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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2024.07.01

中小・中堅企業が成長のチャンスをつかむためのメソッドとは? 巻野 隆宏

中堅企業に期待される役割

 

2024年2月、政府は中小企業と大企業の間の層として「中堅企業」を法律上の位置付けとして新たに設定した(【図表1】)。中堅企業は、従業員数2000人以下の会社・個人であり、従業員数300人以下または資本金3億円以下(製造業などの場合)と定義されている中小企業を除く。

 

中堅企業の定義

出所 : 首相官邸ホームページ「中堅企業成長促進パッケージ」よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

 

中堅企業の定義は、「中小企業を卒業した企業であり、規模拡大に伴い経営の高度化や商圏の拡大・事業の多角化といったビジネスの発展が見られる段階の企業群」となっている。

 

回、経済産業省が中堅企業を定義した背景には、中小企業ではないものの大企業ほど経営資源などがそろっておらず、これまでさまざまな公的支援の恩恵を受けづらかった企業規模である中堅層を明確に区分することにより、成長のための支援策を打ち出せるようにする狙いがある。成長投資や税制優遇、補助金といった支援策は、成長を志向する中堅企業にとっては大きなチャンスとなる。

 

しかし、経営資源の不足などによりうまくこの流れに乗れない企業にとってはライバルとの格差が広がる可能性もあり、中堅企業の成長格差が拡大することも考えられる。今回の政策は、中堅企業にとってチャンスともリスクともなり得ると言って良い。

 

一方、中堅企業には地域経済をけん引する役割への期待が込められている。社会課題の解決のためにも中堅企業は成長しなければならない。そのように考え、本稿では今回の政策をチャンスと捉え、中小企業が中堅企業へ成長し、中堅企業がさらなる成長を遂げるために必要な要素を「1・3・5の壁」という経営メソッドとともに提言する。

 

タナベコンサルティングでは、長期ビジョン・中期経営計画について、全国の企業経営者や役員などを対象に、毎年アンケートを実施している。2023年度調査(有効回答数468件)の結果によると、長期ビジョン(10年以上先の未来に在りたい姿)を策定している企業は34.0%であり、割合は年々増加。中期経営計画(3~5年の経営計画)に関しては81.2%の企業が策定している。

 

また、長期ビジョン・中期経営計画における重点テーマ(複数回答)については、第1位が「収益改善、新商品・新事業開発」(66.2%)、第2位が「人的資本経営・人材育成・採用(タレントマネジメントなど)」(40.6%)、第3位が「事業ポートフォリオ戦略策定・転換」(36.3%)となっている。

 

つまり、事業規模を拡大させるための事業戦略と、それを支える人材面での経営戦略が、中長期での重点テーマの上位となっているのだ。

 

このように自社の成長に向けた事業・経営の重点テーマを各企業が掲げているが、実は事業規模によって留意すべき具体策が変わってくる。

 

企業が規模の成長を目指すに当たり、乗り越えなければならない事業面・経営面での壁がある。タナベコンサルティングでは、これまで67年に及ぶコンサルティング実例より、その壁を1・3・5の壁(【図表2】)として体系化している。

 

【図表2】タナベコンサルティングが提唱する成長の壁突破のための経営メソッド「1・3・5の壁」

 

 

 

成長するためのチェックポイント「1・3・5の壁」

 

売り上げ規模が100億円、300億円、500億円を超える際に、それぞれ整えなければいけない課題がある。言い換えると、ステージが変わるために現れる壁であり、新たなステージで正しく成長するために、規模の壁に合わせて体制を整えることが必要となる。

 

例えば、売上高90億円まで順調に成長してきた企業が、100億円の規模になると成長の壁にぶつかり、頭打ちとなることがある。これは300億円、500億円でも見られる現象であり、タナベコンサルティングでは1・3・5の壁と呼んでいる。100億円企業にはその規模なりの事業や経営の要諦があり、300億円規模の企業には100億円規模の企業とはまた違った事業・経営の要諦がある。

 

売上高100億円の企業は、売上高300億円となった段階での事業や経営を当然ながら経験しておらず、その規模における課題が分からない。その規模になって初めて課題に直面し対処するとなると打ち手が遅れる。未知の成長段階における重点課題を事前に知ることができれば、整えるべき課題へ先手で取り組むことができる。そこに1・3・5の壁をチェックする大きな意義がある。

 

1・3・5の壁は「トップマネジメントと経営」「販売・マーケティング」「生産・開発」「人事労務」「経理財務」の5つの視点で確認することができる。本稿ではその中でも「トップマネジメントと経営」について、100億円・300億円・500億円のそれぞれにおける壁を整理する。

 

 

PROFILE
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巻野 隆宏
Takahiro Makino
タナベコンサルティング ストラテジー&ドメイン エグゼクティブパートナー
専門分野は事業戦略の立案をはじめ開発・マーケティングなど多岐にわたる。中小企業、中堅企業から大手企業まで、数多くの企業の持続的な変化と成長をサポートし、志ある企業・経営者のパートナーとして活躍中。「高い生産性と存在価値の構築」を信条とし、明快なロジックと実践的なコンサルティングを展開。建設業、製造業を中心に、事業の選択と集中による高収益ビジネスモデルへの変革を手掛けている。