【第1回の趣旨】
デフレからインフレ経済へと移行する中で、企業が適正な利益を確保し成長するには、新たなファンを創造することが不可欠である。そのためには、営業活動の一環としてではなく、中期ビジョン実現の一環として顧客創造を捉え直し、仕組み・体制・制度を経営者主導で構築したい。顧客創造モデル研究会では、顧客創造の仕組みだけでなく、体制や制度にも注目し、時代に合った“顧客創造モデル”を実現している企業を研究する。
第1回は、10年以上にわたり驚異的な売上成長率を維持している 株式会社オープンハウス、株式会社キーエンスの2社が登壇。売上成長の源泉である顧客創造戦略、DX活用、成長し続けるための組織風土の醸成についてご講演いただいた。
開催日時:2025年2月4日~5日
株式会社オープンハウスグループ 情報システム部 係長 多田 莞司 氏
株式会社オープンハウス ウェルスマネジメント事業部 管理部長 林 秀樹 氏
はじめに
株式会社オープンハウスは、1997年に創業し、現在6107名(2024年9月末時点)の従業員を擁する総合不動産企業である。創業以来、住宅販売事業を中心に成長を遂げ、独自のマーケットイン戦略によって、上場以来12期連続で過去最高売上高を更新し続けている。同社のマーケットイン戦略は、従来の電鉄・財閥系デベロッパーが行う 郊外の大規模開発型提案とは異なり、都心部の小規模な土地を活用して住宅を建設する手法を採用している。この独自戦略が功を奏し、2024年9月期では売上高1兆2958億円を達成。東証プライム市場の売上高7000億円以上の企業の中で成長率1位を誇る。
成果や成長を重視する求職者からの人気が高く、文系学生が選ぶ「就職注目企業ランキング2024」では2位にランクイン。中途採用においても、元アナウンサーや公務員など、多様なバックグラウンドを持つ人材が集まり、活躍している。
オープンハウスグループ GINZA SIXオフィス
買い手と地主の思いに応える顧客創造戦略
共働き世帯の増加により、近年は都心部に住宅を持ちたいというニーズが高まっている。一方で、物件価格の高騰により不動産保有のハードルが上がっていることが課題だ。この市場変化を的確に捉えたのがオープンハウスである。同社は、土地割の工夫や限られた土地を最大限活用する設計技術により、都心でも手頃な価格で住宅を提供している。例えば、渋谷区であれば一般的なハウスメーカーが約1.8億円かかるところを、同社では約8700万円で建設している。
戸建販売の40%は駅前での営業パーソンの地道な声掛け営業が成約に至っている。土地の取得においても営業パーソンが1日50社近くの不動産会社を訪問し、狭小地などの一般の住宅メーカーが利用できない土地の情報を習得し、成約につなげる。「他社がやりたがらないことをやり切る」ことが同社の顧客創造の源泉である。
驚異的な売上成長率をサポートするDX戦略
同社では業務効率化による営業パーソンの顧客接触時間を最大化し、売上成長の実現を目指す。業務効率化のため、システム構築は分業せず、専任の担当者が責任者となり、企画から運用まで一気通貫で進める。これにより、迅速な意思決定と現場導入のスピード向上を実現している。また、現場施工管理アプリ「Architect Jump」を導入し、情報を「探す」「伝える」時間を削減することで、顧客対応に集中できる環境を整備した。この取り組みは、2022年度に施工管理の業務生産性を上げる取り組みとしてグッドデザイン賞を受賞した。
同社のトップは「物事を小学5年生でも理解できるレベルにすること」 を重視し、複雑なシステムよりも、現場での実用性を重視したDXを推進する。
講演はGINZA6にあるウェルスマネジメント事業部の顧客向け説明会会場で実施。
高級感のある会場デザインは、顧客の購買意欲を高める
全社員が日本一の不動産会社を目指し続ける風土
オープンハウスの最大の強みはトップの価値観が一般社員にまで浸透していることだ。「成長がすべてを解決する」「自分が欲しくないものを人に売らない」といった価値観を全社員が理解し、お客さまのニーズを徹底的に追及していることが同社の成長発展の根幹にある。
採用・評価制度においても同社の価値観が反映されている。採用ではスキルより「やる気」を重視。「目標達成の先に、さらなる価値を生み出せる人材」を求めている。評価制度は年4回の契約ベース評価を導入し、結果を出した社員には迅速に新たな仕事を任せることで、さらなる成長機会を提供している。この 「成果を出す→評価する→新たな挑戦を与える→企業が成長する→新しい取り組みを行う」というサイクルを確立することで、高成長を実現している。