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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2025.02.03

一本の植物に真心を乗せて世界一の園芸会社へ挑む ユニバーサル園芸社 代表取締役会長 森坂 拓実氏

さらなる高みを目指して業界では異例の上場を果たす

若松 人的資本経営が注目されていることもあり、追い風が吹いています。国内のレンタルグリーン市場では断トツのナンバーワンを獲得するなど地位は盤石です。ライバルが存在しないようにも見受けられます。

森坂 実は、この業界には住友や三井、西武といった大手企業の系列会社が参入しており、そうした親会社が運営するビルと取引するのは簡単ではありません。一方、かつての当社のような創業10年、20年ぐらいの企業が必死になって市場の切り崩しを図っており、両方の強敵に挟まれている状況です。

そもそも、ビルの建て替えや事業所の引っ越しは定期的に発生するので、取引期間は平均5、6年。ですから、10年後はどうなっているか分かりません。今もライバルだらけですから、コツコツとお客さまをつくり続けないといけません。

若松 常に顧客創造が求められる業界において、ナンバーワンであり続けるのは並大抵のことではありません。そうした中、2012年に東京証券取引所JASDAQ市場(現スタンダード市場)に上場されました。造園や園芸の業界で上場するのは、とても珍しいように思いますが、決断された理由は何ですか。

森坂 いまだに同業の経営者からは「なぜ上場したのか?」と聞かれますが、小さな業界で自社がそれなりの規模になり、社員にちゃんと給料が払えて、私自身も自動車や家が買えるようになると満足します。そして怠け者になる。そうならないために、外圧を期待して上場したというのが1つ。

もう1つは、優良企業であっても中小企業の認知度は低く、正当に評価される機会が少ないからです。客観的に評価される場所に出たいと思い、上場しました。

若松 より高みを目指すための手段であり、存在を証明するための上場。誰もしていないことに挑むパイオニアスピリッツを感じます。

森坂 今でこそ世界一の園芸会社を目指していますが、実は昔は税金を払いたくないと思っていました。一生懸命に働いても利益の半分が税金に持っていかれるのは納得できなくて。しかし、今は税金を引いた残りが本当の利益だと考えています。納税は最高の社会貢献であり、誇るべきこと。私の場合、そのように意識を変えるのに10年掛かりましたが、その山を越えると中小企業は大きく伸びていくと思います。

若松 その通りですね。会社は「生業、家業、企業」と成長していきますが、意識改革が企業化の1つの鍵になります。節税は大切ですが、経営者がその対策ばかりに励むようになると企業は成長しません。創業10年、年商10億円が会社の“成人式”。そのあたりで意識を変えないと、家業の域を出ることはできませんからね。

会社は世の中に貢献するために存在する

若松 経営理念を拝見して非常に共感しました。世界一の園芸会社を目指す理由や人材育成、利益などについても考え方を明確にされており、どのような会社かよく分かります。(【図表】)

図表】ユニバーサル園芸社の経営理念と展開事業

出所 : ユニバーサル園芸社ホームページを基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成

森坂 「世の中」とは誰を指すかと言えば、社員であり、お客さまであり、周りの人々であり、国家であり、最終的には植物を通して世界に貢献していくことが使命です。きれいごとになってしまいますが、一本の植物に真心を乗せて一歩ずつ努力していくことが地球のためになると信じていますし、この思いに社員も共感して頑張ってくれています。

若松 森坂会長の思いがしっかりと届いていることは、実際に私が接した社員の方からも感じました。誇りを持って仕事をされていると。

森坂 ありがとうございます。もともと当社ではチームで動いており、設計者や営業担当者も複数の役割をこなしています。例えば、契約が取れたらチームでグリーンを飾りに行きますが、植物を入れると空間がパッと華やかになり、お客さまがとても喜んでくださいます。その姿を見ている社員もうれしくなるでしょうし、仕事に誇りが持てます。

若松 園芸事業は、お客さまの喜ぶ顔を間近で体感できる素敵な仕事ですからね。今後の会社としてのビジョンや目標について、どのようにお考えですか。

森坂 「世界一の園芸会社」の実現に向けて、グループ売上高300億円を1つの目標としています。ただ、規模に合わせて会社の形を変えていく必要があるかも知れません。

若松 TCGが提言している「1・3・5の壁」を乗り超える必要があります。中堅企業は売上高100億円、300億円、500億円、1000億円と、いわゆる「1・3・5」で成長の壁に当たります。それを超える経営環境の整備が必要です。例えばホールディングス化は、M&Aでグループインした会社も含めてバランス良く経営しやすい側面はあると思います。規模が大きくなるほど海外を含めた事業を1人で見るのは難しくなります。個々の事業は各事業会社の社長に任せて、全体をホールディングスで見ていく方法です。

また、事業承継をどう考えるかによって変わってきますが、ホールディング会社と事業会社の承継を分けて考えられる点もメリットの1つです。

森坂 なるほど。今でも事業会社や拠点はそれぞれの責任者に任せていますが、視野に入れておくべきですね。まずは、売上高300億円を目指して一歩一歩、社員と積み重ねていきたいと考えています。

若松 遠くない未来に必ず実現されると確信しています。今回は経営理念や人材育成、事業戦略を通して森坂会長の経営哲学を伺い、大変勉強になりました。ありがとうございました。


ユニバーサル園芸社 代表取締役会長 森坂 拓実(もりさか たくみ)氏
1948年福井県生まれ。1968年ユニバース園芸(現ユニバーサル園芸社)創業。

(株)ユニバーサル園芸社

  • 所在地 : 大阪府茨木市佐保193-2
  • 創業 : 1968年
  • 代表者 : 代表取締役会長 森坂 拓実、代表取締役社長 安部 豪
  • 売上高 : 168億5900万円(連結、2024年6月期)
  • 従業員数 : 1350名(連結、2024年6月期)

 

若松 孝彦 わかまつ たかひこ
タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長
タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。

1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『チームコンサルティング理論』『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

タナベコンサルティンググループ(TCG)
大企業から中堅企業のビジョン・戦略策定から現場における経営システム・DX実装までを一気通貫で支援する経営コンサルティング・バリューチェーンを提供。全国660名のプロフェッショナル人材を有し、1957年の創業以来17,000社の支援実績を持つ日本の経営コンサルティングのパイオニア。