に全部門平均)だ。
「ハードルが高すぎる」と感じるかもしれない。しかし、経営コンサルティングの現場経験から言うと、付加価値率が最も改善しやすい。顧客ニーズと合致した自社の強みを決め、全社員で継続して取り組む。この2つをやり切ることである。
次は、「ジョブ・リデザイン(仕事の価値)のカイカク」である。仕事の価値を変えていくことであり、具体的にはオペレーション業務を担う人材を、企画業務などのミドルオフィスのスタッフへと変化させる。ある会社は工場を自動化し、工場人材を技術や設計、プログラマーへと転換した。
賃上げの根拠は何か。戦略的には「仕事の価値の向上」である。そして、それは誰がデザインすべきか。もちろん経営者である。
最後は、「経営スピードのカイカク」である。残念ながら、経営スピードを測定する指標は存在しないし、他社との比較も難しい。したがって、このカイカクは経営者の意思でしか実現しない。
まず取り組むべきは、「データの一元化と利活用」である。ERP(統合基幹システム)を導入し、全社のデータをリアルタイムで集め、経営判断し、迅速に対応していく経営サイクルをつくる。また、投資という重要な意思決定の判断基準は「価格よりスピード」である。例えば、設備投資は、価格が1割高くても半分の期間で導入できるならゴーサインを出すといった判断基準である。
この3つの戦略的アプローチの特性は1つ、「生産性は経営者次第」であるということだ。
北海道支社長、取締役/東京本部・北海道支社・新潟支社担当、2009年常務取締役、2013年専務取締役を経て、現職。経営者とベストパートナーシップを組み、短中期の経営戦略構築を推進し、オリジナリティーあふれる増益企業へ導くコンサルティングが信条。クライアントの特長を生かした高収益経営モデルの構築を得意とする。著書に『企業盛衰は「経営」で決まる』(ダイヤモンド社)ほか。