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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2025.04.30

人が全て、だからこそ「教育は理念から」 サクラパックス

北陸・信越エリアを拠点にトータルパッケージサービスを提供するサクラパックス。
経営理念に基づく教育を、人材育成や事業拡大、社会貢献活動など全ての行動につなげる「理念ドリブン経営」を実践し、業績と存在感を高めている。

 

経営理念をベースに置く教育を徹底

 

タナベコンサルティング・番匠(以降、番匠) サクラパックスは創業から78年の歴史がある段ボールメーカーであり、梱包こんぽう材や緩衝材、繰り返し使える樹脂製の箱など、顧客の包装・梱包に関する幅広い問題解決を支援するトータルパッケージ企業です。

サクラパックス・橋本氏(以降、橋本) 私は2008年に3代目社長に就任しました。北陸・信越エリアを中心に、北は山形県、西は滋賀県、南は岐阜県まで事業を展開し、売上高は連結で134億円、利益も10億円を超え、社員数は398名に増えました。1日に約34万枚の段ボールを作っていますが、最も得意としているのは構造設計が伴うパッケージです。輸送の際、パソコンなどが壊れないよう、緩衝材も含めて全て段ボールで包装された箱は、皆さんもご存じでしょう。これは環境面に配慮して発泡スチロールなど他の材料を使わず、構造は複雑ですが、組み立てやすいといった優れた特性があります。

番匠 橋本社長は2022年に『理念ドリブン~旧態依然とした会社を継いだ3代目経営者の組織改革』(幻冬舎)という書籍を出版されました。

橋本 「全ての教育は理念から来ている」という、経営理念をベースに置く当社の教育の考え方を解説した本です。例えば、目の前にAという山があるなら、頂上は経営理念、進むべき方向であり、全社員がその頂きに向かっていくのが強いチームです。でも、Bの山を目指したり、山には登りたくないと言う社員がいると、チームはバラバラになります。また、Aの山が雪山やクマが出るような山だった場合、手ぶらのTシャツ姿で登ると、痛い目に遭ってしまいます。そうならないように、山に登るための服装や武器を持つのが「戦略」です。

番匠 明確な理念と戦略、その両輪があって初めて経営が成り立つのは、企業規模で変わるものではありません。ただ、「理念で飯が食えるのか」「利益が上がるわけがない」と考える経営者もいます。

橋本 段ボール業界は全国に二千数百社あって、それぞれに理念が違います。当社は理念ドリブンの教育を進めることで会社と社員が変わり、15年間で売り上げが約83%増となり、利益も倍増し、自己資本比率は83%に伸びました。何を扱うかではなく、どんな考え方で経営をするかが大事だということです。

世界的な人気のゲーム機も、ソニーの「PlayStation」は「Play Has No Limits」(遊びの限界を超える)というキャッチコピーなのに対し、マイクロソフトの「Xbox」は「When everyone plays, we all win.」(みんながプレイすれば、みんなが勝者になる)といったように、考え方が異なります。どちらが正しいかではなく、理念が違うと売り方が変わり、対象者も変わるため、おのずと結果も変わるのです。

 

行動を起こし世の中を変えるアウトプットを

 

番匠 理念経営へかじを切る転機が、2011年の東日本大震災でした。

橋本 復興に向けたボランティア活動を続ける中、たくさんの「ありがとう」という感謝の声と笑顔に出会いました。その時に「笑顔のない世界を、心から笑顔にしたい。誰かの笑顔のために生きることをテーマに掲げて進もう」と強く思いました。その考え方を会社に持ち帰り、管理職と合宿して「100年後のサクラパックスをどうしていくべきか」を共に考え、経営理念「ハートのリレーで笑顔を創り、世界の和をつなぐ。」を策定しました。

例えば、チョコレートメーカーは食べてくれる人のことを考えて製品を作るでしょう。その思いを当社がパッケージに包み入れてチョコを待つ人に届けることで、食べる人が笑顔になる。そんな笑顔を世の中にたくさん創出する会社でありたいし、それは世界平和にまでつながると信じています。

番匠 経営理念をより具体化する「Mission Statement」「誓いと行動指針」を制定し、「サクライズムブック」として1冊にまとめられました。

橋本 当社の理念、思想、考え方の全てが書かれていて、全部で245ページ、80項目に分かれています。理念の完成はスタートでしかありません。つくってから浸透し、行動を起こして世の中を変えるところまでいかないと、経営理念に意味はありません。

だから理念は最大の教育だと思っていますし、大事なのはアウトプットし続けることです。ミーティングの始まりに80項目の中から1つを読み、20秒以内で意見や感想を語ることを実践しています。たった20秒でも、月に数十回、年間で数百回とアウトプットを重ねることで、全社員に浸透するようになりました。他にも、毎月の給与袋に社長メッセージを同封して渡したり、社長会という懇親会を開いて1人ずつ私に3つの質問をしてもらったりと、理念が腹落ちするような仕掛けをいくつもつくりました。

番匠 サクライズムブックは「お客さま本位」と「世のため人のために」の2つの考え方が根幹です。

橋本 段ボールを作る、安く売る、質を良くする、早く届ける。それは当たり前のことなのに、それしかできない、とても利己的で自社都合の強い会社でしたが、お客さま本位を徹底することで大きく変わりました。

