「HRテック」で組織と人材を可視化
人的資本経営が注目される今、PMVV(パーパス・ミッション・ビジョン・バリュー)や事業戦略の実現のため、経営戦略の1つに人的資本戦略を組み込む企業が増えている。
この流れの中で、特に注目を集めているのが「HRテック」である。テクノロジーを活用して組織や人材を可視化し、最適化する手法だ。
企業が理想とする姿を実現するためには、現状を正確に把握し、目標に向けた計画を立てるための指標が必要である。HRテックは、その指標を提供する役割を果たす。
HRテックの領域は、①採用、②人材育成、③組織開発、④エンゲージメント、⑤タレントマネジメント、⑦労務管理(給与・勤怠・経費)と多岐にわたる。
本稿では、組織全体に関わるエンゲージメントの可視化や、人材育成・組織開発(人材ポートフォリオの設計)に関連性の高い「組織・人材特性の可視化」に絞って解説する。
HRテックには導入だけでなく、うまく活用することが求められる。まずは自社の組織・人材に関する現状を数値で把握し、それを定期的に観測することが重要だ。
タナベコンサルティングは、これまで約2500社の組織調査と約70万人の人材分析を行ってきた。この実績を基に、独自のサーベイ(現状を把握するために実施する調査)「HR KARTE(人材カルテ)」を提供している。企業の実態に触れ、経営者とともに課題を解決し続けてきた経営コンサルティングファームだからこそ提供できるツールだ。
HR KARTEは、組織のエンゲージメントを可視化する「Engagement KARTE」と、人材の特性や適性を可視化する「My KARTE」「Leader KARTE」に分けられる。
タナベコンサルティングが提供する「HR KARTE(人材カルテ)」。
「人の性格や能力は組織によって形成される」という考えのもと、人材の特性を可視化する
組織のエンゲージメントを可視化する「Engagement KARTE」
エンゲージメントとは、「組織と個人のつながりの中で育まれる自発的な関係性」を指し、「社員が持つ会社に対する愛着心や思い入れ」と言い換えることもできる。
人的資本経営の指標の1つとして用いられることが多く、エンゲージメントを定点的に観測することで、「PMVVや会社の方針・目標を実現するための企業文化があるか」「社員が仕事に対してやりがいを感じ、働きやすい環境か」を網羅的に判断することができる。
タナベコンサルティングでは、エンゲージメントの向上に着目するだけでなく、「『エンゲージメントの向上』と『会社の持続的成長』の相関関係を捉えることが人的資本経営の本質である」と提言している。そして、この考えを基に、「TCG(タナベコンサルティンググループ)エンゲージメント」というロジックを構築した。
TCGエンゲージメントは、「エンゲージメント(カルチャー+仕事エンゲージメント+組織エンゲージメント)×パフォーマンス(成果)」で表すことができる。
①カルチャー(愛着):意識的・継続的に全社員で育まれた価値観や文化、②仕事エンゲージメント(熱量):働きがい(やりがい)、③組織エンゲージメント(信頼):働きやすさ、というエンゲージメントを測る3つの指標に加え、業績(成果や結果)との相関関係を導くパフォーマンス(成果)指標を設けている。
Engagement KARTEは、現状を可視化するだけでなく、次のアクションプランを考えるためのツールとして活用することに重点を置いている。課題の羅列で終わらせるのではなく、どの課題に対してアクションプランを打てば、最も効果的にエンゲージメントを向上させられるのか、各社の現状を踏まえた上で優先順位を付けて提言している。
人材を可視化する「My KARTE」「Leader KARTE」
人的資本経営を進める上で重要なのは、将来の理想的な人材ポートフォリオを描き、その実現に向けて計画的に人材育成を行うことだ。まず、自社にとって必要となる人材を明確に定義し、その目標に向けて自社の人材の特性や適性を把握することが求められる。このプロセスを支援するツールとして、HR KARTEは非常に有効である。
HR KARTEで判断できる項目で最も重要なのが、「性格特性」である。図のように、人の性格はいくつかの階層に分かれており、最も根底にある「気質(本能・感情)」は生まれながら持っているもので、「原体験・潜在意識」は幼少期に育まれてきたものであるため、変化を促すことは容易ではない。しかし、その外側に位置する性格特性(行動・態度・物事の考え方)は、個人の意識や周囲の働きかけによって変えることができる。
性格特性は、仕事をする際に最も表れるものであり、個人のキャリアステージが変わるたびに変化させるべき要素だ。そのため、組織として把握しておくことが重要である。
HR KARTEで判断する内容は、「変化するものである」という前提に基づいており、利用者には意識的かつ継続的な行動が求められる。会社としては環境や仕組みを整備し、個人としては行動や考え方を変えていくための自己啓発の材料として活用することを推奨している。
My KARTEは、全社員を対象に実施が可能で、個人の性格特性や「職務特性」を可視化するためのツールである。個人の行動特性や考え方の癖を把握できるため、人材育成や適材配置の検討に役立てることができる。また、すでに行っている施策の効果測定としても活用できる。配置転換や人材育成の効果を検証するために活用している企業も多い。
Leader KARTEは、リーダーとしての適性や性格特性を可視化するツールである。特長は、性格特性の把握だけでなく、リーダーとしての適性も重視している点にある。組織の成長を支えるリーダーには、判断基準や行動特性が組織運営に適しているかどうかといった適性が求められる。
Leader KARTEは、適性に応じた幹部や管理職の配置、そして育成に役立てることができる。管理職登用のための1つの基準として活用している企業や、リーダー層のみの人材ポートフォリオを描き、理想を実現するために利用している企業もある。
人的資本経営の推進において、目標を明確にして、そこに向けた施策の検討を行うためにも、まずはHRテックを活用して組織や人材の現状を可視化することが重要である。
HR チーフマネジャー
社員が働きやすく、長く貢献できる組織づくりをテーマに、多くの中堅・中小企業向けの人事制度構築や教育制度構築に携わる。フレッシュな発想とナラティブ・アプローチでコンサルティングプロジェクトに取り組んでいる。また、セミナー・研修での指導やコーディネートを通じて中堅・若手・新入社員の成長を支援している。