包装パッケージやテープ・緩衝材の梱包資材、紙以外の樹脂製の箱など、お客さまの本来のニーズやお困り事を聞き出し、どうすればもっとお客さまの商品が売れるかを考えるセールスプロモーション事業や棚づくりのディスプレー事業も始動しました。さらに、食品・工芸品メーカーのお客さまが多い北陸三県の「良いもの」を集めたセレクトショップ「the Made In」を立ち上げ、ECサイトでも販売しています。事業の幅が大きく広がり、現在、取扱製品は5倍に増えました。

 

外部人材の採用・定着にも失敗しない

 

番匠 もう1つの根幹である「世のため人のために」は、ソーシャルグッドを当たり前にする考え方です。

橋本 最大の使命は社会貢献だと思っています。納税や雇用促進は当然で、当社の専門性は「段ボールと設計」です。本業の専門性を生かした社会貢献にこそ意味があり、最も大事なことです。

2017年の創業70周年時に、社員から「いま一番笑顔じゃない人を笑顔にしましょう!」と提案をもらい、2016年の熊本地震からの復旧・復興のため、「熊本城組み建て募金」事業を立ち上げました。熊本の方々にとって誇りである熊本城が崩れ落ちた姿を見て、地元の方々は笑顔でいられるはずがありません。小さな熊本城の段ボール製キットを2万5000個販売し、売上金額の全額を熊本城復興のために寄付。募金総額は5000万円を超えました。また、熊本地震を風化させない仕組みとして、キットを1つ組み立てるのに、1人当たりおよそ37分かかります。世界中の方々が熊本城のことを考えて1万4000時間かけた思いとともに、熊本県に贈呈し、本当に喜んでいただきました。


高さ約9cmの小さな熊本城の段ボール製キット(1個2000円)を2万5000個販売し、売上金額の全額を熊本城復興のために寄付し、募金総額は5000万円を超えた
番匠 コロナ禍には段ボール製のパーテーションを作り、全国の病院400施設に8000枚を寄贈されたほか、2024年の能登半島地震後には、被災地の避難所を回って段ボール製のベッドとパーテーションを1500個無償提供されました。

橋本 工場で働く社員は、営業担当者のようにお客さまや世の中と接する機会は少ないですが、こうした社会貢献に参画することで「世の中の人はこんなに喜んでくれて、笑顔にできるんだ!」という経験につながります。

仕事のことを考えて過ごす日々をやりがいある時間にし、モチベーションを高めるために、社員に対し「想像を超えて大切にする」「存在意義を認める」ことも大事にしています。同業他社を10%上回る給与を3年連続で達成し、昇給も続けています。映画のアカデミー賞に倣って「アワード」(褒賞大会)を毎年開催し、社員を必ず名前で呼び「○○さんがいてくれるから、サクラパックスは成り立っているんですよ」と伝えています。

番匠 実父である先代社長はトップダウン型の経営でサクラパックスを中堅企業へと成長させましたが、一方で人材の登用や教育は後回しになっていたのですね。

橋本 経営理念もなく、役員は執行役を担えても経営的な役割が分かる人はいませんでした。私が社長になってからは経営者人材の世代交代を進め、30歳代、40歳代を幹部候補に育てています。

経営理念の浸透は、育成だけでなく採用にも驚くほどの効果を生みました。育つのを待つだけでなく、20名採用した外部のプロ人材も、うまく溶け込んで定着しています。採用面談で「こんなことをやって、世の中を笑顔にしている会社です」と伝えると、とても敏感に受け止めてくれます。理念がフィットする人しか採用しないので、すぐに離職しないと実感しています。

最後に、トップリーダーであるために、私なりに思う心構えを紹介します。日本経済が厳しさを増していく中で、圧倒的に勝っていくために何をすべきか。その答えはやはり「人」だと思います。理念の浸透や人材育成に秘策はありませんし、人は簡単には変わらないので時間もかかります。採用が難しい時代に、経営者にとって最も重要な仕事は今いてくれる人、これから入ってくれる人をいかに育てていくかです。「そこまでやるか!」と言われるほどに、じっくりとやり続けてください。

※ 社会に対し良いインパクトを与える活動・サービス・製品などの総称。自社利益を確保するだけではなく、社会貢献を通して自社の存続意義を示すこと


サクラパックス 代表取締役社長 橋本 淳(はしもと あつし)氏
1994年法政大学経営学部卒業、1996年11月サクラパックス入社。専務、副社長を経て2008年、代表取締役社長に就任。2011年に日本青年会議所副会頭を務め、防災担当として東日本大震災の復興に取り組む。社長就任後、会社を創造性豊かな企業へと大きく作り変えた。2022年富山商工会議所副会頭に着任。現在はトータルパッケージサービス企業として事業領域を拡大し、社会貢献事業も多く手掛け、グループ全体で社員数約400名と北陸屈指の有望企業となっている。

 

サクラパックス(株)

  • 所在地 : 富山県富山市高木3000
  • 創業 : 1947年
  • 代表者 : 代表取締役社長 橋本 淳
  • 売上高 : 134億円(連結、2024年3月期)
  • 従業員数 : 398名(連結、2024年3月現在)
PROFILE
著者画像
番匠 茂
SHIGERU BANJO
タナベコンサルティング
上席執行役員
理念を実装させるパーパス経営の確立から、成長戦略や新規事業開発などのサステナブル経営に必要不可欠なコンサルティングなど、ビジネスドメイン戦略を提供している。トップ・幹部と一体になった実践的な取り組みにより、クライアントへの熱い思いをベースに数多くの各企業にとって最適なビジネスモデル改革を支援している。